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生きる速度と街の風景――『プレミアム・ラッシュ』感想

プレミアム・ラッシュ (字幕版)

  Netflixでみた『プレミアム・ラッシュ』が存外によかったので感想。

  『プレミアム・ラッシュ』はジョセフ・ゴードン・レヴィット演じるメッセンジャー(バイク便ライダー)が預かった荷物をめぐって、ニューヨーク中を自転車で駆け巡るアクション映画。お話はマンハッタンに始まりマンハッタンに終わるという感じで、自転車というガジェットとニューヨークという舞台の規模がかなりばっちりマッチしていていい感じ。本作はまさしく自転車で映画であり、そしてニューヨークの映画でもあり、その魅力によって1時間半を突っ走るスピード感が何よりの魅力だと思う。

 自転車も、マンハッタンで追われたり追ったり、はたまた曲芸じみた立ち回りをみせたりと走るというアクションのシチュエーションを次々転換していくので単調になることがないのも巧妙で、だからこそ主人公が、あるいは彼の仲間たちがなぜ走り続けることを選ぶのか、ということに説得力も付与されるというか。

 彼らが街のなかを縦横無尽に走り続けるこの映画は、バイク便ライダーの映画である以上に、彼らがその一端を構成するニューヨークについての映画でもあって、だから主人公ではなく無名の人々こそが、最終的には悪役の力を無にするのだろうと思う。ニューヨークには、街のなかを走り続ける人々がいて、そして彼らはこれからも走り続けるのだと。

 これはぼくがぼーっとみていて見逃しているだけかもしれないが、この映画は近年のニューヨークを舞台にした映画にしては極めて911の影が薄いな、という感を受けて、それもなんとなく新鮮だった。

 たとえばスパイク・リー監督の『25時』とかは911の直後に撮られたというのもあって、物語と直接は絡まないにしろ911という経験が尾を引いているように思われるし、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』なんかはこの『プレミアム・ラッシュ』とほぼ同時期に撮られたっぽいけどまさに911の傷こそが主題となってたし。

 

 

  ジョセフ・ゴードン・レヴィットが主演を務めた『ザ・ウォーク』なんかも、911の記憶がなければまったく違った映画になっただろう、と思う。


 『プレミアム・ラッシュ』はそれらの映画とまったく対照的に、911のことなど欠片も意識されない。それは彼らの生きる速度の前では、過去の出来事なんてあっという間に後方に置き去りにできるということなのかもしれないし、あるいは軽快なアクション映画でそんなことを語るなんて野暮もいいところだからっていうのもあるんだろうけど。どちらにしろ、911をとっくに過去に置き去りにして生きる人たちというのがニューヨークにいるんんだぜって言外に語っているような気がするのが面白いなと思ったのでした。はい。

 

 

 

 

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【作品情報】

‣2012年/アメリカ

‣監督:デヴィッド・コープ

‣脚本:デヴィッド・コープ、ジョン・カンプス

‣出演