宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年3月に読んだ本

 3月はいっぱい遊んだなーというのが正直なところです。何をやってるんだおれは。『少女革命ウテナ』をみたり『ヨルムンガンド』をみたりもしましたね。

いつか一緒に輝くための、最初の一歩―『少女革命ウテナ』感想 - 宇宙、日本、練馬

死の商人は世界平和の夢を見るか?―アニメ『ヨルムンガンド』感想 - 宇宙、日本、練馬

 学生身分でいられるのも後一年だし、ほどほどに引きしめて生きていこうと思います。

 先月読んだ本はこちら。

2015年2月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

図書館に訊け! (ちくま新書)

図書館に訊け! (ちくま新書)

 

  特に印象に残ったのは井上真琴『図書館に訊け!』学部1年の時の基礎ゼミ的な授業で読んで以来の再読ですが、あの時の自分はもっとこの本をしっかり読んでおくべきだった。図書館入門であり、そしてそれ以上に研究という営為への入門書でもある。

 春から大学に入学される方にプレゼントして回りたいし、すでに大学を離れた方にも調べもののハウツー本としておすすめです。名著ですよ名著。

読んだ本のまとめ

2015年3月の読書メーター
読んだ本の数:28冊
読んだページ数:7320ページ
http://bookmeter.com/u/418251/matome?invite_id=418251

 

都市 (ちくま学芸文庫)

都市 (ちくま学芸文庫)

 

 ■都市 (ちくま学芸文庫)

 西欧における都市の在り方の変化を追いながら、独特の「市民」的な意識の生じる過程を辿る。日本や東洋において生じることのなかった「市民」的な人々の意識が、なぜ西欧においては登場したのかという点に著者の問題意識がある。なので都市というタイトルを冠しつつも主題は市民のほうに重点が置かれているというような印象も。西欧の都市を大きく古代ギリシア・ローマ、中世都市、近代都市と三つに区分、中でも現在の連続性という観点から中世都市の画期性を指摘。権力におもねることのない自治の気風の源泉を中世都市の人々にみる。
読了日:3月2日 著者:増田四郎
http://bookmeter.com/cmt/45496580

 

 ■西洋が西洋について見ないでいること ---法・言語・イメージ [日本講演集]

 ルジャンドルが日本で行った三回の講演をまとめたもの。「西洋が西洋について見ないでいること」というタイトルにあるように、西洋的な理性が目を閉ざしているもの、見ないようにしているものを指摘することに主眼があるように思われる。定礎(=起源?)の制定の話やら、鏡の話やら、紙幅が少ないこともあってもっと説明して欲しかった、というか理解があんまり追いつかなかった。自明とみなされている西洋の普遍性、合理性みたいなことを突き崩すというのが問題意識としてあることはわかったが、具体的な戦略がつかめず、という感じ。
読了日:3月2日 著者:ピエール・ルジャンドル
http://bookmeter.com/cmt/45505722

 

歴史学「外」論―いかに考え、どう書くか

歴史学「外」論―いかに考え、どう書くか

 

 ■歴史学「外」論―いかに考え、どう書くか

 歴史・歴史学に関するエッセイ12篇を収める。歴史学という学問の専門性/素人性、歴史学における理論の位置、時代区分などなど、多くの議論がなされていて未だ決着をみていない(と思われる)問題群への率直なスタンスが語られていて面白く読んだ。歴史学「外」論という斜に構えた書名、くだけた構成のわりに内容は真摯な印象。著者の専門であるドイツ史に関する話題も多く、なるほどなーといった感じ。ドイツの「特有の道」論と、日本資本主義論争の類似なんかは特に印象に残った。
読了日:3月2日 著者:下田淳
http://bookmeter.com/cmt/45512705

 

