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「正しくない社会」のなかで、それでも「正しく」あれ―『PSYCHO-PASS サイコパス 2』1話感想 

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 『PSYCHO-PASS サイコパス 2』1話を先ほど見ました。正直、期待した以上に面白かった。1期で明確に変化した常守朱と、その姿勢に対する対抗者としての役割が明確に与えられた後輩監視官、霜月美佳。その思想上の対立を明確にし、なおかつカリスマ犯罪者槙島聖護とはまた違ったカラーを予感させる敵役の顔見せ。これ以上ない優れた導入として機能したんじゃないかと。1話を見て思ったことをちょっと書き留めとこうと思います。

 常守朱は、システムのなかで戦う

 僕は『PSYCHO-PASS サイコパス』1期は、常守朱がどのように不完全なシステムと向き合うのか、そのスタンスを立ち上げる物語だったと考えています。それはこの記事の後半で書いたことんなんですけども。

『PSYCHO-PASS サイコパス』 システムとどう対峙するのか? - 宇宙、日本、練馬

 

 『PSYCHO-PASS サイコパス』において、秩序を維持するシステム=シビュラシステムは不完全極まりないものであることが、1期の22話を通して暴かれた。槙島聖護という凶悪犯罪者を測定する尺度を持たず、犯罪を取り締まる監視官は容易に潜在犯へと身を落とす。それでも、その不完全なシビュラシステムでさえも、完全に破壊されたら秩序は完全に崩壊するだろう。

 そこで常守が選びとったスタンスは、システムの不完全性を覚めたスタンスで自覚したうえで、しかしシステムの効用は最大限に享受するというものだった。これは1期においてはシビュラシステムという主体を脅迫して譲歩させるという戦略をとらせ、そして最終的には無限の円環を、しかし違った仕方で描けるかもしれないという可能性に賭ける、そんなことを予感させる結末に辿りついた。1話のアバンと重なるようなあのラストシーンの含意は、そんなところにあるんじゃないか。

 

社会と常守の戦いは終わらない

 『PSYCHO-PASS サイコパス 2』の1話で描かれたのは、まさに1期のラストの明確な延長線上にある常守の実践だった。シビュラシステムによって循環するかにみえる歴史の中で、如何にその軌跡から一歩先へと進もうとするのか。それを明確に示した台詞がある。1話で爆弾テロを起こした犯人は、シビュラシステムの欠陥を指弾する。

「来るな!俺たちはシビュラの造った社会に支配されてるんだ!そんなのおかしいだろ!可能性も未来も、勝手に決められて、一部の勝ち組だけが得してよぉ!じゃあ、他の奴は、要らねえ人間だってのかよ!」

 1期で示されたシビュラシステムの欠陥を、犯罪者の口を借りて常守に突き付ける。しかし、そのシステムの欠陥を飲み込み、利用する側に立った常守にとって、その問いはすでに乗り越えられたものでしかない。

「いいえ。そんなことない。必要よ。あなたも、あなたの作った爆弾も。社会が必ず、正しいわけじゃない。だからこそ私たちは、正しく生きなければならない。間違いを正したいというあなたの心も、あなたの能力も、この社会には必要なものよ。社会は、一人ひとりが集まってつくられるもの。あなたが正しくあることが、社会を正しくすることでもある。あなたの正義は尊いものだから」

 「正しくない社会」のなかで、それでも「正しく」あれ。それこそが、槙島との対決、狡噛慎也との決別を経て常守が選びとったひとつの答え。その具体的な姿勢がここで語られ、あくまで犯罪者の命は守ろうとするその戦術が明確に示される。その後に続く執行官、東金朔夜の台詞も、常守という人間の姿勢と重なるものだろう。

「お前は部品なんかじゃない。社会が強制しても、抗う心がある限り、一人の、人間だ」

 とはいっても、社会のなかで正しくあろうと志しても、常守のような「一部の勝ち組」以外の人間は、いつ潜在的な犯罪者のレッテルを張られて社会的な生を剥奪されてもおかしくない。それでも「正しくあれ」とするのは、ある意味残酷なことでしかない、というような気もする。いくら人が正しくあっても、正しくない社会に殺される。シビュラシステムある限り、その可能性が消えることはない。そうした常守の実践の限界も、作中で暴露されていくのだろう。監視官でありながら常守とは異なるスタンスを持つ、霜月美佳という人物が配されたことは、その展開を予感させもする。

 常守の思想と実践は、槙島という稀有なる凶悪犯罪者との対決、シビュラシステムとの対峙という固有の機会を経てこそ辿りつき得たもの。それが霜月美佳に理解しがたいものであることは、想像に難くない。彼女のような反対者、そして新たなる犯罪者との対峙を経て、常守は自身の思想をどう鍛え上げていくのか。1期での彼女の変化を見事に結実させたこの1話には、今後の常守はどんな道を辿るのか、それを楽しみだと思わせるに十二分なものだったと思うわけです。

 常守のさらなる変化の物語として、『PSYCHO-PASS サイコパス 2』の続きを楽しみに待ちたいと思います。

 

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