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『涼宮ハルヒの憂鬱』の(批判的)継承者たち

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 この時期になると、『涼宮ハルヒの消失』が見たくなる。ちと長いのが欠点だと思うが、見ている側をも不安に陥れる演出の妙、それを突破するカタルシスにはえも言われぬものがあるなと再確認。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』は、多くの人間をこの道にいざなった。かくいう自分もその直撃世代のひとりである。『涼宮ハルヒの憂鬱』が、その後のアニメに多大なる影響を与えたことは間違いないであろう。果たしてその影響とはいかなるものだったのか。いわゆる「ハルヒ世代」として、また何より素人の立場からそんなことを考えてみたい。

 時系列シャッフルという手法

 『涼宮ハルヒの憂鬱』の特筆すべき演出上の手法といえば、やはりエピソードの順序を入れ替えて視聴者側に提示する、いわゆる時系列シャッフルがあげられるだろう。最初のエピソードである「涼宮ハルヒの憂鬱」を6分割し、その合間に1話完結のエピソードを挿入するというのが、第1期のハルヒにおける時系列シャッフルの使い方である。その後のソフト化された際や、第2期が放映された際には、時系列順にエピソードが再提示されており、時間は単線的に流れている。つまり、時系列がシャッフルされた『涼宮ハルヒの憂鬱』を体験できたのは、リアルタイムで放送を追っていた人だけということになる。時系列シャッフルは、『涼宮ハルヒの憂鬱』にとって必然的な、これしかない手段というものではない。あくまで当時の視聴者(特に原作既読者であろう)を引き付ける手段であったといえる。

 時系列シャッフルの手法が使われている映画といえば、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『21グラム』などが挙げられるが、ハルヒ関係者のインタビューなどは手元に無いので、それらの影響があるかはわからない。ただ、ハルヒはその2者ほど視聴に集中力を要しない上、Blu-rayやDVDでは時系列は整理されているわけだから、影響下にあるとはいえないだろう。

 

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 ハルヒ以後のアニメ作品で、時系列シャッフルの手法が使われている作品はどんなものがあるか。おそらく複数あるのだろうが、その代表例として挙げたいのが、2008年に放映された『バッカーノ!』である。『バッカーノ!』では、1930年、1931年、1932年それぞれに対応する3冊の原作を再構成し、その3つのエピソードを同時に描く、という手法がとられている。1-3話では、それぞれの年の出来事が時間軸をバラバラにされて提示されていくが、4話で時制の混乱はとりあえずなくなり、以降それぞれ3つのエピソードのなかで時間は単線的に流れていく。

 そもそもの原作が、まったく関係ないように思える多数の登場人物による複数のエピソードを同時並行に描き、それがクライマックスで1つに収束するという、ガイ・リッチー監督作品的な構成をとっているため、それが時間軸さえもバラバラになっている1-3話は、原作未読者にとってツライ構成ではないかと思う。しかし、この構成は作品全体としては、アニメ版『バッカーノ!』の独自の魅力を引き出す、挑戦的な試みであったのではないか。

 脚本・構成を担当した高木登氏は、映画『21グラム』の影響が強いと述べているが、*1時系列シャッフルをアニメで行なうということで『涼宮ハルヒの憂鬱』が想起された可能性はなきにしもあらずだろう。流石に『バッカーノ!』はハルヒの継承者なのだ、と声高に主張することは憚られるが、こうした構成の作品が受け入れられる土壌をつくったという点において、ハルヒの影響が垣間見られるのではないだろうか。

 

ループ展開

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 また、『涼宮ハルヒの憂鬱』を語る際には、あの「エンドレスエイト」を欠かすことはできないであろう。何度も何度も終わらない8月を繰り返すというこのエピソードは、類似品には事欠かないだろう。映画なら『恋はデジャブ』、アニメなら『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』あたりが代表例か。

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 ハルヒ以後でこの同一時間軸の繰り返しを効果的に用いたアニメ作品といえば、『四畳半神話大系』ではないだろうか。この作品では、主人公が、1話ごとに異なるサークルに入って大学生活を謳歌しようとするが、何度も上手くいかず、そのたび大学の時計が巻戻る演出がなされ、次のエピソードでまた振り出しの入学時にもどるという構成になっている。終盤で、時間が巻戻って繰り返しているのではなく、パラレルワールドが無数にあることが示されるが、前述の時計の演出はまさにループ物を想起させる。『四畳半神話大系』には原作が存在するが、アニメではオリジナルのエピソードを追加することで10回もの大学生活を、(大体)1話完結で描いた。

 8回の夏休みを描いたハルヒと、10回の大学生活を描いた『四畳半神話大系』。その内容の差異は歴然であるが、同一のフォーマットに乗っている作品ということで、『四畳半神話大系』は「エンドレスエイト」を批判的に受け継ぎ、継承した作品なのだ。

 

 以上特にオチのない話を延々書いてきたが、あれだけヒットした作品にも関わらず案外ハルヒの影響って語られていない部分が少なくないんじゃないかと思ってこの文章を書こうと思った。単に萌えの対象として消費されるのには惜しい作品だと思うので、今後も機会があれば俺なりの「ハルヒ論」をぶちあげていきたい。それが、俺を引きずり込んだ、この作品への愛情表現の一つの形だと信じている。

 

バッカーノ! Blu-ray Disc BOX

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*1:『BACCANO! Blu-ray Disc Box』付属の小冊子より