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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

月世界の革命をなぞる―ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』感想

読書

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

  ブライアン・シンガー監督により映画化されると小耳にはさんだので、ロバート・A・ハインライン月は無慈悲な夜の女王』を読みました。ミーハーか。

ブライアン・シンガー、ハインライン著のSF小説「月は無慈悲な夜の女王」映画化の監督へ - シネマトゥデイ

 文庫で700頁近い長大さだったので、海外SFものを投げ出しがちな僕が読み切れるか大層不安だったんですが、読み切りました。やればできるじゃん。以下で簡単に感想を。

 月と革命

 『月は無慈悲な夜の女王』は、地球によって搾取される月世界が、その独立を求めて革命に立ちあがる物語。この極めてシンプルな筋を、極めてディティール豊かに描いているのが何よりの魅力で、長大な頁数でディティールを積み重ね続ける。それによって肉づけされるのが、いかにもありえそうな月世界の姿と、本物っぽい革命のあり様。

 地球社会の流刑地として、地上を放逐されたものたちとその子孫が住む月世界は、地球とは異なる、独特の社会制度をもっている。地球の表面だけでも様々な社会の在り方があるわけだから、この事態は至極当たり前のものでもある。しかしその社会が、本当にありそうな感じを演出するか、つまりはリアリティを如何に説得的に描くか、というのは至難でもあると思うのですよ。それをこの作品は見事にやってのけている、という気がする。さすが半世紀読み継がれているだけある。

 地球の流刑地という状況からスタートして、どのように社会が形成されるのか。その優れた思考実験として、本作は読める。犯罪者には男性が多い、ゆえに月世界には女性が少なくなる。そうなると、女性の社会的位置は地球のそれとは異なることになる。女性は社会的に尊重され、一夫一婦制ではない、独特の結婚制度が築かれる。ここら辺のロジックはすげー面白いなと思いました。

 そんな独特の月世界で着々と準備される革命は、水面下でじりじりと進行する。その地下活動を円滑かつ強烈に進めるため、最強のコンピュータ、マイク(マイクロフト・ホームズ)のバックアップがあって、困ったことは全部こいつが解決しちゃうのだけれど、まあこいつくらい有能な奴がいないと革命が成るまでに2000頁くらい必要になりそうだもんね。そんな超有能なマイクも所詮コンピュータに過ぎないわけで、すべてを思う通りにはできない。だから革命はそんな一足飛びには進まない。その地下活動はじわじわと、しかし確実に進行し、それは丁寧かつ詳細に描写される。

 このじわじわ具合は読み進めていて結構やきもきしたりもするのだけれど、搾取される月世界の住民たちは、刺激を与えられれば瞬く間に爆発もする。まさに急転直下で行政府を打倒す1章のラストは、それゆえ爽快感が尋常ではなくてですね。

 

 とはいえ、最終的に革命が成って独立が認められると同時に、主人公、マヌエル・ガルシア・オケリー・デイビスは大事なものを、かけがえのない友人を失う。タンスターフル=「無料の昼食などというものはない」(There ain't no such thing as a free lunch)、は、月世界が地球に突き付けたものであると同時に、この結末をも示唆しているようないないような。この物哀しさも、なんだか良かったです。

 

独立革命という神話

 文庫本の末尾の解説に、ハインラインといえば日本では『夏への扉』が人気だが、本国アメリカでは『月は無慈悲な夜の女王』のほうが人気なんじゃよ、みたいなことが書かれていたんですが、それには納得しきりというか、彼の国の人びとは未だに独立革命の神話を生きておるのだなーとの感が。

 本作を読んで結構意外だったのが、徹頭徹尾一人の主人公、マニーが語り手であるということ。なんとなく、ポリティカルな要素のある作品って、様々な状況・立場を描くために視点を分散させる傾向にあると思ってたんですよね、なんとなく。だから、一人の語り手の目線でひたすら進行していくのがなんだか新鮮だった。まあこれを可能にしているのは、超有能なマイクくんがほぼあらゆる情報と可能性を握っていてマニーと共有しているから、というのが大きい気がしますが。

 マニーという一人の語り手によって語らせること。その方法が意味するのは、徹頭徹尾月世界側の目線で、この革命劇を描くということ。本書を読み進めるのは、月世界人たるマニーに同一化するほかなく、ゆえに読者たる我々も、否応なしに革命する側に身を置くことになる。

 つまり、本書を読み進めることは革命という経験の追体験であり、アメリカ人にとっては、建国の神話を生き直すことなんですねー。適当です。

 

 というわけで、この原作をどう料理して映画にするのか、大変楽しみです。

 

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