宇宙、日本、練馬

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灰色の地元、カラフルな東京―『SHIROBAKO』第8話「責めてるんじゃないからね」感想

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 今更ながら、先日(もう「先日」でもないか…)最終回を迎えた『SHIROBAKO』を見ています。評判の良さから気になっていたのですが、「業界モノ」っていうのでなんとなく敬遠してたんですね。しかし友人があんまり薦めてくるもんで、見てみたらめちゃくちゃ面白いじゃないですか。以下で簡単に8話まで見た感想を。

 「東京に出る若者たち」

 なぜ8話という中途半端なところで感想を書いておこうと思ったのか。「えくそだすっ!」は未だ完成をみていないし、番組編成を考えても区切りとしてはちょっと弱い。

 しかし7話「ネコでリテイク」と、8話「責めてるんじゃないからね」には、僕が『SHIROBAKO』を見ねばならないと思った、重要なものが描かれているのです。それは、「地元」と「東京」の問題。

 宮森あおいをはじめとするメインキャラクターたちは、上山高校アニメーション同好会出身。その同好会で苦楽を共にした面々が、実際にアニメの現場ではたらくドラマが展開される。

 この上山高校は架空の高校なわけですが、おそらく山形県上山市にあるとみてほぼ間違いないと思われます。それは7話―8話において、宮森の姉、宮森かおりが登場することによって決定的になった。彼女は7話で新幹線を使って東京まで出てきたことが示されますが、実際に上山市内には山形新幹線が通っており、市内のかみのやま温泉駅から宮森あおいの住むアパート最寄りの武蔵境駅まで、約3時間半あれば到着できちゃうようです。さすが新幹線速い。

 そして8話の終盤では、かおりがあおいに「まんず、がんばっぺ!」とお国のことばでエールを送る。これらのことから、まあ間違いなく宮森たちは山形出身とみて間違いないと思われます。そう、『SHIROBAKO』はアニメ製作を題材にする「業界モノ」であると同時に、「東京に出る若者たち」の物語でもあるわけです。これが、僕が『SHIROBAKO』に惹かれた大きな理由です。

 

灰色の地元

 7‐8話において、主に描かれるのは「東京に出る若者たち」の一人にして武蔵野アニメーションのアニメーター、安原絵麻の挫折と再出発。彼女がミスを犯し、そこからどう進むのか、ということを軸にドラマが展開され、彼女がひとまず進みだしたところで、ひとつながりの2話をかけてそれにひと段落がつく。

 しかしそれと同時並行で、別の2話完結のドラマが描かれてもいる。それが宮森の姉、かおりのつかの間の来訪。この2話は、絵麻だけでなく、かおりの再出発をもパラレルに描いている。そして一見破天荒にみえる彼女が作品内に持ち込んだのが、「地元」と「東京」の鮮烈な対比なのである。

 宮森かおりは、7話においていきなり東京を訪れる。この唐突な展開は、『SHIROBAKO』という作品の中でも結構異質だと思う。それまでのエピソードでは、出来事の伏線はさりげなく、しかしはっきりと描いてきた。高梨太郎の情報伝達の稚拙さによる作画と3Dの軋轢やら、落合達也の退社やらは、結構露骨にその前兆が画面の中に表われていて、それが事件の到来をはっきりと予告する。しかしかおりの訪問は、はっきり唐突だ。いきなりあおいに電話が入り、そしてすぐさま東京に来る。この異質な唐突さは、それ自体ではっきりと意味をもつ。

 

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 かおりは、何故東京に来たのか。その謎は、8話の序盤で明らかになる。地元の信用金庫に就職したかおりの日常は、退屈で憂鬱なものだったからだ。彼女の働く姿を描く場面は、露骨に暗い色調が使われ、それが退屈さのイメージを強調する。彼女にとって、地元は「灰色」。それが雄弁に伝わってくる。その退屈さを紛らわすたまの気晴らしのため、有給休暇をとって東京に来たというわけだ。まさに現代人という感じ。

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 彼女は東京で存分に消費を楽しみ、そして地元へと帰ってゆく。絵麻の再出発には先輩の後押しが必要だったが、彼女のそれにはあんまり他者は介在しない。妹やその友人たちとの交流は、多分それは彼女の再出発との関係は薄い。多分、「灰色の地元」を感じさせないものとの接触こそが第一で、そうであればこそ、「唐突に」地元を離れることこそ必要だった。

 憂鬱になっても、一人で立ち上がる術を身につけているかおりは、絵麻とは、ひいては宮森とも対照的かもしれない。そして、地元を離れまたそこへと帰っていくかおりの往復運動は、行っては帰らぬ(であろう)宮森たちの運動とはまた対照的。「灰色の地元」に何故かおりが残るのか。そこにはまたドラマがあるんだろうが、結局のところ、その理由は知る由もなく、ドラマは語られずに終わる(だろう、多分)。ただ、宮森たちと別の論理で生きる人々の姿を、物語の中に差し挟んだことの意味は、とてつもなく大きい、と僕は思う。

 

地元と「あの日の約束」

 かおりにとって、地元は「灰色」だったが、一方「東京に出る若者たち」たる宮森たちにとっての地元がそうであるかというと、それはそうでもないという気がする。宮森の両親は彼女を応援しているようだし、決してネガティブな感覚はなさそうだ。そして何より、地元は多分宮森たちにとっては、忘れ得ぬ約束を交わした場所として、記憶の中に刻み込まれる場所なんじゃなかろうか。

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 となると、「美しき地元」を生きることができるのは、むしろそこを離れた≒捨てた人間たちだけなんじゃないかという皮肉な結論を導き出したくもなるが、それはさておいて。地元の友人と一緒に東京に出て、同じ方向の夢を見ることって、東京にはでているけれど、強く地元と地続きな道を生きているのかも。

 地元と東京の問題系が強く意識されて語られることって、もしかしてこの先のエピソードではないのでは、と思ったので8話までの感想を書きました。それはともかく、『SHIROBAKO』の続きをみるのが僕はとても楽しみです。

 

 関連

「地元」を軸に語りうる作品について。

「地元」に呪われる若者たち―『STAR DRIVER 輝きのタクト』と『氷菓』 - 宇宙、日本、練馬

 

5月8日追記。最終話まで視聴しての感想。

amberfeb.hatenablog.com

 

 

COLORFUL BOX / Animetic Love Letter(TVアニメ『SHIROBAKO』オープニング/エンディングテーマ)(初回限定盤)

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「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

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 宮森姉の消費パターンは、この本で語られる消費の類型に似ているなーと。気晴らしのための消費。つまり宮森姉は「他人指向型人間」ではないのです。

孤独な群衆

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  宮森姉のような人間類型がスタバの隆盛を招いたのかも的なあれ

 

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