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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

世界にハロー、君にサヨナラ――アニメ『血界戦線』感想

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 アニメ『血界戦線』最終話をgyaoでみました。春クールのアニメで唯一、リアルタイムで視聴していたので最終話が延期と決まったときは大層がっくりきたのですが、ともかくお蔵入りとかになることなく無事みられてひとまずよかった。アニメ版をなるたけフラットな気持ちで視聴したいという思いがあったので、原作に手を出さずにきたのですがこれでようやく読む踏ん切りがつきました。それはともかく、以下で感想を。ネタバレが含まれます。

 ”Hello,world!”

 紐育。かつてそう呼ばれていた街は、超常現象によって異界と交錯し、かつて繁栄を極めた都市の名残を強く残しながらも、いまでは魑魅魍魎が跋扈する奇妙な魔都へと変貌を遂げていた。異常が日常になったその街で、しかし都市に生きるしたたかな人間たちは、それでもそこで、怪物たちと折り合いをつけたりつけなかったりして確かに生きている。ヘルサレムズ・ロット。かつて世界一の都市として名を馳せた街は、今ではそう呼ばれている。

 その魔都に、少年がひとり、足を踏み入れる。その少年の名は、レオナルド・ウォッチ。かつて犯した過ちに苛まれる彼が偶然、魔都の出現を皮切りに崩れはじめた世界の均衡を保たんとひそかに戦う秘密結社、ライブラと出会ったことで、アニメ版『血界戦線』の物語ははじまる。

 原作未読で、アニメ化に際して発表されたイメージビジュアルを見た僕は、てっきり異能力系バトルを主軸にした漫画だと勝手に勘違いし、主人公もガタイのいいシブカッコいいおっさん(後にクラウスさんというお名前だと知る)だと思っていたのですが、いやはや、すくなくともアニメ版はバトルはあるけどそれは主軸ではなくどちらかというと事件解決がメインで、しかも主人公は如何にも強者感漂うクラウスさんではなくどことなく頼りなさげなレオナルド・ウォッチくんで、となんというかいきなり先入観が覆されたわけですが、そのレオ君を主役にした物語にめちゃくちゃ心を動かされた。

 レオナルドの物語。結果的には妹を犠牲にする形で自身の身体を守り、そのうえけったいな力、神々の義眼すらその身に宿すことになってしまったという桎梏。自身の無力さに打ちひしがれなから、自身を卑怯者だと自己規定しながらも、苦しみながらも足掻こうとする意志。それが彼を魔都へと向かわせたわけだが、呪いは未だ彼を強く縛り付ける。そんな彼の苦しみと、しかしのその中に輝く意志とを見抜き、そしてそれを信頼したある男の言葉によって一歩踏み出す時に、レオナルド・ウォッチの物語は前へと動き出す。

「ひとつだけ認識を改めたまえ、レオナルド君。君は卑怯者ではない。なぜなら、君はまだ諦めきれずにそこに立っているからだ。光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北することなど、断じて無い!」

 クラウス・フォン・ラインヘルツ。秘密結社ライブラのリーダー。無類の豪傑にして生粋の紳士。彼の言葉がレオの背中を押したその瞬間に、レオナルド・ウォッチのなかで再び強い意志が息を吹き返す。そしてその手で「世界を救って」みせた瞬間、つまりBUMP OF CHIKENの ”Hello,world!”が鳴り響いた瞬間に、新たな物語がはじまる。彼が故郷に残した妹ミシェーラに語りたかったのは、多分、そこからの物語。

 そのすべてが始まる瞬間を切り取った1話が僕はほんとに好きで、このアニメのアルファにしてオメガはそこにある、とすら思う。それ以降は超絶乱暴に言ってしまえば、1話を別様な形で反復すること、すなわち「僕に希望を示してくれた、ある人たち」との出会いを繰り返すことに費やされる。

 そうした中で、ライブラの人々もまた、圧倒的に絶望的な状況の中で、それでも前に進むことを意志するものたちなのだ、ということが明らかになる。血界の眷属、ブラッドブリード。デタラメな世界のなかでひときわデタラメな強さを誇り、人間などあっという間に滅ぼせるであろう吸血鬼たち。そんな化け物たちに、臆さず向かっていくクラウスとその仲間たち。絶望の中でそれでも前に進む意思をレオに見取ったクラウスもまた、絶望の中でそれでも進む続けることを選んだ人間であり、だからレオナルド・ウォッチはライブラのメンバーたる資格を持つ。