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
 

 ■文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

 人類社会の不均衡、差異はどのように形作られたのか。その要因はなんなのか。その問いに答えるため、この上巻ではその「究極の要因」たる食料生産についておもに論じられる。たまたま栽培に適する植物があり、家畜化できる動物が住んでいた地域が、食料生産という点で圧倒的に有利な立場に立ち、結果として人口の増大を引き起こし、後に「征服」の要因となった。上巻ではタイトルのうち「病原菌」の話題のイントロで締めくくられる。今まで特に気にしてこなかった栽培植物、家畜に関する様々な知識が散りばめられていて、面白く読んだ。
読了日:3月3日 著者:ジャレド・ダイアモンド
http://bookmeter.com/cmt/45528383

 

 ■文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

 下巻では、文字の発明とその広まりから始まり、技術の革新を論じたのち、小規模血縁集団、部族社会、首長社会、国家社会という人類社会の4類型が示される。そうした前提を踏まえ、人類社会の差異がどのように形作られていったのかが特にオセアニアや中国、アフリカを具体例として分析する。結局のところ、(人種間の優劣でなく)食料生産の前提となる環境要因によって人類社会の不均衡は生じたのであるという結論に至る。結論自体は凡庸、というかレヴィ=ストロース以来の問題意識を継承している感があり、目新しくはないように思われるが、それを様々な学問の知見を縦横に引用し壮大な時間的スケールで説明しているのが名著たる所以と感じた。

 「環境決定論」的、といえばまさしくその通りだと思うけれども、その環境の含む要素は無数にあるわけで、それほど単純な決定論ではないのだな、と改めて感じた。人類史というスパンでなら所謂「科学的」な研究は可能だしむしろそれ以外の方法はナンセンスという感じがするが、歴史学の対象とする範囲だとどうなんだろうな、とは思った。
読了日:3月4日 著者:ジャレド・ダイアモンド
http://bookmeter.com/cmt/45557093

 

政治的思考 (岩波新書)

政治的思考 (岩波新書)

 

 ■政治的思考 (岩波新書)

 政治的なものに対する考え方について、ですます調で平明に語る。決定や討議、権力など、政治に関わるトピックごとに章立てがなされ、それぞれさまざまな思想家の知見を(明示はしていないが)引用しつつ、政治のあり方について著者の姿勢を示すような構成。権力に対する抵抗、何かを変えようとすることは、なにより自分への抵抗であり、自分を変えようとすることなのだ、というのがとりわけ印象に残っている。絶対的な「正しさ」がない政治という領域で、それでも「まあまあ正しい」道を目指すための戦略。それが本書で語られていることだと感じた。

 権力論などはフーコーの生権力論を参照しているように、さまざまな思想家の知見がバックにあると思われるが、「権威ある名前にふれることで、読者が思考停止してしまうことをおそれた」という理由で参考文献などが付されていなかったのが不満といえば不満。せっかくだから読書ガイドとかあればよかったのに、と思いました。
読了日:3月5日 著者:杉田敦
http://bookmeter.com/cmt/45586797

 

ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)

ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)

 

 ■ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)

 栄華を極めた大帝国ローマは、なぜ滅んだのか。その問いに、ローマの繁栄の内実を踏まえた上で回答を試みる。ローマ帝国の治世で繁栄したのは、周辺諸国や属州の富を搾取し簒奪したごく一部の上流の人びとのみであり、全体としては自足的な農業社会であった。そうした周辺からの収奪によって栄えた中心=ローマが衰退した原因を、著者はそのゲルマン人への蔑視感情に求める。コスモポリタン的な側面をもっていたローマ市民という枠組みからゲルマン人を排したことが滅亡につながったという「教訓」をどう活かすべきか、言外に語っていると感じる。

 中心-周辺という用語法からもわかるように、ウォーラーステインの世界システム論に示唆を受け、古代の地中海世界を捉えていることが印象的だった。古代史研究でもウォーラーステインインパクトは大きかったのだなと。著者もあとがきで述べているように、厳密に学問的な探求ではなく現代の問題意識を強く映した叙述になっているが、それゆえ門外漢でも面白く読めた。新書かくあるべしという感じ。
読了日:3月7日 著者:弓削達
http://bookmeter.com/cmt/45614897

 

 

