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一つの映画、無数の人生――『City of God – 10 Years Later』感想

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 Netflixで『City of God – 10 Years Later』をみたので感想。DVDはでてないっぽいので、今のところNetflixでしか視聴できない感じなんでしょうか。なんにせよみることができてよかった。

  2002年にブラジルで制作された映画『シティ・オブ・ゴッド』は、同年のカンヌ映画祭に出品され高い評価を得、2004年のアカデミー賞では監督賞など4部門にノミネートされた。スラム「神の街」での青春と血みどろの抗争を描いた本作は、そのキャストの多くが、実際にリオデジャネイロのスラム、ファベーラ出身の素人であることはよく知られているが、それではその素人たちはその後いったいどのような人生を歩んだのか?その彼ら・彼女らの10年後の姿を取材したドキュメンタリーが『City of God – 10 Years Later』である。

 なにやら刃物が研がれているらしいカットが断続的に画面にあらわれる冒頭からして、もう滅茶苦茶に「わかってる」感があってわくわくしてくる。『シティ・オブ・ゴッド』冒頭のセルフオマージュを合図にして語り始められる本作は、劇中の場面と現在の演者の様子とを交互に写すような仕方で進行していく。今も映画業界で働く人、もう映画からは足を洗って生きる人、犯罪を犯して刑務所に入れられてしまった人、今は行方も分からない人。一つの映画に関わった人の、しかし多様な人生の描き出すのまだら模様は、それだけで一つの映画になっている。

 とりわけ印象に残っているのはギャラの話で、子役として出演していて今はホテルマンをやっている人物は、「多額のギャラを父親が使い込んだ」と思い込んでいるのだけど、ほかの出演者は異口同音にギャラ自体が滅茶苦茶すくなかったとこぼす。これだけ高い評価を得て多くの興行収入を稼ぎだしても、それが関わっている人間すべてに富をもたらすのでない、ということはなんとなくわかっちゃいたけど、まじでそういうもんなのだなと。

 主役のブスカペを演じたアレシャンドレ・ホドリゲスは、ギャラについて「1万レアルか、興行収入の1パーセントか、どっちにする?」と問われて1万レアルを選んだことを後悔してると笑って話すのだけど、こういう映画の中でみるような挿話ってほんとにあるのだなーとなる。

 というわけで、このドキュメンタリーがフォーカスするのはあくまでファベーラ生まれの演者たちで、それ以外の製作者は画面のなかに出てはこない。けれども、街の雑踏に紛れていく出演者の一人の背中をカメラが見送った後、『シティ・オブ・ゴッド』の監督で、このドキュメンタリーでもメガホンをとるフェルナンド・メイレレスの語りが(多分)最後に差し挟まれ、それでこの10年後の記録は終わる。その語りはこう問いかける。「映画に人生を変える力はあるのだろうか」と。

 その問いは宙づりにされ、それに対する明確な回答はない。しかし、その後ファベーラで映画プロダクションが設立されたことを説明するテロップが挿入される、それがたぶんさしあたっての答えなのだろう。映画に人生を変える力があるのかはわからない、しかし映画で人生を変えようとすることはできる、と。

 

 はい、というわけで『シティ・オブ・ゴッド』視聴済みの人は絶対に見て損はないと思いますし、そうでなくとも、1時間あまりで地球の裏側で日々生きられる人生の一端に触れるというのは得難い経験であると思うので、これは是非みましょう。というか『シティ・オブ・ゴッド』はほんとにとんでもない映画なので未見の人は今すぐみましょう。TSUTAYAまで行かずともNetflixでみれるしたぶんHuluでもみれるはず。

 

 

 

シティ・オブ・ゴッド』は一刻もはやくBlu-rayをだしてという気持ち。その折にはこのドキュメンタリーを特典映像とかでつけてくれると僕は大喜びします。

シティ・オブ・ゴッド DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組) [DVD]

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