宇宙、日本、練馬

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『キャプテン・フィリップス』 命の価値は

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 『キャプテン・フィリップス』を字幕版で鑑賞。ソマリアで海賊に人質に取られた貨物船の船長の話で、『ボーン・アルティメイタム』のポール・グリーングラスが監督していて、トム・ハンクスが主演、ぐらいの前情報しかない状態で見た。予告編もまだ見ていない。しかし、なんとなく傑作の予感というか、第六感が働いたので見に行ってみたのだが、その予感は見事に的中した。

 いつ、誰が死ぬのか予測不可能な緊張感溢れる展開、行動原理が明快かつ、十分に納得できる登場人物たちの描写、そしてなにより全編に渡るトム・ハンクスの全身全霊の演技。紛れも無く傑作だったと思う。その魅力を、以下で2点ほど詳しく述べたい。ネタバレ全開なので留意されたし。

 極限状況の追体験

 まず、なんといっても本作の魅力は、トム・ハンクス扮するフィリップス船長が遭遇する極限状況を、リアルに追体験できることにあると思う。映画の魅力の一つは、普段生きていては到底遭遇することのない状況を、共感的に体感できることではないかと思う。その点、本作は『127時間』と似た魅力を持っていると思う。

『127時間』 壮絶な映画体験。壮絶なバイオレンス。 - 宇宙、日本、練馬

 

 『127時間』では、ジェームズ・フランコの圧倒的な演技によって追体験の圧倒的なリアリティが担保されていた。『キャプテン・フィリップス』では、なにがリアリティを担保しているのか。

 前述したジェームズ・フランコに勝るとも劣らないトム・ハンクスの演技力はもちろん、主人公側の冷静かつ合理的な状況判断・対応、敵サイドの容赦の無さなど、色々なものがあげられるだろう。海賊のリーダー役、バーカッド・アブディの恐ろしさは筆舌に尽くし難い。「銃は脅しの道具じゃねえんだぞ」、と言外に語る序盤の暴力シーンを筆頭に、不気味かつ強烈な印象を残す。リアルな海賊っぽさというか。

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 また、特筆すべきは銃、すなわち暴力装置の圧倒的な存在感ではないかと思う。劇中で、銃によって人が殺害されるのは、最終盤、クライマックスの場面しかない。にもかかわらず、作中で銃は圧倒的な存在感を放ち、「撃たれたら死ぬ」感が存分に演出されている。このことが、作品全体を緊張感あふれるものにしている。それによって主人公、ひいては主人公に感情移入している観客にかかる負荷は半端ではない。

 故に、その緊張から開放される安堵感、安心感は半端ではなく、そこで強烈なカタルシスを得ることができる。間違いなく、爽快な気分で映画館を出ることができるので花だろうか。しかし、その爽快感を打ち崩す、強烈な違和感が、作品の中に劇薬のように仕込まれてる、それが、本作を単なる追体験アトラクションにとどまらない、傑作たらしめているのではないかと思う。その劇薬とはなにか。

 

命の価値は平等ではない-残酷な現実

 本作に隠された劇薬。それは、端的に言ってしまえば「命の価値は決して平等ではない」という、残酷な現実を、我々に突きつけてくることである。それは中盤、フィリップス船長が、海賊のリーダーであるムセと対話を試みる場面でちらりと顔をだす。

 フィリップスは言う。海賊などしなくても、漁師として生きる道があるはず。これに対してムセはこう返す。「アメリカならな。」この場面は、互いに(全く仕事は違えど)中間管理職的な立場にありながら、どうしようもない溝、格差が両者の間に存在していることを我々に伝える。

 そしてラスト、クライマックスにおいて、船長と海賊たちの、「命の価値」の圧倒的な格差が、強烈に浮き彫りになる。4人の海賊たちの内3人ははネイビー・シールズに狙撃されて命を落とし、フィリップスは救助される。それまで生きていた人間が、まるで人形のようにうつろな目でフィリップスを見つめる。それ以降、海賊たちは唯一生き残ったムセを除いて画面に映ることはない

 一方、フィリップスは助けられ、船医から手厚い看護を受ける。その様子は、過剰なまでに懇切丁寧に描写される。これは、フィリップスの感情の機微を余すところ無く我々に観客に伝える意図からそうしているのだろうが、前述の海賊との対比で、とんでもなく「命の価値」の格差を感じさせる演出にもなっていないだろうか。

 そしてラストショット。フィリップスを救出するためにソマリア沖に出動した3隻の軍艦が印象的に写される。アメリカ人1人の命の重みを、強烈に表しているとはいえまいか。たった一人のために、これほどまでの人的・物的リソースが投入される。ボスにトカゲの尻尾きりよろしく切り捨てられ、孤立無援に陥った海賊たちを、想起せずにはいられない。

 

 そんなわけで、フィリップスに感情移入して劇場を出たときまでは、素晴らしい爽快感のある映画である一方で、よくよく物語を俯瞰的に見なおしてみると、とんでもない、だがしかし否定しがたい真実を突きつけられることになる。この強烈な二面性に、私は打ちのめされたのである。

 

 

キャプテン・フィリップス [Soundtrack]

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キャプテンの責務 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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