「災後」メディア空間 - 論壇と時評 2012-2013
 

 ■「災後」のメディア空間 - 論壇と時評 2012-2013

 2012年から13年にかけての論壇時評をまとめたもの。著者の基本的な姿勢としては、「世論」(ポピュラー・センチメンツ)ではなく「輿論」(パブリック・オピニオン)こそが重要であるということ、即決する「ファスト政治」ではなく、遅延報酬的な決定を志向することの二点が特徴的であるように思われる。維新の会やアベノミクス、中国との関係など、現在でもクリティカルな話題に対しての「バックミラー」として有用だと感じる。それぞれの問題に、歴史を専門にする人間がどう切り結ぶのか、という点でも面白く読んだ。

 個別の議論では、「災後」に盛り上がりをみせたデモをポジティブに称揚する言説に対し、そのネガティブな面に目を向けることの意味を説いていたのが特に印象的。

だが、「デモによってもたらされる社会」は、必ずしも幸福な社会とは限らない。ドイツのナチ党はデモや集会で台頭したし、それを日常化したのが第三帝国である。街頭の世論形成を無条件に肯定する議論に私は違和感を覚える。デモの賞賛は「代議士の選挙」への絶望感の裏返しだからである。

読了日:3月7日 著者:佐藤卓己
http://bookmeter.com/cmt/45638584

 

 

図書館に訊け! (ちくま新書)

図書館に訊け! (ちくま新書)

 

 ■図書館に訊け! (ちくま新書)

 大学図書館に勤務する筆者が、図書館の有効な使い方(資料自身に「訊く」、図書館員に「訊く」、図書館のネットワークを通じて「訊く」)をレクチャーする。内容は単に図書館の使い方だけにとどまらず、そこからはじまる研究という営為そのものへの具体的な道案内になっていると感じる。それが具体性をもつのは図書館というインフラと、その使い方を熟知している著者の力量ゆえだと思う。事物を調べるために有効で、かつ効率的な方法をこうまで懇切丁寧で具体的に教えてくれる本は他にあるのだろうか。改めて素晴らしい本だと感じた。

 入り口は容易に通過できるが、出口は永久にみつからない。免許皆伝はとうていありえない。図書館の世界、資料の世界は懐が深いのである。だから逆に落胆することも身構える必要もない。図書館とは、永久に「未知の国」から「悉知の国」となることのない深遠な存在なのだから。

読了日:3月8日 著者:井上真琴
http://bookmeter.com/cmt/45648334

 

古文書返却の旅―戦後史学史の一齣 (中公新書)

古文書返却の旅―戦後史学史の一齣 (中公新書)

 

 ■古文書返却の旅―戦後史学史の一齣 (中公新書)

 1950年代に収集、整理のため水産研究所が借り受けた史料をめぐるエッセイ。それを著者が借りた時の風景や、所在の混乱、返却のさいの世代を超えた人との交流など、読み物として面白い。霞ヶ浦のエピソードに象徴されるように、50年代から高度成長を経て、地方の風景も一変したのだなあという当たり前のことを改めて感じた。また近世史、中世史の史料ひとつとっても、それが失われていないということに純粋に驚きを感じたし、それを発掘してくる歴史学者の根性ってすごいのだなあ、と。面白く読んだ。
読了日:3月9日 著者:網野善彦
http://bookmeter.com/cmt/45686093

 

市民の政治学―討議デモクラシーとは何か (岩波新書)

市民の政治学―討議デモクラシーとは何か (岩波新書)

 

 ■市民の政治学―討議デモクラシーとは何か (岩波新書)

 現代社会は近代社会が変質した「第二の近代」社会である、との認識に立ち、そのような社会における市民の在り方、それを制度化した「討議デモクラシー」の可能性を論じる。ウルリッヒ・ベックの議論に依拠した「第二の近代」社会及びその前提たる近代社会の特徴が簡潔平明にまとめられていて、勉強になったものの、ハーバーマスを批判的に継承した「討議デモクラシー」の有効性、意義は十分には納得できず。ベックのいうサブ政治の一形態として、議会の外でそうした議論を試みるという姿勢と海外での実践はなるほどなあ、という感じだが。
読了日:3月9日 著者:篠原一
http://bookmeter.com/cmt/45697343

