宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2014年11月に読んだ本

 最近なんだか1週間があっという間に過ぎてしまう感じがあって、その積み重ねで11月もあっというまでした。やばい。そのわりには本を読んでいたような気もするんですが。映画はラスト1週間でたくさんみれたんですが。12月も輪をかけて忙しい予感がするのでなんとか生きていきたいですはい。

 先月のはこちら。

2014年10月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 

 印象に残った本

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

 

  一冊選べと言われたらやっぱりこれですかねー。『古代ユダヤ教』が苦しくなってふとこっちを読み返してみようかなと手に取ったら、「こんなに面白かったっけ?」と思うくらいに引き込まれてしまった。ベルーフ的な何かを感じましたね。こんなこというとブッ飛ばされそうですが。

  近年、いや近年でもないか、こんな本で資料操作の雑さをを糾弾されたりとか、でたらめだとか指摘もされていて、それには一理ある部分もあるんでしょうが、やはり偉大な著作であることに変わりはないなと。その淀みなく流れる叙述に身を任せることの快感もさることながら、ウェーバーが念頭に置いていたであろう合理化・脱魔術化へと進んでいく「普遍史」の在り方という大きな見取り図と、それを裏打ちする事実の選択の巧みさには僕みたいな素人ですら圧倒されると言うか。そんなわけでここにきて自分のウェーバー熱が勝手に高まっているので、関連文献なんか読んだらまたまとめるかも。

ヴェーバーが羽入論文などの雑音によって読まれなくなるとするならば、読まれなくて良いでしょう。ヴェーバーだけにしがみついて、その学問的体系性が破壊されたら自分の存在に意味がなくなる、などと考えるのは馬鹿げています。そうした思い込みに従って、ヴェーバーへのあらゆる非難に首を突っ込み、そうすることによって自分を研究者的倫理性の模範だと主張するような強迫観念から私は自由でありたいと願っています。時代のコンテクストにたいして、それに正面から取り組もうとする人々がいる限り、そこに広がる討論のネットワークから、新たな知的エネルギーが沸いて来るでしょう。かつてヴェーバーは、20世紀の初頭という歴史的・時代的コンテクストのなかで、そうした新たな知的ネットワークの一つの結節点となったのです。その生き方こそが学ばれるべきであり、特殊に体系化ないし理念型化されたヴェーバー学など、どうでも良いのです。マルクスについても同じことが言えます。マルクスヴェーバーから与えられた知の一つの可能性を、新たなコンテクストのなかで絶えず新たなものへと更新すること、その創造性こそが問われているのです*1

 「犯罪」論争をめぐるあれこれはネットに関連する文章が上がっていたりするんですが、先日亡くなられた山之内靖さんのこの言葉にめちゃくちゃ感銘を受けました、ということも忘れないように記しておきます。

読んだ本のまとめ

2014年11月の読書メーター
読んだ本の数:19冊
読んだページ数:4940ページ

 ■フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ (中公新書)

 ベンヤミンやホルクハイマー、アドルノハーバーマスを中心にフランクフルト学派の思想を辿る。それぞれの思想家の来歴を簡潔に叙述しつつ、その思想を平明に伝えているような印象。「アウシュビッツのあとで詩を書くことは野蛮である」というアドルノのテーゼが印象的に引用されていることに象徴されるように、ホロコーストという経験を如何に受け止めたのか、という一つの軸からフランクフルト学派の遍歴を辿るような記述になっている気がする。それぞれの思想家の主著というか重要な論考に入っていくための入り口となるような本だと思った。
読了日:11月1日 著者:細見和之
http://bookmeter.com/cmt/42452851

 

クーン―パラダイム (現代思想の冒険者たち)

クーン―パラダイム (現代思想の冒険者たち)

 

 ■クーン―パラダイム (現代思想の冒険者たち)

 トーマス・クーンを「<科学>殺人事件」の容疑者になぞらえて、彼の思想とそれが巻き起こした論争について概説する。科学は知識が累積されて進歩するのではなく、断続的なパラダイムの転換=「科学革命」によって進化(目的論的なものではない)する、というのがクーンの主著『科学革命の構造』の主張の骨子であり、それの革新性を説明するために科学史についても簡潔に触れられている。ポパーらの「パラダイム論」批判とそれに対するクーンの反批判にも頁が割かれており、クーンだけでなく科学史、科学哲学全体の見取り図を得られた気がする。
読了日:11月3日 著者:野家啓一
http://bookmeter.com/cmt/42518122

