世間はもうすっかりサン&ムーンという感じですが、僕は未だ開封できておりません。それはさておき、先日Netflixでめっちゃ久しぶりに視聴した『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』について思うところがあったので書き残しておこうと思います。
『ミュウツーの逆襲』といえば、ポケモン初代世代にとってはとりわけ思い入れの深い映画だと思う。その思い入れの深さは、内容の「深さ」との相乗効果によって、あるいは興行収入によって担保され、神格化されている、といっても言い過ぎではないだろう。
それでは、その内容の「深さ」とはなんなのか?これはインターネットの語りから僕が受けた印象に過ぎないのだけど、おおむねクローンの問題とかかわる、命を正面からテーマとして取り上げている、という点から語られることが多いような気がする。脚本を務めた首藤剛志は、のちにクローン問題、遺伝子操作など当時アクチュアルになりつつあった問題への目くばせを語ってはいて、だから「命」をテーマとしている、という見立ては的外れなものではないのだろう、とも思う。
172回 コピーとオリジナルの「自分とは何?」 WEBアニメスタイル_COLUMN
しかし、本当に『ミュウツーの逆襲』の「深さ」はそれだけなのか。そうではない、と僕は思う。『ミュウツーの逆襲』が、自分自身の存在に悩むミュウツーの姿を通して語っているもの、それは私たちとフィクションとの関係ではないか。
ミュウツーは、ミュウのコピーとして創造され、そして自身の存在を証明するため、強さを追い求める。ミュウツーの存在は、クローン羊のドリー的な作られた命そのものである。しかしそれだけではない。ミュウツーは、人工的に作られたという点で他のポケモンとは一線を画す存在である。しかし、そもそも、ポケモンは私たち人間の作りだしたフィクションである。その意味で、特異なポケモンであるミュウツーは、その特異性にも関わらず、むしろその特異性によってポケモンのポケモン性を代表する存在であるともいえる。そしてそれを敷衍するならば、ミュウツーは、人間によってつくられたフィクション総てを代表するメタファーでもあるのだ。
だから、『ミュウツーの逆襲』において描かれる本物のポケモンとコピーポケモンの闘争は、現実に対して自身の存在を証明しようとするフィクションの戦いでもある。自身は何者かと問うミュウツーは、自身の存立基盤を自問自答するフィクションなのだと思う。
このミュウツーの闘争は、喪失を悼む涙によって宙づりにされ、そして終わる。喪失という契機においては、現実のそれもフィクションのそれもまったくの等価だということを認めることによって。もちろん、この作品世界にとって喪失は一時的なものにすぎなかったけれど、フィクションのフィクション性の承認のためにはなんらかの犠牲が必要だった。
最後にミュウツーはこう残して何処かへ去る。この戦いのことは、誰も知らないほうがいいのかもしれない、忘れたほうがいいのかもしれない、と。犠牲によって現実と等しい価値を得たフィクションの苦悩は、こうして忘却される。その苦悩の忘却によってこそ、無限に続き、無限に広がる物語世界は存立を許され、かくしてポケモンの世界は今に至るまで拡がり続けるに至っている。
つまり、『ミュウツーの逆襲』の「深さ」は、フィクションの存立基盤を問いかけ、そしてそれを忘却することによって、世界が広がる余地を無限に作り出した、ということにあるのではないか。このフィクション性に苦悩するフィクションの物語が語られたからこそ、ポケモンという作品はあるのではないか、そんなことが頭に思い浮かんだので、勢いのままに書き散らかしました。
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【作品情報】
‣1998年
‣監督:湯山邦彦
‣原案:田尻智
‣脚本:首藤剛志
‣音楽: 宮崎慎二、たなかひろかず
‣アニメーション制作:OLM