 

出会いと裏返しのもの

 そういうわけでアニメ版『血界戦線』は、レオナルド・ウォッチが前に進み始め、人々と出会い、そして進み続ける物語だ。進んだ果てに何があるのか、それはわからない。それがわかったときに、レオナルド・ウォッチの物語はいよいよ完結するのだろう。その意味では、レオくんの物語はある意味で終わっていないのだけれども、極めて重要な区切りに、最終話で辿り着いた。その意味で、アニメ版が原作を切り取り、そして新たな物語を書き加えた手つきは極めてスマートだと僕は思う。

 アニメ版オリジナルキャラクターとして、ドラマで重要な役目を担うブラック・ホワイトのマクベス兄妹はそのレオの物語をはっきりとフィルムに刻み付けるための役目を担っていて、それは十分すぎるほどに機能している。

 ブラックとホワイト=ウィリアムとメアリーは、レオとその妹ミシェーラの持つ様々な属性を分かち持っていて、だからある意味では兄妹はふたりともある意味でレオの分身ともいえると思う。兄貴は妹に押され気味だったりとか、妹は本来あるはずのもの(術師の才能・歩く能力)の欠損という点で妹同士は結びついたりとか、カメラというガジェットとか、そしてある種の災いがその身に降りかかっていたりとという点で、この兄妹の対応関係を見つけることは容易い。

 なぜこのマクベス兄妹はレオの属性を分かち持っていなければならなかったのか。それは最終話において、レオの辿り着いた地点を参照すれば明快だ。彼は一人で、彼に希望を示してくれた多くの人たちの力を借りるけれども、しかし最後は一人で、かつての自分自身を救わなければならなかったのだから。

 レオが絶望の淵から一人で立ち上がり、そしてひたすらに目的地へと走り続ける最終話は、いわばそれまで彼の辿ってきた道のりの反復であり、その確認でもある。ヘルサレムズ・ロットで過ごした歳月、その中での多くの人々との出会い。アニメで繰り返されたそれが、目的地までの長い道の中で再び演じられる。そんな多くの人々の助けを借りて、しかし一人で走り続けなければならない。

 そして絶望の淵に沈む少女に、今度は彼が手を伸ばす。

「君が、光に向かって一歩でも進もうとしている限り、君の魂が真に敗北することなど、断じて無い!」
「君がもし、強すぎる光に怯えて立ち止まっているのなら、僕が何度でも君の手を引くよ」

 クラウスに手を引かれて救われた少年が、今度は誰かを引き上げる。希望を示されてきた彼が、今度は誰かに希望を示す。そんな役割の反転が高らかに訪れるクライマックス。それはある意味で、レオナルド・ウォッチが真にライブラの一員たりえていることを雄弁に語る。呪いにがんじがらめにされ足踏みしていた少年の姿はいまやなく、一人のヒーローがそこにいる。

 そうして誰かを救うことができたかに思わたレオに訪れる、これまで物語の中で彼が経験してこなかった出来事。人々に出会い続けたレオナルド・ウォッチの物語は、大切な人との別れをもってひとつの区切りを迎える。

 人と出会うことは、必然的にその人との別れの可能性を胚胎させる。出会いがあれば、どのような形であるかはともかくとして、別れは避けられない。だから、人々と出会い続けた彼の物語が、誰かとの別れを含みこむのは当然の帰結なのだ。時に苦い別れを乗り越え、あまいかもしれない出会いを繰り返し、さらにレオナルド・ウォッチは進み続けるのだろう。誰かにハローといい、そして誰かにさよならを言いながら。きっと今よりもっと、マシなはずの答えを探して。

 

 

 というわけでアニメ版『血界戦線』、終わり良ければ総て良し、大変楽しませていただきました。いますぐにでも原作を読みたいという気持ち。

 

 

 挿入歌かっこすぎるし劇伴全体的にお洒落すぎて流石紐育!って感じ(こなみ)

TVアニメ「血界戦線」オリジナル・サウンドトラック

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 そういえば同じくニューヨークを舞台にしていた『バッカーノ!』アニメ版も、不死身の連中が前に進み続ける物語でありました(雑な要約)

バッカーノ! Blu-ray Disc BOX

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【作品情報】

‣2015年

‣監督:松本理恵

‣原作:内藤泰弘

‣シリーズ構成・脚本:古家和尚

‣キャラクターデザイン:川元利浩

‣エフェクト作画監督橋本敬史

美術監督木村真二

‣音楽:岩崎太整

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