 

朝鮮半島をどう見るか (集英社新書)

朝鮮半島をどう見るか (集英社新書)

 

 ■朝鮮半島をどう見るか (集英社新書)

 韓国・北朝鮮への肯定的・否定的なステレオタイプを丁寧に解きほぐし、「ありのまま」の朝鮮半島の姿を見るための方法を提起する。強い民族意識や植民地支配に関する論争などを取り上げ、それらに関する言説の多くが事実の作為的なな取捨選択、データの誤読やらによって裏付けられていることが示されていて、なるほどなという感じ。最終的には、朝鮮半島の人々をある意味で普通の他者として捉え、そのわからなさを踏まえた上で関係性を築いていくほかないという主張が提起されるが、まさに正鵠を得ていると感じた。

 この本が出て10年の時が経つが、昨今のヘイトスピーチの問題やらを鑑みるに、未だに朝鮮半島への視線はステレオタイプから脱せていないというか、ますます実態を離れたイデオロギッシュな認識が幅を利かせているような感すらある。だからこそ、われわれが朝鮮半島に生きる人々をどう見ているのか、それを丁寧に跡付けている本書は未だに価値を失ってはいないと感じた。それは悲しいことだよなー、やっぱり。

 本の感想をTwitterでつぶやいたら著者の木村幹先生にお叱りを受けたのも思い出深い。Twitter上でも先生の指導を受けられるとはいい時代になったもんだ。不出来な学生としては戦々恐々ですが。
読了日:11月5日 著者:木村幹
http://bookmeter.com/cmt/42557134

 

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)

 

 

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)
ハーメルンの笛吹き男伝説」を導きの糸に、ヨーロッパ中世の世界を描き出す。ヨーロッパの中世世界を描き出しながら、伝説のもとになったであろう歴史的事実を探るその叙述のスタイルがまず魅力的。そして、都市の内部の下層民や遍歴する芸人たちなど、中世社会のアウトサイダーたちの生を、伝説の形成へと接続していくその鋭い感覚。流石名著の誉れ高いだけあるなと。伝説のもととなったであろう歴史的事実の推定のみならず、伝説の変容過程をも射程に収めており、それがまた面白かった。名著とされるのもわかる。

<ハーメルンの笛吹き男伝説>が最終的に「解明」されることは、おそらく近い将来にはないだろう。それまでは書を読み、文を綴るほどの者は伝説と自己との無限の距離に耐えつづけなければならないのだろうか。

読了日:11月6日 著者:阿部謹也
http://bookmeter.com/cmt/42568684

 

 

社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)

社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)

 

 ■社会主義への挑戦 1945-1971〈シリーズ 中国近現代史 4〉 (岩波新書)

 第二次世界大戦後から、文化大革命が収束の兆しをみせるまでの四半世紀を概観する。国民党の対内、対外政策が行き詰まるなかで人々の支持を集めて政権の座についた共産党社会主義によって富強の国を作るという一貫した目標が、文化大革命まで貫かれているものの、大躍進政策の失敗から調整期、そして文革と、急進化しようとする勢力とそれを押しとどめようとする勢力との対抗関係があり、その一進一退で政策が変化してきた、というのが全体の見取り図だろうか。それぞれの時代を写した映画なども紹介しつつ、簡明にまとめられていてよい。
読了日:11月7日 著者:久保亨
http://bookmeter.com/cmt/42590826

 

開発主義の時代へ 1972-2014〈シリーズ 中国近現代史 5〉 (岩波新書)

開発主義の時代へ 1972-2014〈シリーズ 中国近現代史 5〉 (岩波新書)

 

 ■開発主義の時代へ 1972-2014〈シリーズ 中国近現代史 5〉 (岩波新書)

 文化大革命の終わりから現代までの通史。著者二人は歴史ではなく政治学系の人みたいで、叙述も(はじめににあるように)政治の動向に重点がおかれている。文化大革命の時代と現代とは自分のなかで隔絶した印象があったが、文革の時代に開発主義の萌芽をみる本書の視座によって、その連続性にようやく意識できるようになったかなという印象。2014年に至るまで同時代的な状況の変遷も記述されていて、歴史についてというよりは時事についての本だよなーとも思った。
読了日:11月7日 著者:高原明生,前田宏子
http://bookmeter.com/cmt/42602314

