宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

グロテスクな癒し―『CURE』感想

 CURE キュア [DVD]

 

 黒沢清監督『CURE』をみました。黒沢清監督って、シネをフィルしてるひとたちにめちゃくちゃ高く評価されてると思うんですよね。それで、特段シネをフィルしてるわけじゃない僕はなんとなく避けてたんですよ。はい、今日それを完璧に後悔しました。『CURE』めちゃくちゃ面白かった。以下で適当に感想を書き留めておこうと思います。

 それは言葉で説明できない

 殺人事件。凄惨な死体。それは首をバツ印に切りつけられていた。そのたびごとに加害者は捕まっているにも関わらず、なぜか連続して発生する奇妙な猟奇殺人事件を、刑事高部は追う。

 そして、やがてある男が重要参考人として浮かび上がってくる。その男の名は間宮邦彦。我々が通常しているような形では会話を行うことができず、名前も含めた自身についての記憶も定かでなく、精神が変調を来しているかにも思われる間宮。彼と接する中で、高部は自身の自己と向き合い、変化していく。その変化をこう呼ぶこともできるだろう。癒し(cure)と。

 刑事を「犯罪を説明する言葉を探す」職業と規定する高部は、そのために精神科医の佐久間とも親しく付き合い、催眠やらなんやらの本も「入門書程度」とはいえ読んでいるらしく、そのような方面への関心は少なくない。しかし皮肉なことに、この映画で彼が出会うことになるのは、説明することが極めて困難な事件。そしてそれを不可思議な催眠術を使って教唆していると思しき間宮は、その説明不能なものの極北。

 「いま・ここ」以外の記憶がまるでないかのように見える間宮と会話する人々は、子混乱の中で言葉のキャッチボールをすることを強いられる。彼から何かを聞き出そうとしても、彼は「いま・ここ」の状況以外に言及されると、回答することができない/もしくは回答しない。そして彼はこう言う。「あんたの話、聞かせてよ」。このようにして、彼の向き合った人々は自身を彼に説明することになる。自身のことを説明することができないがゆえに、他者にそれを行わせることができる機械。

 

グロテスクな癒し

 その機械によって説明することを強いられた人々は、その説明を、機械によって歪められる。自身のうちにあるほんのわずかともいえる他者への憎しみの種が、機械によって増幅されて花開き、殺人へと導かれる。冒頭の小学校教師の事件はちょっとわからないが、駐在所の警察官や女医はそうだろう。警察官は同僚への嫌悪を(真実かどうかはさておき)取り調べで語っていたし、女医は「女性である」がゆえに患者からセクシャルハラスメントじみた言葉を投げつけられる場面がある。そうした日常のなかで容易に抑えることができる類のヘイトが、間宮という機械との接触を通じてあらわになる。そうして彼らは憎らしいものを破壊する。それは、彼/彼女らにとっては癒しであるのかもしれない。極めてグロテスクな相貌をもっているにせよ。

 そのように、間宮の力は、「説明させる」ことを通じて働く。その意味で、「犯罪を説明しようとする」刑事である高部と、「説明させる機械」である間宮は、まったく対照的な位置価をもつにも関わらず、奇妙な親近性をもつ。犯罪を扱う創作物や刑事ドラマでは、どんな証拠よりも犯人その人の自白という、自身についての「説明」が窮極の根拠となる。犯人自身が犯罪を「語り」という形で再演することによって物語の幕は降り、それが覆されることは(通俗的な作品であればあるほど)ほとんどない。と思う。その意味で間宮は、バカみたいな言葉を使うなら、最強の刑事たりうるんじゃないか。彼の前に立ってしまった人間はひとりでに自白を始めるのだから。

 なんか話があっちこっちいってますが、高部と間宮の接触の話に戻りましょう。「犯罪を説明する言葉」を探していた高部は、間宮という機械との接触によって、まったく別の言葉を見つけてしまう。精神を病み、重荷としかいいようのない存在になってしまった妻への憎しみ。それが窮極的に癒されるための方途として彼が選び取ったのが、おそらくあの結末なのだろうと思う。決定的な瞬間は描かれないにせよ、高部は妻を殺害し、そして癒してくれる機械を最早必要としなくなった彼は間宮を破壊し、それとパラレルなかたちでその機械を自身に取り込み内在させる。

  高部は新たな癒し手として街の中に在り続け、ラストでそれが示唆されたように人々をグロテクスに癒してゆくのだろう。彼のように私たちを癒してくれる男は、案外そこらへんにいるのかもしれない。

 

 間宮のキャラ造形は浦沢直樹『MONSTER』のヨハンと重なるような気もして、1990年代=「心理学化する社会」*1?のなかのサイコサスペンス、みたいな感じで語れそうな気がしますが、それを語るには能力も準備もない。無念。それはともかく間宮を長回しで写すシーンの緊迫感はんぱないとか、病院の美術すごいなーとか、いろいろ思ったんですがそれを物語と絡めて語る能力とかもないです。無念。ひとまずこんな感じで。

 

関連

 

 

黒沢清監督 DVD BOX 「PULSE」

黒沢清監督 DVD BOX 「PULSE」

 

 

 

 

 

心理学化する社会 (河出文庫)

心理学化する社会 (河出文庫)

 

 

【作品情報】

‣1997年/日本

‣監督:黒沢清

‣脚本:黒沢清

‣出演

広告を非表示にする