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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

アニメ『ピンポン』感想 アクマの努力とその限界

アニメ

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 アニメ『ピンポン』、最新5話まで視聴。僕は今リアルタイムでこの『ピンポン』と『キャプテン・アース』を視聴しているが、『キャプテン・アース』が先が読めない面白さがあるけれども、『ピンポン』は先が読めていても、なおアニメとしての面白さをなんら減じることがない。

 それはいろんな理由があるんだろうけど、アニメならではの卓球描写と、巧妙な原作改変*1が大きな理由だろうと思う。前者の卓球描写はさておき、後者の部分についての感想を書いておきたいと思う。

 アニメ化の指針とは?-湯浅監督のインタビューから

 アニメ『ピンポン』の大きな特徴として、監督である湯浅政明氏が、全話絵コンテをきっていることがあげられる。湯浅監督が脚本としてもクレジットされているので、実質湯浅監督の色が強く出ていることになるだろう*2。湯浅監督はキャラクターに独自の解釈をくわえていることを明言している。以下のインタビューがそれだ。

 

湯浅 今回アニメでは、原作では描かれていなかったキャラクターのバックストーリーも描いていこうと思っています。松本さんが使わなかったアイデアもいくつか教えていただいて。そういうのも面白いのでどんどん入れていこうと。松本さんが「このセリフは本当はこっちのほうがよかったんですけどね」って言ったら、「じゃあそれはアニメでやりましょう」とか。やっぱりよく出来た作品だけど、いまの形で出せるといいなと思うんです。

  コミックナタリーでの松本大洋氏と湯浅監督の対談より引用

  この改変にこそ、アニメ『ピンポン』の独自の色が強く出ていると思う。それは今までのところ、主人公であるペコよりは、チャイナこと孔文革、アクマこと佐久間学といった、脇を固めるキャラクターになされているように思える。彼らを、現s買うよりもより「かっこよく」描いている、と僕は強く感じる。

 

凡才の意地ーアクマの独白にみられる独自色

 1話における孔文革の描写がより「厚く」「熱く」なったこと(具体的にはペコと戦う際の心情描写)など、そこらへんの独自色はいろんなところであらわれているが、それが文字で見たときによりあらわれているように感じるのが、4話におけるペコ対アクマにおける改変、とりわけ追加されたアクマの独白である。

 この試合、よりアクマの描写が詳しくなっている。以下でアニメ版のせりふを引用する。比較のため、原作と大きな変更がある部分を太字で強調する。

試合前のやりとり

 

そうさ、お前にはわからないだろうよ。

いつだってお前が一番だった。

やる事なす事垢抜けてて、いつも皆の中心だった。

お前が右を向けば皆右を向く。お前が笑えば皆笑った。

おちゃらけてても決めるところは決め、年上だって簡単に吹っ飛ばす。

そのお前を俺がどういう目で見ていたか。俺が何を感じてたか。

 

試合中

お前が卓球博士って俺のこと馬鹿にしてたのも知ってるぜ。

しかし、その努力が実を結ぶこともあんだよ。

お前のラバーやラケットはいつも輝いて見えた。

あちこち出かけて分捕ったメダルをたくさん見せられた。

俺がそれをどんな目で見ていたか。

だが時がたてば、才能や環境だけじゃねえ、努力だって発言権くらい持ってくるんだぜ?

お前は風間さんの足元にも及ばねえ。

怠慢と妥協にまみれた卓球を続けたお前に、何ができる?何ができるよお?

  ここから、約1.5倍くらい台詞の量が増えていることがわかる。なにより印象的なのは、「その努力が実を結ぶこともあんだよ」というド直球な独白。それを加えることで、「努力」というものの価値が、よりはっきりと意識されるようなスクリプトになっていると感じる。ここに、湯浅監督の温かさ、優しさを感じるのだ。原作者松本大洋の仄めかしたそれを、アニメではよりはっきりとした主張として宣言する。努力の権化足るアクマを、アニメはより「かっこよく」演出しているのを強く感じる。

 それに加えて注目すべきなのは、「卓球博士」と嘲笑されていたアクマの過去。このことで、アクマがかつてから卓球の知識に対して貪欲だったというバックボーンが付与された。このアクマのある意味頭でっかち的な側面は、試合前でもペコとのやりとりでも強調される。新たな戦術やら道具やらを積極的に取り入れていくアクマ。努力を知らないにせよ、才能の塊であるペコを圧倒した強さ。それを支える具体的な努力の内実を、台詞を用いてうまく裏付けた良改変であると感じる。

 

 とはいえその努力の限界を描くことにも、湯浅監督は躊躇しない。圧倒的な才能によって、アクマが一敗地にまみれる5話は、アクマにとっては残酷なお話だった。しかし。努力を無条件な勝利や向上と結び付けるのは、あまりにも無責任にすぎる。その限界をも強烈に描くこと。それこそが努力をもっとも真摯に描写する方策でもあるように思う。

 その意味でも、湯浅監督の独自色が強く表れた描写なんじゃないかなー、とほんのり思いました。その色こそ、アニメ『ピンポン』を、より魅力的なものにしていってくれると信じています。

 

 

 

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*1:漫画をアニメにする、というのは別の媒体で表現しなおすということであるので、改変する、されるのは当然の前提であると思う。しかし『ピンポン』は大筋は漫画に沿っているにも関わらず、せりふなどが微妙に原作から改変されている。その意味で「原作改変」です。

*2:コミックナタリーでの松本大洋氏と湯浅監督との対談より。

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