 

 

ミシェル・フ-コ- (講談社現代新書)

ミシェル・フ-コ- (講談社現代新書)

 

 ■ミシェル・フーコー(講談社現代新書)

 本書の特徴は、フーコーの思想を「主体」の問題という軸から整理している点にあるのではないかと思われる。『言葉と物』でみられるような言説の分析、『監獄の誕生』における権力の解剖、そして晩期の『性の歴史』2・3巻での自己の問題、何れもが自由な「主体」の在り方を念頭においている、というのが本書の着眼という気がする。『言葉と物』、『監獄の誕生』という二つの主著の論旨を追いつつ、マクロなフーコーの全体像をも説得的に提示しているのが白眉。特に『言葉と物』の解釈は丁寧であるなあ、と改めて感じた。
読了日:3月10日 著者:内田隆三
http://bookmeter.com/cmt/45705929

 

東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

 

 ■東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

 日本列島における東側と西側との文化的差異に着目して、古代から中世にかけての歴史を語り直す。考古学などの知見に基づいて、列島のなかでも統一的な単一民族がなかったことを前提に、次第に東=武家=イエ的、西=天皇=ムラ的、という対立軸が出現していく過程を跡付けているように思われた。とはいっても東西の交流への目配りもあり、単純な構図に落とし込むことは慎重に避けてもいる。著者の専門とする中世史の叙述に紙幅が割かれているのだが、鎌倉幕府という「東国国家」が成立したインパクトは大きいのだなあ、と思ったりした。
読了日:3月13日 著者:網野善彦
http://bookmeter.com/cmt/45769153

 

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

 

 ■日本社会の歴史〈上〉 (岩波新書)

 日本社会の通史。上巻で扱われるのは、列島の形成期から9世紀ごろの平安時代初期まで。一読して、意外なほど政治史の記述が厚いという印象を受けた。網野さんの描く通史がこれほどまでに政治の記述を重視しているのはちょっと意外だった。なんとなく、国家がまだらな列島社会を一つの統一体へ編成していくような流れが全体の雰囲気としてあるような気がし、「自由」の衰退という一つの歴史像を、「平民」の側からでなく為政者の側から描いているのかなーと感じた。ある意味教科書的な記述のなかにも網野史学のエッセンスを感じるというか。
読了日:3月13日 著者:網野善彦
http://bookmeter.com/cmt/45786773

 

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

 

 ■日本社会の歴史〈中〉 (岩波新書)

 中巻で扱われるのは、平安時代における藤原氏摂関政治から、鎌倉幕府の滅亡まで。かつて平将門が果たせなかった東国国家を成立させた鎌倉幕府と、それでもなお独自の権力を持ち続けた朝廷、西国政権との対抗関係を軸にした叙述になっているという印象。この巻では東国国家が日本列島全域に支配を広める過程とその崩壊による朝廷側の揺り戻しが起こるまでが描かれる。また、各時代の政治の志向が整理されていてなるほどなという感じ。平氏政権下の西国重視路線と京都中心の路線、鎌倉幕府内での農本主義的な路線と重商主義的な志向とか。
読了日:3月14日 著者:網野善彦
http://bookmeter.com/cmt/45809691

 

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

 

 ■日本社会の歴史〈下〉 (岩波新書)

 下巻では南北朝の動乱期から江戸初期までを叙述したのち、現代までの流れを概観するような構成。室町期、14世紀から15世紀にかけて貨幣経済が浸透し、「列島社会の文明史的・民族史的転換」が生じたこと、また江戸初期に海禁政策をはじめとする民衆への統制が進んだことの二点が本書で扱われている時代におけるターニングポイントではなかろうか。特に後者はまだらだった列島社会のありようが、江戸期に外部との関係を切断されることによって一元化する契機となったように思われる。

