『舞妓はレディ』、『それでもボクはやってない』に続いて周防正行監督作品マラソンの第3作目として『Shall we ダンス?』 をみました。
『舞妓はレディ』 成長と、舞妓という文化と - 宇宙、日本、練馬
『それでもボクはやってない』 それでも公平性を求めるために - 宇宙、日本、練馬
『Shall we ダンス?』は多分テレビで放映されているのを見たことがあって、見るのはそれ以来なんですが、あらすじぐらいしか覚えていなくて。それで新鮮な気持ちで楽しめた、というかめちゃくちゃ面白かったです、はい。以下で簡単に感想を。
意外なほど『舞妓はレディ』と似てる!
もう粗筋を僕が述べるまでもないと思うんですが、ごく普通のサラリーマンが偶然電車の窓から見かけた美人につられてダンスを始めて、次第にのめりこんでいく、というのが大体の感じ。
周防監督の最新作である『舞妓はレディ』をみてからこの作品を見直してみて思ったことは、両者は意外なほど似通っているということ。いや似ているというよりは、『舞妓はレディ』で見られた文化に対する目線なんかがすでに『Shall we ダンス?』のなかで準備されていた、という言い方のほうがより適切なのかもしれませんが。
まず何が似ているって主人公が全く知らない文化のなかに入っていくという導入部分。『舞妓はレディ』の主人公春子は、純粋に舞妓になりたい一心でそこに身を投げだす一方、『Shall we ダンス?』はかなり不純な動機でその世界に足を踏み入れる。という違いはあれど、後者においてはこの不純さがテーマ上のある種の必然であるわけなんですが。話がずれました。
そしてその世界のなかでの主人公の「成長」を描いているという点。そしてそれはどちらも精神的なものあると同時に、それと不可分に身体を媒介として表象されるものでもある。京ことばとダンスの身のこなしという所作の形態は違え、それぞれが他者を思いやる心によって基礎づけられたものである、という点も似てる。
そしてなにより強調すべきなのは、どちらもその文化、舞妓と社交ダンスに対する偏見や疑問をストレートに描いているという点。「舞妓は所詮水商売にすぎないのではないか?」と『舞妓はレディ』は主人公に突き付け、『Shall we ダンス?』はダンスは「気持ち悪い」じゃないかと再三語らせる。前者ではそれに論理的というか、直截な反論をしなかったけれども*1、後者では、ダンスの素晴らしさを映しだして映像的にもその誤解を退け、「気持ち悪くない!」と登場人物の口を通してストレートに語らせる。これは前者の問いの方が答えるのは困難だと思うので、仕方ないと言えば仕方ないことかもしれないけど。舞妓は水商売なんかじゃない!なんていう方が綺麗ごとすぎて説得力を欠く。ともあれ文化の称揚というか、そういう意味では 『Shall we ダンス?』の方が気持ちいい。
「楽しい」から「気持ち悪く」なんかないのだ
作中でいろんな次元の「気持ち悪さ」が示される。「女目当てでやってて」気持ち悪い、ダンスが気持ち悪い、ダンスやってる姿が気持ち悪い...。むしろフィルムのなかで「気持ち悪い」ものとして映されるものもある。たとえば「女目当て」でダンス教室に通うことは明確にそう描写される。序盤に岸川舞にレッスンを受けるおっさんの気持ち悪さときたら。
とはいえ、純粋にダンスを楽しむ人間を嘲ることを、この映画は許さない。上の写真のシーンで、それは明確に主張される。
社交ダンスのどこがいけない!やったことのないやつが、失礼なことをいうんじゃない。
ただ単に同僚の青木をかばう、という以上の重みが、この場面には付与されていると思うんですよね。
その根拠となるのはやっぱりダンスの「楽しさ」で、それは懸命に、必死になって打ち込むことではじめて生まれるものである、ということを主人公の姿を通して描き、そしてそのアマチュアの「楽しさ」が、プロたる岸川舞も救う。美しい話ですよ。なんかテキトーな感じにまとめましたが、本当にこう、前に進もうという強い意志が湧いてくるような、素晴らしい映画だと思いました。周防作品マラソンは続けるかはTSUTAYAに行った時のテンション次第って感じですが、とても有意義な時間を過ごした感じがあります。よかったよかった
【作品情報】
‣1996年/日本
‣監督:周防正行
‣脚本:周防正行
‣出演
- 杉山正平:役所広司
- 岸川舞:草刈民代
- 青木富夫:竹中直人
- 高橋豊子:渡辺えり子
- 杉山昌子:原日出子
- 杉山千景:仲村綾乃
- 三輪徹(探偵):柄本明
- 服部藤吉:徳井優
- 田中正浩:田口浩正
- 熊田寅吉:上田耕一
- 田村たま子:草村礼子
- 石井トミコ:原口春子
- 金子貞二:井田国彦
- 岸川良(舞の父親):森山周一郎
- 岸川恵子(舞の母親):香川京子
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*1:舞妓という文化に関わる人間の誇りというか、そういうものを映すことによって間接的には否定していたとはおもうけれども