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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

軽やかさと青春――『TARI TARI』感想

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 Netflixで『TARI TARI』をみました。以下感想。

  鎌倉にある、白浜坂高校。普通科のほかに音楽科が置かれているそこでは、音楽に関わるということは特別な意味を含み持つ。おそらくは、音楽科に籍をおくことは、将来なにかしら音楽に関わる職業で生計を立てていくこと、そのために不断の努力に日々の時間を費やすことを意味するのだろう。だからもし、そのような決意が揺らいだならば、そこから離れざるを得ない。様々な理由で音楽科から普通科へと移る生徒はこれまでもいたのだろうが、坂井和奏もその一人だった。一度音楽との関わりが上手くいかなくなってしまった彼女が、再び、音楽との関係を築きなおす、『TARI TARI』が語る物語の一つはそれだ。

 彼女を再び音楽へと接近させた「合唱時々バドミントン部」5人の物語が交錯したり、ひとりでに走り出したりして、彼女ら・彼らの高校3年生としての一年は過ぎてゆく。それを青春という言葉で要約してもいいのだろうが、その青春の物語には部活であったり進路であったり、様々な学校をめぐる出来事であったりが含みこまれていて、だから、坂井和奏が音楽と別の仕方で出会いなおす物語は、様々に走る物語の一つの線でしかない。何らかのことをしたり、何かを感じたり、という無数の積み重ね、それらの総体こそが『TARI TARI』というアニメの魅力の根幹をなすのだろうと思うのだけれど、それを語る力量はさしあたって今の僕にはなさそうだ。

 ということで、ここより下では僕の関心にひきつけたおしゃべりをしてゆこうと思うのだけれど、『TARI TARI』における部活は、そのどうにもしまらない名前によって暗示されるように、たとえば『響け!ユーフォニアム』においてそうだったような、あるいは作中の声学部がおそらくそうであるような、「確固たる特別さ」を目指してゆくような場ではない。他者との競争のなかで自らがすぐれていることを示すためにあるような、具体的には甲子園優勝であるとか全国大会出場を目指す場ではない。

 かといって、『けいおん!』においてそうだったような、その日常の一秒一秒を輝かせるためということに特化した関係性でもなさそうだ。もちろんそういう側面もあるのだろうし、歌うことそれ自体の楽しさがある、という意味では、『けいおん!』における軽音部と親近性はあるのだと思う。

 ただ、「合唱時々バドミントン部」はそれよりはほんのちょっとシリアスに、歌うことに意味を求めている、というような気がする。楽しくやることと、真剣にやることは両立するのだ、と第1話で宮本来夏は強く主張する。本当の楽しさは本気でやることからしか生まれない、というのはよく聞く文句だという気がするのだけれど、宮本来夏の歌うことに対する姿勢というのはそれとはまたちょっとズレている、という感覚がある。その常とう句は「本気でやること」にあまりに重きを置きすぎている、という気がする。楽しくやること、本気でやること。それははっきりと区別される別々のモードでもありうるのだし、おそらく「確固たる特別さ」を希求して歌う声学部にとってその区別は自明のものでもあるのだろう。多くの声楽部員たちの宮本来夏への反発は、彼女の姿勢がいわばその自明の区別を曖昧にして、両者を混交させようとするものだからじゃなかろうか。

 楽しくやったり、本気でやったりのあいだをそれと知ってか知らずか漂ったりする「合唱時々バドミントン部」の軽やかさにこそ、なんというかこの作品において青春というものがいかに語られているか、その核心があるのじゃないか、という気がする。多分その軽やかさを徹頭徹尾否定する「大人」の役割を背負わされているのが、徹底的にヒールとしてしか現前しない理事長で、そのほかの大人たちが後半に見せた軽やかな動きのなかにも、青春的なるものが宿っているのではないか。そういうふうな軽やかさを失わない限り、あるいは否定しない限り、人間は未だ青春のなかにいるのだし、また青春を生きることができるのかも、なんてことを思ったり思わなかったり。

 

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 「特別」であることはどういうことか、みたいなことをここのところ考えたり考えなかったりしています。

 

 


 『TARI TARI』って結局のところ、「ひとりじゃ音楽はできねえんだよな...」って話だと思うんですけど(雑すぎる要約)それはつまり、『ヒカルの碁』です。


 

 

 

TVアニメ TARI TARI ミュージックアルバム~歌ったり、奏でたり~

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【作品情報】

‣2012年

‣監督:橋本昌和

‣原作:EVERGREEN

‣シリーズ構成・脚本: 橋本昌和

‣キャラクター原案:tanu

‣キャラクターデザイン:関口可奈味

‣音楽:浜口史郎

‣アニメーション制作: P.A.WORKS