 三巻とも政治史の記述が厚かったことは、日本史が専門ではなく、その流れを掴みたいと考えていた自分にとってはありがたかった。ところどころ非農業民や被差別民への言及はあるが、他の著作と比べると言及の度合いも少ないように思われ、「網野善彦による通史」的な色は前面には出ていないという気も。

 本書の位置づけとしては、『無縁・公界・楽』と裏表の関係にあるような。日本社会における「自由」の衰退をそれを担った人々の側から描いている(と思う)『無縁・公界・楽』と、「自由」を抑圧する側の国家の成立過程を丁寧に跡付けている『日本社会の歴史』。どちらにも共通の網野史観的なものがみえるようなみえないような。
読了日:3月15日 著者:網野善彦
http://bookmeter.com/cmt/45814881

 

マルクスの使いみち

マルクスの使いみち

 

 ■マルクスの使いみち

 新古典派経済学の道具立てで、かつてのマルクス主義経済学の追求したテーマを論じることの意義を説く。対談形式で様々な話題が展開され、経済学の知識に乏しい自分にはついていけなかったというのが正直なところ。特に様々な経済学者の見解が検討される第2章はつらかった。著者のひとりである稲葉振一郎『経済学という教養』を再読したほうがよいのでは、との思いを強くした。最終的には公正と正義をめぐる問題なんかも触れられ、マルクス主義の射程は流石に広いのだなーという感じ。
読了日:3月15日 著者:稲葉振一郎,松尾匡,吉原直毅
http://bookmeter.com/cmt/45818521

 

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 ■フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 フェルマーの遺した予想を軸に、それに闘いを挑んだ数学者たちのドラマが描かれる。何故この本が面白いかといったら、それはやっぱり「数学」についての本じゃなくて「数学に取り組んだ人たち」を描いているからじゃないか。だから、後半になるにつれて、「~~についてめっちゃ勉強して準備した」みたいな、数学そのものの叙述は薄くなる。それが悪いとは全く思わないですよ、もちろん。むしろ三世紀の時を経て、歩みを進めてきた数学者たちのドラマに胸が熱くなる。数学、なかでもとりわけ数論の領域における厳密さってすごいなーとか、ピタゴラスからの連続性のうえに数学という学問があるということにロマンを感じたりしました。

読了日:3月15日 著者:サイモンシン
http://bookmeter.com/cmt/45832915

 

非日常性の社会学 (早稲田社会学ブックレット―社会学のポテンシャル)

非日常性の社会学 (早稲田社会学ブックレット―社会学のポテンシャル)

 

 ■非日常性の社会学 (早稲田社会学ブックレット―社会学のポテンシャル)

 デュルケムらの聖俗理論と、シュッツの現象学的社会学の統一を図り、日常性と非日常性という分析視角を提示する。それまで宗教との関わりで論じられてきた非日常性の領域を、「超越性」という観点から捉え直すことでその射程を広げ、より広範な対象を分析することを可能にしたのが本書の提示する「日常性/非日常性」という図式であるように思う。それによってシュッツの現象学的社会学の乗り越えを図っているのだが、そこらへんの論理展開はあんまり追えず。現代における「日常生活世界の殻が厚くなっている」という指摘が印象的。
読了日:3月17日 著者:山田真茂留
http://bookmeter.com/cmt/45873591

 

リヴァイアサン (講談社学術文庫)

リヴァイアサン (講談社学術文庫)

 

 ■リヴァイアサン (講談社学術文庫)

 主権国家の形成過程を歴史的に跡付ける第一部と、ホッブズ、ケルゼン、シュミットの思想を論じる第二部からなる。著者はかつての帝国が主権国家へと分裂したことを「人類史上最大の誤り」とまで批判し、主権国家の暴力性を強調しその乗り越えの必要性を説く。第二部は断片的には面白く読んだのだけれども、ぼんやりとしか理解できてない感。ケルゼン、シュミットはその生涯に紹介されていて、その人柄にふれたような感じがし、単純に面白く読んだ。シュミットは先行する解釈を踏まえた上で、その思想の神学的な側面が重要である、というのが印象的。
読了日:3月19日 著者:長尾龍一
http://bookmeter.com/cmt/45937087

