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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

暴力でなく言葉で ――『ストレイト・アウタ・コンプトン』感想

映画

Ost: Straight Outta Compton

 

 『ストレイト・アウタ・コンプトン』を極上爆音上映でみました。予告をみて興味を惹かれてTwitterで流れてくる感想も絶賛ばっかだったので行ってみようとなったのですが、ヒップホップカルチャーにいままでまったく親しんでおらず、ギャングスタラップとか怖っ......近寄らんとこ......って感じだったので楽しめるか大分不安でした。しかしそんな不安は完全に杞憂だったというか、いや非常によかったです。以下感想。

  アメリカ西海岸の街、コンプトン。貧しく危険なその街で、男たちはそれでも音楽で自分たちを語ろうとした。街のリアルを詩に乗せた彼らの音楽は、彼らの予想をはるかに超えて人々に聴かれるようになっていき、そして大きな熱狂を生み出す。しかし思いもかけない成功は、彼らの友情にヒビを入れていくのだった。

 伝説的ヒップホップグループ、N.W.A.の成功とその終わりを描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、そのグループに関わった人間の青春とその終わりまでを圧倒的なスピード感で駆け抜ける青春映画という感じ。冒頭、ドラッグ売買でギャング同士が揉めているところに介入した警察が、圧倒的な暴力によってギャングたちの居場所そのものを制圧してしまうシークエンスに象徴されるよう、コンプトンの人間は常には常に暴力がつきまとう。警官の横暴は執拗に反復され、暴力は国家をバックに貧しい人々を抑圧する警察のものとして映されるけれども、ギャングたちもまたその暴力を所持し行使する主体に他ならない。シュグ・ナイトとか完全にやばいひとすぎてちびりました。

 けれども、N.W.A.の男たちは暴力によって世界を変えようとはしない。彼らはなにより、言葉によって、音楽に乗せた言葉の力によって自身の道を切り開こうとする。「言葉で世界をぶっ壊す」というキャッチコピーは、暴力ではなく「言葉」で、というニュアンスが強く込められているんじゃなかろうか。彼らが言葉を直接人々に伝えるライブの場面は非常によくて、パフォーマンスをしているのが本物のN.W.A.のメンバーでなくて俳優なんだということが信じられないくらい。極上爆音上映の音響もあいまって臨場感は最高でした。

 そのようにして彼らは名声と憎悪とを一身に集めるわけだけれども、同じ方向を向いて歩いていた男たちが、いつしか道をたがえてゆく。気が付いた時には各々の距離は取り返しのつかないほどに離れていて、もう二度と元には戻れない。予告で、警官たちに強い憤りをみせたプロデューサー、ジェリー・ヘラーがその強い原因となった、とこの映画は見立てるわけだけれども、その予告の場面が強烈に心に残っているからこそ、ジェリーの背信は相当くるものがあったというか。


12/19(土)公開『ストレイト・アウタ・コンプトン 』予告編

 この場面がぼくは非常に好きで、多分最後までイージー・Eがジェリーを信じたかったのも、彼が毅然として国家の暴力に立ち向かえる人間だったからじゃないかという気がして、その意味でもイージー・Eが最後まで彼を切れなかった理由に納得がいくというか。たとえ人種主義と戦うことと若者から搾取することが矛盾なく両立しえるんだということが、頭ではわかっていたとしても。

 5人のメンバーのなかでもイージー・E、アイス・キューブドクター・ドレーの三人に主にスポットを当てた物語は、アイス・キューブドクター・ドレーの成功とは対照的に、N.W.A.が瓦解したのちには思うようにキャリアを積み上げられなかったイージー・Eの死をもって幕を閉じる。彼の死とともにN.W.A.の物語は終わり、新たな物語が始まる。現実の時間にしておおよそ10年の物語が猛スピードで過ぎ去ってしまった寂寥感が、強く心に残りました。

 

関連

 物語は『ジャージー・ボーイズ』を想起したりしたんですが、『ストレイト・アウタ・コンプトン』の語りはよりストレートというか、そんな感じを受けました。

 『ジャージー・ボーイズ』もそうですが、『ザ・ウォーク』といい『白鯨との闘い』といい、最近みた実話を基にした映画は回想というか、枠物語的に「実話」を統御していたなかで、『ストレイト・アウタ・コンプトン』があくまでリアルタイムのドラマを写し続けていたのも印象的。

 

 

ストレイト・アウタ・コンプトン

ストレイト・アウタ・コンプトン

 

 

 

ストレイト・アウタ・コンプトン~N.W.A 10周年記念トリビュート

ストレイト・アウタ・コンプトン~N.W.A 10周年記念トリビュート

  • アーティスト: オムニバス,ミスター・マイク,マック10,ビッグ・パニッシャー、ファット・ジョー&キューバン・リンク,キング・ティー,ボーン・サグスン・ハーモニー,スヌープ・ドッグ&Cマーダー,WC,ザ・コムラッズ、オールフロムザ・アイ&ブー・カポネ,ジェイヨ・フェロニー,J-ダブ&アント・バンクス
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2016/01/06
  • メディア: CD
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【作品情報】

‣2015年/アメリカ

‣監督:F・ゲイリー・グレイ

‣脚本:ジョナサン・ハーマン、アンドレア・バーロフ

‣出演

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