宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2014年6月に読んだ本

 今月は何かと気分が落ち込むことが多くて、逃げるように新書を読んでた気がします。読んだ本も格差社会だの監獄だのとあんまり明るい本じゃなかった気もするけど、月末に読んだ本のおかげでちょっぴり気分は上向きかもしれないな、とも思いましたね。以下で印象に残った本と読んだ本のまとめを。

 

先月のはこちら。

2014年5月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

印象に残った本

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

 

  今月印象に残った本は、『言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』。戦前から戦中期、「日本思想界の独裁者」とまで呼ばれた鈴木庫三。しかし横暴で暴力的な独裁者という像は、戦後のメディア界によって「作られた記憶」であることを、鈴木自身の遺した一次史料をもとに明らかにし、そして戦前・戦中の軍や出版業界での対抗関係のせめぎ合いを見事に描いたこの本は、新書にして437ページ。

 鈴木の日記以外にも、同時代の人物の遺した記録が豊富に引用され、これぞまさしく歴史家の仕事。特に鈴木の書き残した文章はこれでもかと引用され、「日本思想界の独裁者」に図らずも感情移入してしまうほど。こんな本が新書として安く手に入ることは本当に感激すべきことだと思います。

何かを言い残そうとしながらも沈黙した、その人の声を聞きたい。

 あとがきのこの言葉が、本書すべてを要約していると言っても過言ではない。多分、どこかのだれかが言い残そうとした、その声を聞くことが、歴史学のひとつの使命なんじゃないか。そんなことを考えさせられました。

 他にはフーコーの『監獄の誕生』も忘れられない一冊なんですが、これに関しては個別に記事を書いたんでそっちで。

ミシェル・フーコー『監獄の誕生』を読む 前編 - 宇宙、日本、練馬

ミシェル・フーコー『監獄の誕生』を読む 後編 - 宇宙、日本、練馬

読んだ本のまとめ

2014年6月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5542ページ

 

古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)

古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)

 

 ■古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)

 上巻に収められているのは第一章の1節から10節まで。おおまかに、1節から5節までが地理的な条件を確認したうえで、社会的、経済的状況を整理されており、7節から10節までは古代ユダヤ教の成立、発展が旧約聖書を縦横に引用しつつ論じられる。6節はその結節点のような感じ。旧約聖書の引用が膨大になされていること、地理的なイメージが掴めていないこと、時代が前後することが少なくないことなどの理由から、正直十全に議論を追って行けていないと感じる。ただヴェーバーの叙述に圧倒されただけだった気もしてくる。
読了日:6月4日 著者:マックスヴェーバー
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38528978

 

社会問題の社会学 (現代社会学ライブラリー9)

社会問題の社会学 (現代社会学ライブラリー9)

 

 ■社会問題の社会学 (現代社会学ライブラリー9)

 社会問題への構築主義的なアプローチの概説書。構築主義社会学史的な意義にも軽く触れつつ、その方法を実例を挙げて詳しく説明している。ジョエル・ベストの社会問題の自然史モデルやレトリック分析の説明が簡潔かつ平明でよい。(社会問題に対する)構築主義的なアプローチとは何かを掴むには日本語で読めるものとしては最も良いんじゃなかろうか。前提、論拠、結論というクレイム申し立ての要素、クレイムの分類などが整理されていて、構築主義的に社会を見るための視点を得た気になれる。

 構築主義的な社会問題の見方は面白いし、何と無く「使える」気がする。自分の専門分野に活かせるという意味ではなく、社会問題をどうとらえるのか、という時の視点のひとつとして。本のタイトルに構築主義が入っていてもよかったのではないかと思える。
読了日:6月5日 著者:赤川学
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38551312

 

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

 

 ■「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

 鉄道そのものというよりは、鉄道から見えてくる日本社会の変容を描く。鉄道文学から天皇の巡幸、阪急と東急の対比など、様々な話題がエッセイ風に触れられる。阪急と東急の話や、都電華やかなりしころの東京の様子など、単純に知らなかったことを勉強できたのでよかった。ただ単に移動手段としての鉄道というだけでなく、その背景となる時代、社会のことに思いを馳せながら鉄道を利用してみると楽しいのだろうなー、と感じた。

 東京の地下鉄のお話が印象的。かつて都電が地上を走っていた頃は、利用者は皇居を代表とする地上のランドマークを意識せざるを得なかった。ランドマークと駅は対応していた。しかし地下鉄は、「半蔵門」を実際の門の表象から切り離し単なる駅名に変えた。移動手段が人間の認識を変容させるという、その一例として面白い。
読了日:6月5日 著者:原武史
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38561368