 

中国が読んだ現代思想 サルトルからデリダ、シュミット、ロールズまで (講談社選書メチエ)

中国が読んだ現代思想 サルトルからデリダ、シュミット、ロールズまで (講談社選書メチエ)

 

 ■中国が読んだ現代思想 サルトルからデリダ、シュミット、ロールズまで (講談社選書メチエ)

 文化大革命以降の30年間において、中国はどのように西洋の思想を受容してきたのかを概観する。それぞれの思想家が中国の文脈でどのように理解され、必要とされたのかが簡潔にまとまっており、またその思想家自身がどのように中国と向き合ったのかも触れられていて面白く読んだ。「訪中」という契機に大きな紙幅が割かれ、その思想家の中国における一挙手一投足が理解できる、といったら言い過ぎかもしれないが。30年という短いスパンで、啓蒙主義からポストモダン思想へと一気に走り抜けている、というのが率直な印象。
読了日:3月21日 著者:王前
http://bookmeter.com/cmt/45971186

 

モダンのクールダウン (片隅の啓蒙)

モダンのクールダウン (片隅の啓蒙)

 

 ■モダンのクールダウン (片隅の啓蒙)

 東浩紀の「動物化」論など、いわゆるポストモダンに関する議論を整理し、その内実や意義、そして展望を提示する。現代における「大きな物語の解体」というテーゼを、文学やSFなどのフィクション作品を手掛かりに精査し、モダンとポストモダンの差異をくっきりと浮かび上がらせる。東の議論を永井均などと対比してその位相を示し、大塚英志の議論を包摂する形で批判的に乗り越えようとしている。近代の夢から醒めても、その理想はクールダウンさせて継承しようというのが著者の立場だろうか。情報量が膨大で、十分には本筋を追いきれなかった感。

 現代のような、「環境管理型権力」の浸透する社会をテーマパーク型社会、と名指していたのが印象的だった。あえてテーマパーク的と形容することで、その限界を見定めようとするという含意はなるほどなーという感じ。
読了日:3月22日 著者:稲葉振一郎
http://bookmeter.com/cmt/46019427

 

 

フーコーの穴―統計学と統治の現代 (明治大学社会科学研究所叢書)

フーコーの穴―統計学と統治の現代 (明治大学社会科学研究所叢書)

 

 ■フーコーの穴―統計学と統治の現代 (明治大学社会科学研究所叢書)

 マルコヴィッチの穴ならぬ「フーコーの穴」を通して世界を見る、という問題意識から書かれた論文集。地理情報システムや教育行政の変化など、現代日本における社会編成の在り方、「統治のテクノロジー」の変化をとりあげたものや、人間の「測り方」を論じたものなど、これがフーコーの「使い方」なのか、と面白く読んだ。個人の行動、属性をばらばらに分解して統計的に分析し、そこから平均的な人間像を構築して基準を創造していく、的な発想が、つまりは「正しく測る」ということなんだろうか。いずれ再読したい。
読了日:3月23日 著者:重田園江
http://bookmeter.com/cmt/46031112

 

読者はどこにいるのか--書物の中の私たち (河出ブックス)

読者はどこにいるのか--書物の中の私たち (河出ブックス)

 

 ■読者はどこにいるのか--書物の中の私たち (河出ブックス)

 「読者」を一つの軸として、近代文学の読解のパラダイムの変遷、読みの共有によって成立する「内面の共同体」など、読みの営為に関わる問題を論じる。読解のパラダイムが、「作者の意図」を明らかにしようとする作家論から、テクストそのものを重視する作品論へと移り変わるなかで、「作者」は死に、読者が存在感を持つようになってきた、というのがパラダイム転換。作者のミスと思われるような点さえも、「テクストはまちがわない」という信念のもとで読みを更新してみせる『容疑者xの献身』の読解や、芥川『蜜柑』の解釈史など作品解釈が面白い。
読了日:3月24日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/46050186

