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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

呼吸を止めるな――『レヴェナント:蘇えりし者』感想

映画

映画 レヴェナント:蘇えりし者 ポスター 42x30cm The Revenant 2015 レオナルド ディカプリオ トム ハーディ レベナント [並行輸入品]

 

 『レヴェナント:蘇えりし者』をIMAX字幕版でみました。IMAXの威力を堪能しました。非常によかった。

  19世紀前半。アメリカ合衆国。海を渡ってきた者たちはそこに国を建てたけれども、それは広大な大地すべてが彼らの手中におさまったということを意味しなかった。西部に広がる「未開」の地。土地を求めて「フロンティア」に進出していく彼らは、古くからその地に住む者たちと衝突せざるをえない。その戦いは先住民たちの敗北によって幕を閉じると私たちは知っているし、まさにこの直後、歴史の趨勢を決定づける法が布かれる、このときはまだ、外からやってきたものたちと、先にそこに住んでいたものたちとの勢力が拮抗している場所が、たしかにあった。

 北西部、雪の大地と針葉樹林。聳え立つ山脈、流れゆく大河。そこで毛皮を求めたものたちは、ネイティブ・アメリカンに襲われ、人員を失いながら撤退を余儀なくされる。息子とともに一団の中にいる男、ヒュー・グラスは、かつてネイティブ・アメリカンと暮らし、その勢力図に詳しいことから先導を任される。しかし、彼らの敵はネイティブ・アメリカンだけではなかった。巨大な熊に襲われ半死半生となったグラス。自力で身動きもとれず、もはや仲間の足手まといでしかなくなったグラスは仲間に見捨てられ、そのうえ目の前で息子の命をその眼前で奪われる。しかし彼は呼吸を止めない。這いずるようにして命を繋ぎ、生きるために、そして、なによりも復讐のために。

 実在の罠猟師ヒュー・グラスの復讐劇を描く『レヴェナント:蘇えりし者』は、広大かつ寒々とした大地のなか、たったひとり取り残された男のサバイバルを、いやというほど長々と、しかしじりじりとした緊張感を保ったままカメラにおさめる。もはや街の、いやおおよそ人の影すらみれない広大な大地。寒さが容赦なく身体に牙をむくなかで、いかに生き残るのか。自分の「すべて」だった息子を失ってなお、強烈な執念で生にしがみつく男の姿が強烈に目に焼き付く。

 冒頭、グラスたちとネイティブ・アメリカンの戦闘が映されるわけだけれども、ここになんというかこの映画がどのような映画なのか、ということが端的に表れている、という感じがする。イニャリトゥ監督の前作『バードマン』ではワンカットでカメラが主人公の背中を延々追っていったわけだけれども、『レヴェナント:蘇えりし者』もまた『バードマン』ほど極端ではもちろんないんだけれども長回しのカットが印象に残る。冒頭の戦闘も、次々と斃れていく人間たちに代わる代わる焦点をあてながら、しかしワンカットで凄惨な戦場を映していく演出が強烈。この世界には安全地帯などないのだ、ということを、人間に平等に訪れる死を描写することで伝え、この死の瞬間の蓄積が、グラスの生還のための旅路の緊張感をいやがうえにも高めていく。グラスの旅はいっとき旅路をともにした仲間(それは人でもあり馬でもあるんだけれど)すら、別れの余韻すら残さずこの世を去っていくし、そうした命の軽さがグラスの「蘇り」の物語の雰囲気をより凄惨な印象にしているような。

 ネイティブ・アメリカンの奇襲によって戦端が開かれる瞬間のさりげなさと唐突さも、死への距離の近さみたいなものを象徴的にあらわしている、という感じが。グラスを死へと一気に引き寄せるグリズリーの襲撃の唐突さも、娘を探してよそものを追撃するネイティブ・アメリカンの酋長の出現も、予兆は感じさせず、気づけば近くに佇んでいる。そのように死は非常に近くにあるなかで、グラスは「息を止めてはならない」と息子に、あるいは自分自身に言い聞かす。それはおそらく、いくら自らと近しいといえども、生と死とのあいだには無限ともいえる懸隔があると知っているから。

 グラスたちのように外からやってきた者たちは、ネイティブ・アメリカンを「野蛮」(savage)と名指すけれども、グラスたち「文明人」と「野蛮人」との境界はたやすく崩れる。かつてネイティブ・アメリカンに頭の皮を剥がされ、奴らは「野蛮」だと言ってはばからないフィッツジェラルドが、その「野蛮」なる所業に自ら手を染めるにいたることは象徴的で、外からきた「文明」と内なる「野蛮」とは北の大地で溶け合ってゆく。

 一方で生と死とは慄然と分かたれているのだけれども、グラスの旅はその境界をたゆたう旅でもある。グラスが旅の中で見る夢は、うずたかく積まれる骨の山、崩れ落ちた教会などなど、現実からはかけ離れた彼岸。その彼岸と此岸を行きつ戻りつし、人間の場所へと逢着し、そして「神の手」が下され復讐も成就する。復讐を遂げ満身創痍の彼の前に、彼岸よりの死者があらわれる。しかし彼はそちらがわに足を踏み出すことはない。それは彼の呼吸がエンドロールがはじまっても残響のように差し挟まれることからも明らかで、そうした死の淵でなお生を選び取れる男の物語が、すげえよいなあと思ったりしたのでした。

 

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レヴェナント 蘇えりし者 (ハヤカワ文庫NV)

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オリジナル・サウンドトラック盤「The Revenant(蘇えりし者)」

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 ブリジャーは『イングロリアス・バスターズ』のアルド・レインの先祖だという「あの」ジム・ブリジャーだったんですね。気づきませんでした。

 

【作品情報】

‣2015年/アメリカ

‣監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

‣脚本: マーク・L・スミス、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

▸原作:マイケル・パンク『蘇った亡霊:ある復讐の物語』

‣出演

 

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