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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

『舞妓はレディ』 成長と、舞妓という文化と

映画

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 周防正行監督『舞妓はレディ』をみた。友人と二人で『STAND BY ME ドラえもん』をみる予定だったんですがなんと満席で、その場でこっちに切り替えたんですね。テキトー感漂うタイトルに正直あんまり期待していなかったんですが、結果は大満足でした。以下で感想を。

 そんなに『マイ・フェア・レディ』色はない感じ

 本作は、舞妓を志す鹿児島生まれ津軽育ちの少女春子(上白石萌音)が、言語学者京野法嗣(長谷川博己)のバックアップを得て、京ことばを一から学びながら、舞妓を目指して頑張る...的なお話。

 上品な言葉を話せない少女を言語学者がバックアップする、という構図は、タイトルの元ネタである、オードリー・ヘップバーン主演の映画がよく知られる『マイ・フェア・レディ』とまさに同型。とはいっても似ているのはその話のとっかかりと、「話しことば」がキーポイントとなる点、ミュージカル映画というフォーマットくらいで、全体としてはそんなに似ていないんじゃないかなあという気がする。

 『マイ・フェア・レディ』で主軸になったのはラブロマンスだと思うんですが、こちらはむしろ舞妓になろうとけなげに奮闘する春子の姿がメイン。春子を通して舞妓をめぐる文化にまつわるエトセトラを語りつつ、彼女の成長を描く。少女の成長物語こそ、本作の主軸なんじゃなかろうか。

 

成長の苦しさ、清涼剤としてのミュージカル

 舞妓、というかそれから連想される日本の文化とは全く異質なミュージカル演出も、春子の成長過程の「苦しさ」を緩和するための清涼剤として上手く機能していると僕は感じました。春子の目指す舞妓への道は、つらくけわしい。その厳しさは、津軽からはるばる京都にやってきた春子の「あかぬけない感じ」が上手く演出することで確かな説得性をもって提示される。この「あかぬけない感じ」の演出はほんとに憎らしいほど巧みで、そのメイクから服装、表情、そしてなんといっても所作にいたるまで、いかにもな「田舎者のハビトゥス」を体現させることに成功している。

 だから前半の春子には成功体験など望むべくもなく、牛歩で「京都のハビトゥス」を身体化していくほかない。その遅々たる歩みの苦しさを苦しさとしてそのまま描き、かつみている側の負担にならないような心配りとして、ふざけたミュージカルが挿入されていて、僕はとっても楽しかったです。

 

見事な成長の描き方

 成長する前の春子の姿の説得性もさることながら、京ことばを身体化し、舞妓の所作を身に付けた、いわば成長後の春子の映し方もまた素晴らしい。鹿児島弁と津軽弁のあいのこを話していた姿からは想像もつかないような、なめらかで自然な京ことば。さも本物の舞妓っぽくみえる所作の数々。上白石萌音さんってこの映画をみるまでは全く存じ上げなかったんですが、これはすごい女優を見つけてきたな。彼女を映す製作側の技量ももちろん大きな貢献をしていると思うんですが、やはり究極的にはそれに説得性を与えたのは上白石さんの身体性なんじゃないかなと。というわけで王道の成長物語が好きな人は、間違いなく満足できるような映画なんじゃないかなと思いました。

 

舞妓は文化か?水商売か?

 そうした成長物語のなかでも、純粋に舞妓になること=素晴らしいこととせずに、それに冷や水を浴びせるような人間がいたのもよかった。それは言語学者京野のもとで学ぶ大学院生、西野秋平(濱田岳)の口から語られる。話がそれますけどこの秋平君の「大学院生っぽさ」もすげーなと思いましたね。服装とかしぐさがいかにもそこらへんの大学院生っぽい。

 そんな秋平君の口から語られるのは「舞妓は所詮水商売にすぎなくて、そんな素晴らしいものじゃない」という、舞妓のネガティブイメージ。確かに、Googleで「舞妓」と打つと、その後のワードを予測変換してくれなかったりするんですよね。舞妓のネガティブイメージの証左というよりはむしろ、えっちいワードに過剰に敏感なGoogleさんのこっけいさを表しているのかもしれませんが。

 それに対して、この映画のなかでは明確な反論はしない。しかし舞妓という文化に関わる人たちの情熱や、温かみを丹念に描写することによって、ネガティブイメージに回収され尽くせない舞妓という文化の魅力を伝えようとしているんじゃないかと思う。

 舞妓を演じる田畑智子はめちゃくちゃ魅力的だし、春子を支える女将小島千春(富司純子)の、舞妓や芸妓たちへの温かい視線。そしてなじみの客たちも下品な客ではなく「文化の理解者」というか、客という立場で文化の継承を担う人間として打つつぃていたように思います。むろん舞妓の世界の厳しさの表象(草刈民代)や、下品な客(高嶋政宏)なんかもきちんと映すわけですが。こういうバランス感覚も絶妙だなと。

 というわけで、ネガティブイメージをきちんと映した上で、それの全否定というのではなくて、あくまでそれだけではないことを伝えようとするこの姿勢がいいなと僕は感じました。『舞妓はレディ』、とても素敵な映画だと思います、はい。

 

 

【作品情報】

‣2014年/日本

‣監督:周防正行

‣脚本:周防正行

‣出演

 

 

 

 

 

 

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