 

被災した時間―3.11が問いかけているもの (中公新書 2180)

被災した時間―3.11が問いかけているもの (中公新書 2180)

 

 ■被災した時間―3.11が問いかけているもの (中公新書 2180)

 東日本大震災直後から約一年間の間の時評をまとめたもの。こういう文章を読んでいるとあの頃の記憶が未だに生々しく思い出され、その意味で災後は未だに終わっていないのだなあと感じる。パウル・ツェランの詩が特に震災直後の文章では印象的に引用され、それが心を打った。被災者のメンタルケア、災害時のひきこもり問題などが取り上げられている点が特に著者の色が出ている。阪神淡路大震災の経験が活かされつつも、高齢化が進んでいる地域特有の問題もあるのだなーと。被災した時間の経験は、まだ風化させるには早すぎる、との感を強くした。
読了日:3月24日 著者:斎藤環
http://bookmeter.com/cmt/46056939

 

西欧近代を問い直す (PHP文庫)

西欧近代を問い直す (PHP文庫)

 

 ■西欧近代を問い直す (PHP文庫)

 西欧の近代化は決して単線的な進歩などではなく、20世紀の初頭にしてすでにニヒリズムに陥っているということを、思想史的に跡付ける。所謂近代的とされるもの、主権国家や自立した個人、資本主義などの形成を簡潔に提示し、そのいずれもが単に進歩とはいえないのであることを示していくような構成になっている。ホッブズやルソーなど様々な思想家が参照されるが、なかでもウェーバーの捉えた近代の像に多くを拠っているような印象。ウェーバーの見立てた近代人の孤独とそれを取り巻く「檻」が形成されるまでの思想史、みたいな印象。
読了日:3月25日 著者:佐伯啓思
http://bookmeter.com/cmt/46072897

 

昭和天皇の終戦史 (岩波新書)

昭和天皇の終戦史 (岩波新書)

 

 ■昭和天皇の終戦史 (岩波新書)

 敗戦後、「国体護持」、天皇の免責を目指し行われた政治工作を、『昭和天皇独白録』など当時(92年)公開された新史料を駆使して跡付ける。リベラルな「穏健派」の重臣グループが、東条英機に代表されるような陸軍などに意図的に戦争責任を負わせ、それが冷戦のパワーゲーム上の作用する中で米国の利害とも一致し、天皇の戦争責任は棚上げされることになった。しかし実際には天皇は独自の影響力を持つ政治的主体であり、その免責が日本における戦争責任の議論を呪縛してしまったとする。細かな政治過程が描かれるのにも関わらず、読み易かった。

 軍事的なクーデターを起こしかねない陸軍への恐れとか、当時の政治過程を左右したであろうファクターはなかなか現代では想像するのが難しいなーと感じた。天皇の持っていた、現実の国民よりも「皇祖皇宗」を重んじる独特の意識なんかも。
読了日:3月28日 著者:吉田裕
http://bookmeter.com/cmt/46150335

 

20世紀とは何だったのか (PHP文庫)

20世紀とは何だったのか (PHP文庫)

 

 ■20世紀とは何だったのか (PHP文庫)

 ニヒリズムに直面せざるを得なくなった20世紀、つまり現代社会の諸問題を論じる。キーとなるのは、「大衆社会」と「故郷喪失」。大衆社会化がニヒリズムの広範な浸透を招き、そのことが絶対的に信じられる価値の崩落を生じさせる。そのような状況の中で、人間は寄る辺をなくした故郷喪失者となるほかない。ニーチェハイデガーなどの思想を、そうした状況への応答として解釈し、またファシズムなど20世紀を刻印付ける動きをそれらの帰結とみる。叙述の巧みさが著者の捉える現代像を強固に支えており、強い説得力を感じた。
読了日:3月30日 著者:佐伯啓思
http://bookmeter.com/cmt/46191132