 

政治的なものの概念

政治的なものの概念

 

 ■政治的なものの概念

 政治の本質を「友・敵」関係で捉えることを提起する。確かに本書の挙げる事例をみると、政治的なものは徹頭徹尾「友・敵」の対立関係でしか構成され得ないような気がしてくる。カール・シュミットといえば、ナチスの御用学者というイメージが自分の中に強くあったのだけれども、本書の叙述だけを取り出してみると独裁政権への志向だとか反共産主義社会主義みたいな姿勢はそんなに読み取れなかったかも。「友・敵」関係が本質的だとして、それを本質とみなすことで何がみえてくるのか、どんな問題が浮き彫りになるのか、というのもイマイチ掴めず。
読了日:11月8日 著者:C.シュミット
http://bookmeter.com/cmt/42629381

 

ライフストーリー論 (現代社会学ライブラリー7)

ライフストーリー論 (現代社会学ライブラリー7)

 

 ■ライフストーリー論 (現代社会学ライブラリー7)

 「本書は、かならずしも通常の教科書のように目配よく作られてはいない。ライフストーリーの特質の理解や分析・解釈にあたって使い勝手がよいと思われる概念や道具立ての一部を、インタビューという相互行為を基礎におく考え方で論じたものである」とあとがきにあるように、触りでライフストーリーとは何かをざっくばらんに説明したのちは実際の分析の場面を想定した説明がつらつら述べられていたような印象。ぼんやりとした状態で読んでしまったので、あんまり頭に入っていない。オーラルヒストリーの問題は歴史学畑の考え方と相入れるのだろうか。
読了日:11月10日 著者:桜井厚
http://bookmeter.com/cmt/42700927

 

文学理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

文学理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 

 ■文学理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 言語と意味、レトリック、物語やアイデンティティなどの論点を取り上げて、それぞれの問題を「理論」がどのように取り扱っているのかを概観することで、文学理論のなんたるかを示す。それぞれの理論について別個に説明するのでなく(補遺で簡潔にまとめられてはいるが)、それぞれの理論の問題の切り口をかいつまんで見せてくれるような語り口がいい感じ。どの論点に関しても、一つの結論に落ち着くでなく、対照的な回答が緊張関係をもって示されていたような印象。文学理論に限らず理論そのものの持つ意味についても考えさせられた。

 結局、僕みたいな素人が理論をかじってみる意味は「読みの多様性」に気付く一つの方法が得られる、というのが大きいのかなー。読みの多様性というか、複眼的な読みはそれ自体「楽しい」ものだと僕は思うので、よりテクストを楽しむために、理論はあるんじゃなかろうか。なんてぼんやりと考えていたことが追認されたような気分になったのでした。
読了日:11月11日 著者:ジョナサン・カラー
http://bookmeter.com/cmt/42726152

 

刑吏の社会史―中世ヨーロッパの庶民生活 (中公新書 (518))

刑吏の社会史―中世ヨーロッパの庶民生活 (中公新書 (518))

 

 ■刑吏の社会史―中世ヨーロッパの庶民生活 (中公新書 (518))

 中世から近世にかけて、供儀・呪術的な側面を強く持っていた処刑が、犯罪者を罰するという意味合いをもつ「刑罰」へと変貌するなかで、それを実行する主体たる刑吏へのまなざしも蔑みを纏うようになっていったことを、ディテール豊かに描く。中世的な都市が発生していく中で人々の感性が変容したことが「刑罰」を生む画期だと見なし、そのことが刑吏の蔑視を生じさせもした。全体として「刑罰の誕生」のような趣があるけれども、最後に様々な刑吏の人生が触れられるあたりがタイトルを回収してるっぽい。

 重田園絵さんのフーコー本で紹介されていたので読んだのだけれども、確かにこれは『監獄の誕生』を深めてくれる本だと感じた。こてんしゅ時代以前のヨーロッパにおける刑罰観の古層というか、フーコーが前提としているであろうビジョンがなんとなく掴めた気になった。刑罰やら拷問やらの記述はフーコーほど執拗ではないけれど、やはり読んでいて肌が泡立つ。

