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網野善彦 宮田登『歴史の中で語られてこなかったこと 』を読んだ

 

新版 歴史の中で語られてこなかったこと (歴史新書y)
 

  『歴史の中で語られてこなかったこと 』を読んだ。歴史家網野善彦氏と、民俗学者宮田登氏の対談を集めた本。冒頭に、『もののけ姫』の話題があったのでなんとなく手にとって読んでみたが、大変面白かった。宮田登氏については他の著作を読んだことがないのでなんともいえないが、網野氏については、その問題意識がかなりはっきりと表れているなと感じた。でも、『もののけ姫』というとっかかりがあるとはいえ、これを最初に読んでもよくわからない気もする。

  本書は2部構成になっていて、第一部が1997年に行なわれた対談で、ページ数の約半分を占め、網野・宮田両氏が様々なトピックについて縦横に語る。第二部は、80年代から90年代半ばまでの対談をいくつかまとめたもの。

 特に面白いのが第一部で、宮田氏のあとがきによると酒が入った状態での対談だったらしく、網野氏の舌鋒の鋭さが読んでいて面白い。自らを「壊れたレコード」と自嘲しながら、自分の問題意識を熱弁する網野氏の語り口が魅力。特に強調される問題意識は以下のようなものか。

  • 百姓=農民、という固定観念の否定
  • 軽視されてきた、稲作以外の農業(養蚕等)に光をあてること
  • 歴史学と民俗学の協調

 そんなわけで、自分的には網野さんの問題意識がはっきりつかめたという収穫があった。また、全ての歴史家は通史を書くべきである、という網野氏の主張が特に心に残った。この主張は、『日本社会の歴史』に話が及んだ時に出たものである。『日本社会の歴史』に対する網野氏のスタンスは、その根底にある「網野史観」を提示するひとつの試論である、ということだった。

 それぞれの歴史家や歴史の教師は、それぞれが個別の研究論文や指導の際に、無意識的に自分の「史観」に裏付けられた主張をしているはずである。その自分なりの歴史像を、意識化し、可視化すること。そうまでしなくても、なんらかの展望を持つこと。このことを、若い人たちにはしてほしい、というのが本書第一部の締めくくりだった。歴史に関わるものとして、忘れずにいたい。

 

 

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

 

 

 

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

 

 

 

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)