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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

盗んだ車で走り出す―『007 スペクター』感想

「007/スペクター」オリジナル・サウンドトラック

 

  先行上映にて『007 スペクター』字幕版をみました。サム・メンデス監督の手になる前作『スカイフォール』がぼくはとっても好きなので本作も大変楽しみにしていたのですが、期待に違わず大変楽しかったです。以下で感想を。ネタバレが含まれます。

 

 ジェームズ・ボンド。007。殺しのライセンスを持つ男。亡き上司の遺した命令のため、男は死者に仮装した生者の群れに紛れていた。いつものごとく、殺し屋のごとき己の任務を完遂した男は、そこに旧知の者の影をみとる。幼いころ、ともに時間をわかちあい、しかし死によって永遠に別れることになった義理の兄。その男が影の中より出でて姿を現すとき、ジェームズ・ボンドの物語は別の相貌をもって我々の前に示される。

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 『スカイフォール』同様、とにもかくにもビシッと決まった画面がとにかく美しい。月並みな言い方ですが、絵画的な構図がたびたび現れて、全体に上品な雰囲気が漂っている。そして、オーベルハウザー=ブロフェルドが悪の首魁として姿をみせる一連のシーンが際立っていますが、陰影が非常に印象的。「悪の組織の首魁」とか「悪の組織の幹部会議」とか、なんというか前時代的な陳腐さを漂わせかねない役柄やシチュエーションが、重厚かつシリアスに映るのは、なんといってもこの巧みな陰影のつけ方のおかげなんじゃないかと。クライマックスのロンドンの攻防にしても、暗闇の場面はとにかくかっちょいい。それとトム・フォードを纏ったボンドは存在しているだけでただただかっちょいいのでずるい。

 

 そんな雰囲気の中で展開される物語は、なんというか、これまでのダニエル・クレイグがボンドを演じた作品の中では、どことなく異質。荒唐無稽なアイテムは登場させず、極力「本物っぽさ」を意識したリアル路線がクレイグボンド作品の路線かと思うのですが、『スペクター』においては「悪の組織」復活の余波か、そうしたリアル路線から若干横道にそれたところを攻めているという感じがする。ボンドカーとか、やたらとガタイのいい敵、ミスター・ヒンクスとの格闘戦とか。とはいっても、上品な画面のおかげで荒唐無稽さはだいぶ抑制されているという気もして、リアルと荒唐無稽のあいだを絶妙なバランスでついている、とも。

 そうした荒唐無稽さの密輸入を象徴するのは、ボンドカーを手に入れる経路だと思う。ボンドがローマで華麗に乗り回すアストンマーティン・DB10は、なにやら往年のボンドカーを想起させるギミック満載だが、007にあてがわれたものではない。Qはこの新車をボンドに見せびらかした後、これは009用だからと告げて、ボンドには時計(なんと時間がわかる)を与える。『スカイフォール』同様、突飛な秘密兵器はないのかと思いきや、車大好きボンド君は009用のアストンマーティン・DB10を盗んで走り出すのである。荒唐無稽さはこのようにして、盗み出されるようにして作品内に入り込む。それは本来ボンドのためのものではなく、おそらく、別の世界観のなかに生きるスパイのものなのだから。

 とはいえ、本来ならばギミック満載のはずのアストンマーティン・DB10は、十分にはそれを発揮はできないのだけれど。その荒唐無稽さが発揮される程度に、本作の荒唐無稽さの按配を伝えているのかもしれない。

 

 しかし若干の不満もありましてですね。それはオーベルハウザー=ブロフェルドについてなんですが。

 ブロフェルドを、ボンド個人と強い因縁をもつ人物として造形したのは、なるほど、というかそれ以外には現代でボンドと対決させるにはそうするのが最上じゃないか、とは思います。『スカイフォール』は敵役、シルヴァがMに極めて強く執着する男だったがゆえに、作中の彼の行動がすべて合理化されているように受け取れる、という面があると思う。敵役の動機をパーソナルなものに設定すると、なんというかその行動の余地が広がる気がする、というか。なので、ブロフェルドがボンドと個人的なつながりをもつ男にしたのは全然いい。

 しかしそのキャラ付けの方向性がちょっとなーっていう。ブロフェルドのキャラを印象付けるために、『カジノ・ロワイヤル』から『スカイフォール』までの戦いをブロフェルドの手によるもの、と意味づけしちゃったことに、なんだかなあという感じもして。「悪の巨魁」感を出すのには有効な手段かもですが、それまでの悪役のスケールがちょっと小さくなってしまうような感じもして。特に『スカイフォール』のシルヴァ。僕は彼がめっちゃ好きなので、そのシルヴァも実はスペクターが裏で手を引いていたんだよ!ってのはちょっと受け入れがたいというか。作中の存在感ならブロフェルドをはるかに凌駕しているとも思うし。あ、クォンタムの人たちはまあ、いいかな、スペクターのあれでも。でもそのおかげでダニエル・クレイグのボンドの物語が総括されたような気もするので、いいのかな。

 とはいえ、最初の長回しは大変楽しかったし、スカッとさわやかに幕が引かれるラストも心地よかったしで、大変満足ではあります。こんなにすかっとさわやかに終わってしまうと、もうダニエル・クレイグのボンドの物語はここでおしまいでいいのでは?とか思っちゃうのですが、どうなるんですかね。

 

 

Writing's on the.. -2tr-

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Blood, Sweat and Bond: Behind the Scenes of Spectre (Curated by Rankin) (James Bond)

Blood, Sweat and Bond: Behind the Scenes of Spectre (Curated by Rankin) (James Bond)

 

 

【作品情報】

‣2015年/イギリス

‣監督:サム・メンデス

‣脚本:ジョン・ローガン

‣出演

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