関連

ミシェル・フーコー『監獄の誕生―監視と処罰』を読む 前編 - 宇宙、日本、練馬

 読了日:11月12日 著者:阿部謹也

http://bookmeter.com/cmt/42748144

 

 ■なぜ、これがアートなの? (水戸芸術館現代美術センター展覧会資料 (第39号))

 アメリア・メナレス『なぜ、これがアートなの?』の出版をきっかけにして企画された展覧会のカタログ。作品はもとよりメナレスその人が行った、観客との対話型のギャラリートークが収められていて、それが面白い。対話の中から現代美術の意義やら面白さやらを引き出すメナレスのトークの力量に驚く。「アートを能動的に鑑賞する姿勢」が大事なんだよ!というのに着地していて、なんというか身につまされた。しかしやっぱり展覧会は現地で見てこそだよなー、とも思ってしまったり。時間をかけて能動的に見るためにも。

 メナレスさんの本が貸し出し中だったのでこっちを先に借りて読んでみたのだけれども、うん、メナレスさんの本を読んでから眺めた方がよかった。
読了日:11月12日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/42750685

 

知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)

知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)

 

 ■知の格闘: 掟破りの政治学講義 (ちくま新書)

 政治史家の著者が自身のこれまでの学問的に関わる来歴を語る。オーラルヒストリーから公共政策、建築など論題は多岐にわたり、一人の研究者がこんなに広い領域をカバーしているのかと単純に驚いた。研究に関することももちろん興味深く読んだのだけれども、そこかしこで語られる政治家やら研究者と直に接した著者の感触が印象的。小泉やらなんやら、有名政治家の「実像」がわかった気になるというか。講義というよりは、下世話な好奇心が喚起されるような本だった。いい意味で。
読了日:11月14日 著者:御厨貴
http://bookmeter.com/cmt/42786120

 

世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫)

世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫)

 

 ■世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫)

 14世紀から16世紀を中心としたヨーロッパ史の概説。主にイタリアにおける文化の興隆とその背景となった諸都市の政治状況、宗教改革に大きな紙幅が割かれ、その二本を柱にした叙述になっているような印象。前半ルネサンスの文化、後半宗教改革みたいな感じで。特にルネサンス期のイタリアの描写には熱がこもっていて、書き手の愛情が伝わってくるので読んでいて楽しかった。時たま「現代日本は〜」的な床屋談義が挿れられているけれどもそれもご愛嬌かなと思える。一般向けの本なわけだし。
読了日:11月15日 著者:会田雄次,中村賢二郎
http://bookmeter.com/cmt/42805618

 

ニッポンの思想 (講談社現代新書)

ニッポンの思想 (講談社現代新書)

 

 ■ニッポンの思想 (講談社現代新書)

 80年代から00年代、ニューアカから東浩紀までの思想史。それぞれの年代で特定の論者を取り上げ、それぞれの時代の思想のあり方を摘出してみせる。著者は問題意識として「なぜ東浩紀はひとり勝ちしているのか?」という問いを掲げているが、それはそれほど前面に出ていないような印象。80年代=現状に批判的、90年代=現状に関与的(留保付き肯定)、00年代=現状に受容的、肯定的という全体像はなるほどという感じ。なんとなくカタログ的な読み味だったけれども面白かった。

 著者は東ひとり勝ちの理由を「ゲームボードの再設定」を行ったから、と述べているけれども、90年代までのシーソーゲームの構図に意識的であった東だからこそ、新たな状況を規定することが可能だった、的な感じに言い換えられるだろうか。それを「シーソーから降りる」と表現しているけれども、何故反対の極に加担するのでなく「降りて」いると言えるのか、いまいちわからず。
読了日:11月15日 著者:佐々木敦
http://bookmeter.com/cmt/42812082

 

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

 

 ■プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

 プロテスタンティズムの禁欲が、資本主義の精神を生み出したという逆説を、宗教改革の時代から辿ることで明らかにする。ルターの聖書の翻訳による「天職」という観念の創出、カルヴァンによる予定説の重視など、様々な要因が重なりあって「資本主義の精神」へと結晶をみる様を叙述するその筆致の魅力に引き込まれて一気に読了してしまった。宗教的なものが生み出した「不断の自己審査」・「自己の生活の計画的な規制」がやがて宗教的な意味合いが脱色され、ある意味で純粋な資本主義の精神になった的な理解でいいんかな。