 

近代ドイツの歴史―18世紀から現代まで

近代ドイツの歴史―18世紀から現代まで

 

 ■近代ドイツの歴史―18世紀から現代まで

 30年戦争後からメルケル政権発足までのドイツの歴史を概観。章ごとに執筆者が分かれており、それぞれ時代をさらいながらも独自の色が出ているように思われる。章の合間に付されたコラムは、かなりマニアックなトピックを扱っているような。執筆者が多いため流れを掴むには適さない気もする。そのため通読した満足感は薄い。とはいえ情報量が多いので、知りたいことがあったら適宜参照するような使い方をする本としてはとてもいい本だと思う。
読了日:6月5日 著者:若尾祐司,井上茂子
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38569726

 

トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社選書メチエ)

トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社選書メチエ)

 

 ■トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社選書メチエ)

 トクヴィルの思想を、彼の生きた時代状況と照らし合わせながら辿る。主に『アメリカのデモクラシー』についての解説だが、彼の思想の総体を射程に入れた叙述。重要な概念として「平等と不平等」を提起している。トクヴィルは平等化を歴史の必然と捉え、そのダイナミズムをもって社会のあり様を描く。平等化そのものというよりは、社会の変化によって不平等は必然ではなく、改善されるべき問題であるというように人々の認識が変容したことで、無限の平等化のダイナミズムが生じたというのが著者の理解か。その補助線はトクヴィルの大著を読み解く助けになる気がする。

 トクヴィルの主張する平等な社会で生じるダイナミズムの議論は、他人と異なっていれば、他人と同じになろうとし、他人と同じであれば、他人と異なろうとするという差異と欲望の原理を想起した。

 読了日:6月7日 著者:宇野重規
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38597049

 

景観写真論ノート: 宮本常一のアルバムから (単行本)

景観写真論ノート: 宮本常一のアルバムから (単行本)

 

 ■景観写真論ノート: 宮本常一のアルバムから (単行本)

 宮本常一の薫陶を受けた著者が、宮本常一その人が撮った写真をテーマごとに整理し、それに簡単なエッセイ調の文章を添えた本。著者が宮本常一から受けた言葉が印象的に引用されていてなんだか思い出話を聞いているような印象があり、それが写真に映された今はなき日本の農村の風景とあいまって絶妙な郷愁を誘う。水田の風景ひとつとっても、そこからかつて村のあり様やその変容を読み解く宮本常一の超絶的な認識力の一端を垣間見れたきがする。

 カメラをもって旅に出たくなる本だった。
読了日:6月7日 著者:香月洋一郎
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38597994

 

哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))

哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))

 

 ■哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))

 クリティカルシンキングの概説書。その道具として著者の専門である分析哲学の思考が使われている。ザーッと一通り読んだ感想としては、「なるほどなー」とは思うものの、これを使って考えることが出来るのかはかなりビミョーだな、という印象。それは何と無くのらりくらりとした構成にあるのかなー、と思っていたら巻末に本書の内容を分解して、クリティカルシンキング的な思考の筋道にそって再構成したものが載っていて驚いた。こちらの構成にそって読み直すと、かなり具体的な思考の方法を身に付けられるような気がする。
読了日:6月8日 著者:伊勢田哲治
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38652217

 

文学 (ヒューマニティーズ)

文学 (ヒューマニティーズ)

 

 ■文学 (ヒューマニティーズ)

 「文学研究」に関わる見取り図を得ようと期待して読んだので肩透かしを食らった感もあるが、文学という営みに対する著者の愛と信頼が伝わってくる本だった。文学を「巣造り」ないし「穴掘り」と類比し、その面白さをカフカやガルシア=マルケス漱石などの文章を縦横に引用しつつ語る。その語り口が大変小気味良い。とはいえ文学や読書、書くことや読むことについて新たな知見が得られたかというとそれは別の話で、批評理論なんかの主張を言い換えているだけのような気もした。

 自分が新たな知見を引き出せなかったのは読み方のせいかもと思うと、もったいない読み方をしてしまった気もする。
読了日:6月9日 著者:小野正嗣
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38684931

 

監獄の誕生―監視と処罰

監獄の誕生―監視と処罰

 

