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美しきはロシアの大地―『惑星ソラリス』感想

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 アンドレイ・タルコフスキー監督『惑星ソラリス』をみました。初見だったのですがよい感じで睡眠に誘われることができ、これは『2001年宇宙の旅』に匹敵する睡眠導入SF映画であるなあと思ったりしました。適当に感想。

 

 ロシアの科学者クリス・ケルヴィンは、なんかやヴぁいらしいという惑星ソラリスの探査に赴く。人の記憶を物質化するというソラリスの海で彼が邂逅したのは、死別した妻だった。

 眠りに誘われた、という前置きからお察しの通り、あんまりちゃんと頭に入っていません。退屈を退屈として享受するにとどまり、世界の細部を目に焼き付けようとする気概というかやる気みたいなものに致命的に欠けており、つまりなにがいいたいかというとちゃんと見る根性がありませんでした。

 

 お話としては、タルコフスキー氏が本作ののちに監督することになる『ストーカー』とほぼ重なる、と思うんですよね。三人の男が、未知の領域で右往左往する。しかしその描き方と決着はまさしく対照的というか。『惑星ソラリス』では、舞台ははっきりそれとわかる、宇宙の中の船のなか、超常現象は超常現象として物質化するわけですが、『ストーカー』の「ゾーン」は一見するとただの廃墟だし、超常現象は漠として掴みがたい。舞台と超常現象、それぞれが可視と不可視という区分けで整理できるのではないかと思うわけです。雑にすぎますが。

 この両者は、映画という視覚に強く訴えかけるメディアを通して現前しているにも関わらず、僕には不可視の『ストーカー』のほうが断然魅力的に思われたのですよね。超常的ではなさそうな「ふつう」の空間(廃墟が「ふつう」かどうかはさておくとして)で、よくわからない現象に襲われることの緊張感がバリバリにみなぎっているのを感じて。

 一方で『惑星ソラリス』の主要な舞台である宇宙船の心理劇は、正直にいえば緊張感よりも退屈さを感じた。いや正確にいうなら緊張感に欠けた退屈さだった。これは僕の感度の問題であるとは思うのですが。退屈であることは即つまらないということではない、という当然の前提を一応確認しておくとして、なぜ退屈に感じたのかなーというとやっぱり無機的な宇宙船のなかの人間ドラマに長大な尺が割かれるからかなあと。あの宇宙船の美術がいまいち魅力的に感じなかったんすよね。

 それが際立つのは、密室の心理劇のなかで時折挿入される霧の惑星の様子が、そしてなにより、ケルヴィンの故郷のロシアの景色が際立って美しく感ぜられるからだろうと。だから、宇宙船の美術が魅力的でないのは、ケルヴィンの選択を補強するような効果があるのかもしれない。記憶の中の美しい故郷に魅せられて、それを選んだケルヴィン。その選択を彼となるたけ同じ目線で見届ける、そのために彼と退屈な時間を共有することを強いられたのだとすると、この退屈さは必然であるのかも、とも。

 

 はい、こんな感じです。映画の出来に激怒したというレム氏の原作を読む機運が高まる。

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【作品情報】

‣1972年/ソヴィエト連邦

‣監督:アンドレイ・タルコフスキー

‣脚本:アンドレイ・タルコフスキー、フリードリッヒ・ガレンシュテイン

‣出演

  •  ハリー:ナタリア・ボンダルチュク
  • クリス・ケルヴィン (心理学者):ドナタス・バニオニス
  • アンリ・バートン (宇宙飛行士):ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー
  • サルトリウス (天体生物学者):アナトーリー・ソロニーツィン:
  • ギバリャン (物理学者):ソス・サルキシャン
  • スナウト (サイバネティックス学者):ユーリー・ヤルヴェト
  • ニック・ケルヴィン (クリスの父):ニコライ・グリニコ
  • アンナ (クリスの伯母):タマーラ・オゴロドニコヴァ
  • ギバリャンの客:オーリガ・キズィローヴァ