 関連

マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読む - 宇宙、日本、練馬

読了日:11月16日 著者:マックスヴェーバー
http://bookmeter.com/cmt/42837765

 

道徳は復讐である―ニーチェのルサンチマンの哲学 (河出文庫)

道徳は復讐である―ニーチェのルサンチマンの哲学 (河出文庫)

 

 ■道徳は復讐である―ニーチェルサンチマンの哲学 (河出文庫)

 ニーチェに関わる論考を集めたもの。通俗的なニーチェ理解に対する異議を唱え、ルサンチマンやらニヒリズムやら永遠回帰やらを永井流に語る。弱者の復讐の手段だったルサンチマンが、もはや強者を二重に勝たせるための道具として使われているという逆説。支配的な価値観を全否定するのでなくそれを梃子に価値観を転倒させた、かつてのキリスト教による「奴隷一揆」。そんなことがニーチェの哲学の前提となっているらしいということがぼんやりわかった。内容が重複気味だったのが不満といえば不満だが面白く読んだ。
読了日:11月17日 著者:永井均
http://bookmeter.com/cmt/42868817

 

趣味は読書。 (ちくま文庫)

趣味は読書。 (ちくま文庫)

 

 ■趣味は読書。 (ちくま文庫)

 所謂ベストセラー本を取り上げた書評をまとめたもの。書評というには品がない。その品のなさが勿論この本の魅力で、こうまで内容を吟味してこき下ろせるのかと痛快な気分になるレベル。取り上げられている本はもう10年近く前のものなので、そのラインナップをみているだけで結構懐かしさを感じたりもした。著者が摘出したベストセラーの法則はすごくそれっぽい、というか現状でも全然通用するのでは。

いっておくけど、読書量の多寡は、インテリジェンスの多寡とは必ずしも一致しない。たくさん本を読んでいても神経の鈍い人、判断力のない人はいくらでもいるし、その逆もある。「知識人」と「大衆」なんていう単純な階層論で割り切れるほど、本の世界は簡単ではないのだ。

 斎藤先生、本を死ぬほど読んでいるであろうあなたがそれをいっちゃあ、ねえ。
読了日:11月21日 著者:斎藤美奈子
http://bookmeter.com/cmt/42956317

 

「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)

「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)

 

 ■「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス (NHK出版新書)

 「科学的思考」とはなんぞや、ということを解説する第一部と、現代において必要とされる市民の科学リテラシーを第二部からなる。科学的知識の内容は学校で習っても、その背景になる科学的な営みをつらぬく思考のあり方は学校では教えてくれないのだなあと第一部を読んで感じた。もしかしたら知識がある程度あるからこそ、メタ的なものを理解しうるのかもしれないけど。科学的な思考の特徴を科学史から具体例を引いて説明する手際がクールだった。市民の科学リテラシーについては、それが理想なんだろうがなかなかなあ、というのが正直な感想。

 結局、現代に生きる私たちは多かれ少なかれ科学的な営みに関わる当事者なんだろうけど、それでもどこか他人事みたいなところもある気がして。それこそが問題なんだろうけど。とはいえ、前半の科学的思考の特徴がめちゃくちゃ簡潔かつ平明に整理されているので、かなり勉強になった感がある。
読了日:11月29日 著者:戸田山和久
http://bookmeter.com/cmt/43126520

 

国語教科書の思想 (ちくま新書)

国語教科書の思想 (ちくま新書)

 

 ■国語教科書の思想 (ちくま新書)

 国語教科書に選択された教材の持つメタ的なメッセージを、テクスト論的な視角から検討する。教科書分析以前に、ゆとり教育との関連から問題化された「読解力低下」をめぐる議論に大きな紙幅が割かれている。PISAを論拠としているのにも関わらず、対応策はそれと全くマッチしていないことを示す。小学校、中学校国語の教科書分析は、主に「自然に帰ろう」、「他者と出会おう」という二つの隠れたイデオロギーを指摘し、後に書かれた『国語教科書の中の「日本」』(先月読んだ)と重なる。
読了日:11月29日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/43136010

 

来月のはこちら。

2014年12月に読んだ本と2014年の読書のまとめ - 宇宙、日本、練馬