 ■監獄の誕生―監視と処罰

 惨たらしい身体刑から、規律訓練的な監獄への変容。それは単に刑罰制度のみならず、社会全体を取り巻く監視と処罰のメカニズムの変容を意味する。監獄というシステムによって、「非行性」という概念が創出され、犯罪行為が規律訓練的な機制、配分の技術によってコントロールされるようになり、「監禁的なる」社会が誕生する。身体に働きかけることで人を主体化=従属化する規律訓練の技術は監獄で生まれたものではなく、修道院や軍隊などから監獄へと取り入れられ、そのことが結果的に社会全体を作り変えた。

読了日:6月10日 著者:ミシェル・フーコー

ミシェル・フーコー『監獄の誕生』を読む 前編 - 宇宙、日本、練馬

ミシェル・フーコー『監獄の誕生』を読む 後編 - 宇宙、日本、練馬

http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38698224

 

 ■増補 エロマンガ・スタディーズ: 「快楽装置」としての漫画入門 (ちくま文庫)

 エロチックな要素を含む漫画=エロ漫画の成立、発展を辿る第一部と、様々なジャンルを縦横に論じる第二部からなる。特に面白く読んだのは第二部で、単純に未知のジャンルとその快楽を知るという意味で知的好奇心が満たされ、また特定のジャンルにおいても読みの在り方は決して一様ではなく、様々なものがあるのだと思い知らされた。エロ漫画といえど、一般漫画と相互に影響を与えあっているのだということが、ミームの概念を援用して、尚且つ実例を引いて論じられていたのも面白い。一般漫画のセクシュアリティにも目を開かされた気がする。
読了日:6月17日 著者:永山薫
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38869401

 

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

 

 ■ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)

 キリスト教の母体となった古代ユダヤ教について語る第一部、イエスと黎明期のキリスト教を扱う第二部、キリスト教の発展と現代社会への影響について論じる第三部からなる。キリスト教を支える論理やそれにまつわる話題について、大澤が疑問を提出し橋爪が答えるという形式で進む。キリスト教だけでなく、比較する形でイスラム教や仏教も議論の俎上に上るので、よりキリスト教の特質が明確になっている感じがある。特に面白かったのは第三部。キリスト教の影響という点から歴史、ひいては現代社会を大雑把に語るその語り口が印象的。

 今日のわれわれの生きる近代社会との関連という視点からキリスト教をとらえているので、細かい教義の変容やら読み替えやらに目を配れていないという批判は的外れもいいところだろう。おそらく対談する二人は、そんなことは百も承知で「わかりやすく」、今とキリスト教を接続しようとしているのでは。
読了日:6月19日 著者:橋爪大三郎,大澤真幸
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38927194

 

 

 ■聖書VS.世界史 (講談社現代新書)

 聖書の記述に基づく「普遍史」が、古代から中世を経て近代の入り口にいたるまで、どのように読み替えらてきたのかを論じる。創世やノアの洪水など伝説上の出来事を年代記のなかに位置づけようとする中で、古代にはエジプトの歴史との整合性、ルネサンス期には古代中国史をどう関連付けるかを必死に模索していく。結局「普遍史」が崩壊するのは18世紀、啓蒙思想家が台頭したことによるのだが、それまでのあいだなんとか命脈を保ってきたという事実は「面白い」と感じる。
読了日:6月20日 著者:岡崎勝世
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38953177

 

構造主義 (文庫クセジュ 468)

構造主義 (文庫クセジュ 468)

 

 ■構造主義 (文庫クセジュ 468)

 「構造主義」の特質を、その発想の源流をたどる形で説明したのち、社会科学における「構造主義」を批判する、という流れだったように思われる。ガロアなど数学の分野やら物理学や生物学などの知見の中に、構造主義に通じるものがあるらしい。社会科学における構造主義フーコー『言葉と物が 』への批判は納得し難いものがあると感じる。批判のために都合の良い解釈をしているのでは?と思える部分が少なくない。とはいえピアジェの論の展開に馴染めず雑に読んでしまったことがそう感じる原因なのかもしれないが。

 フーコー批判を読むために読んだがピアジェの立場にまったく共感できず。社会科学とピアジェの「構造主義」は接続可能なのか。
読了日:6月21日 著者:ジャン・ピアジェ
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38965810

 

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)

 

 ■希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)

 いわゆる「格差社会」の状況を、リスクの普遍化という視点から説明する。かつての高度経済成長期のような安定した社会の状況が、経済状況の変化にともなって不安定化し、リスクが増大しているとする。その不安定化の諸相を、職業、家族、教育という三つの側面から論じている。生活の中で、誰もが必然的にリスクを負わなければならなくなった=リスクが普遍化した現代社会、という現状認識は今なお説得性を失ってはいないと感じる。
読了日:6月21日 著者:山田昌弘
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38980502

 

 ■社会は情報化の夢を見る---[新世紀版]ノイマンの夢・近代の欲望 (河出文庫)

 「情報化・情報技術が社会や個人を大きく変える」という、当たり前のように語られた物語の虚構性を指摘する。個人、会社組織、そして社会が分析され、それぞれの状況の変化によって情報技術の使い方も変容し、そのことがあたかも「情報技術が変化をもたらした」という錯覚を生じさせている、というのが著者の主張。情報社会論の語る「ポスト近代社会」、「ハイパー近代社会」も結局は近代産業社会の発想から抜け出てはいないというのは納得。「ネットが社会を変える」的な議論の説得性の無さが、論理的に腑に落ちた。
読了日:6月23日 著者:佐藤俊樹
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39040935

 

新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)

新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)

 

 ■新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)

 現在、教育の枠組みとして自明のものとなっている「世界史」の問題点を整理し、新たな世界史の構想を探る。現行の世界史の成立過程と特徴が簡潔に整理されていてよい。著者が考える主な問題点として、それが日本人のための世界史にすぎないこと、自他の区別を強調していること、ヨーロッパ中心史観から脱却しきれていないことを挙げる。新たな世界史を提示する方法として、世界システム論や海域世界史などの存在があることを認めつつも、それらでは不十分であることを強調。しかし著者の「新しい世界史」像も漠としたものである。
読了日:6月24日 著者:羽田正
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39065653

 

 ■捕虜が働くとき: 第一次世界大戦・総力戦の狭間で (レクチャー第一次世界大戦を考える)

 第一次世界大戦期の捕虜の労働について、主にオーストリア=ハンガリーの事例を参照して論じる。捕虜になる過程から、その捕虜が労働力として総力戦体制の中に組み込まれていき、労働力として実際に働く様子までを日記などの史料を用いてディテール豊かに描く。総力戦体制の中での労働力としての捕虜という位置づけが強く感じられ、オーストリア=ハンガリーを主に取り上げてはいても考察の射程は広いように思える。後半では若干ではあるが日本における捕虜の労働も触れられる。
読了日:6月27日 著者:大津留厚
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39117563

 

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

 

 ■言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

 戦中に言論統制の一翼を担い、戦後「日本思想界の独裁者」とまで呼ばれた鈴木庫三の思想と生涯を、一次史料を豊富に引用して丹念に描く。何故、鈴木がかくも「悪役」として戦後のジャーナリズムに取り上げられてきたのか、それをハビトゥス概念を用いて的確に指摘し、様々な史料と突き合わせて出版人の「記憶の捏造」を暴き出す。軍人でありながら、高等教育を受けたある種の知識人でもあった鈴木の、独自の教育哲学とメディア戦略とを著者は見事に接続し、説得性のある人物像を見事に提示していると感じる。
読了日:6月28日 著者:佐藤卓己
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39143211

 

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

 近未来、謎の敵ジャムと戦う戦闘機パイロット深井中尉と、戦闘機雪風。ジャムとの戦いの中で、むしろ人間と戦闘機械の対立がはっきりあらわになる。

 人間と機械。極限の戦闘状況の中で人間は人間性を喪失していくかに思えるが、むしろ究極的にはそれに拘束されざるを得ない。一方、機械はまさしく機械として、ただ任務のために徹底的に合理的に、無慈悲な選択をする。その人間=深井中尉に共感するし、機械=雪風の意志に震える。その両者が見事に対比されてすれ違い、ジャムとの終わりなき戦いを予感させる。そんなニヒリスティックな感慨を抱きつつも何か打ちのめされるような感覚もあって。とにかく満足した。
読了日:6月29日 著者:神林長平
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39169969

 

教育と国家 (講談社現代新書)

教育と国家 (講談社現代新書)

 

 ■教育と国家 (講談社現代新書)

 2000年代前半の教育基本法改正の問題点を、国家と教育との関係性に着目して論じる。国家が教育の統制を通して、政府に無批判に追従する国民を育成しようとしていることを、平明に批判する。架空の人物との対話を冒頭に配し、批判への回答を試みているものの、それが上手くいっているかはビミョーな感じ。著者の主張は本当に「正しい」と感じられるが、正しいだけで解決する問題で無い気もする。教育基本法改正反対のパンフレットという趣旨が強いが、第二次安倍政権の動きをみるに、今こそ参照する価値のある本だと感じられる。
読了日:6月29日 著者:高橋哲哉
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/39186652

 

来月のはこちら。

2014年7月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