宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2017年8月に読んだ本と近況

最高の夏。

先月のはこちら。

2017年7月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

 

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

 

  とりわけ印象に残っているのは鈴木直『輸入学問の功罪』。学術書の翻訳を通して日本の近代のありようを浮き彫りにする構成がめちゃくちゃスマートで期待以上のことを教えてもらったという感じです。

 

 ほか、野崎まどファンタジスタドール イヴ』は地獄の18きっぷロードで精神がやられているときに一気に憂鬱をぶっ飛ばしてくれたので思い出深い。

 

読んだ本のまとめ

2017年8月の読書メーター
読んだ本の数:21冊
読んだページ数:5788ページ
ナイス数:197ナイス

 

 

「捨て子」たちの民俗学 小泉八雲と柳田國男 (角川選書)

「捨て子」たちの民俗学 小泉八雲と柳田國男 (角川選書)

 

 ■「捨て子」たちの民俗学 小泉八雲柳田國男 (角川選書)
 日本民俗学の起源に存在する柳田國男ラフカディオ・ハーンの両者が、両親との血縁関係を疑い、自身が捨て子ではないかとの妄想を抱いていたことをキーにして、二人の仕事を眺める試み。捨て子妄想についてはそれほど印象には残らなくて、むしろ二人に内面化された進化論的発想や、「探偵」としての民俗学者といういわば枝葉の部分にとりわけ興味を惹かれた。
読了日:08月01日 著者:大塚 英志
https://bookmeter.com/books/453202

 

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

 

 ■螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)
 死んだ友人の恋人と東京を歩く「螢」、定期的に納屋を焼いていると語る男と出会う「納屋を焼く」、聴覚障害のある年下の従兄弟と病院に行き、かつての記憶が呼び覚まされる「めくらやなぎと眠る女」などを所収。上にあげた三作品はリアリズムに則って語られていると思うのだが、ファンタジックな想像力が異世界へと自然と誘う「踊る小人」の語り口が印象的だった。
読了日:08月01日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/560302

 

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

 

 ■輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)
 日本語としての自然さを犠牲にしてまで原文との一対一対応を是とする「権威主義的」な翻訳が哲学・思想書において主流を占めているのか、 日本の近代化のありようからその誕生を跡づけ、あるべき翻訳の仕方を提起する近代論にして翻訳論。単なる訳文の否定ではなくて、その背後にある原理が鍛造されてゆく過程をドイツと日本の近代化とオーバーラップさせる本書の語りは極めてスリリングで面白く読んだ。日本の近代化における「内から」・「外から」・「上から」のモーメント(あるいは福沢諭吉中江兆民の対立軸)なんかの整理はなるほどなと。
読了日:08月03日 著者:鈴木 直
https://bookmeter.com/books/74154

 

 ■戦後日本のジャズ文化――映画・文学・アングラ (岩波現代文庫)
 ジャズという一つの文化を通して、戦後日本の文化の歩みをたどる。石原裕次郎の映画や五木寛之中上健次などの文学など、音としてのジャズそのものよりは様々な文化のなかで表象されてきたジャズの在りよう、その位置の変容を通してジャズと戦後日本との相互作用を露わにしていくような語り口で、ジャズミュージシャンよりもその他の領域で影響力をもった人々が次々議論の俎上に乗せられ、音楽批評というより書名にあるように文化論の趣が強い。戦後日本のなかでのジャズ文化の存在感に目を開かせてもらったという感じで大変勉強になりました。
読了日:08月03日 著者:マイク・モラスキー
https://bookmeter.com/books/11827266

 

森見登美彦の京都ぐるぐる案内 (新潮文庫)

森見登美彦の京都ぐるぐる案内 (新潮文庫)

 

 ■森見登美彦の京都ぐるぐる案内 (新潮文庫)
 森見作品の舞台をめぐる。写真にその場所が登場した場面の引用が付されていて大変親切。アクセスについての情報が添えられていて、旅行ガイドとしてもギリギリ使えそうな感じ。しかし写真に写る森見氏のどこにでもいそうな感じがすごい。
読了日:08月04日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/8123167

 

 ■読んじゃいなよ!――明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ
 高橋源一郎のゼミが鷲田清一長谷部恭男伊藤比呂美を招いて行った講義と、学生による岩波新書についてのエッセイなどを所収。とりわけ面白く読んだのは長谷部のセクションで、『憲法とは何か』を上梓してから時が経ち、当時は「憲法の本質は良識に戻れ」ということ、まで認識が至っていなかった、というような感じで時とともに思考も変化していくのだという当たり前のことに気付かされた。
読了日:08月05日 著者:
https://bookmeter.com/books/11227543

 

矢内原忠雄――戦争と知識人の使命 (岩波新書)

矢内原忠雄――戦争と知識人の使命 (岩波新書)

 

 ■矢内原忠雄――戦争と知識人の使命 (岩波新書)
 矢内原忠雄の生涯を、「神の国」というキリスト教的な理想を語る「預言者」というイメージを軸に辿る。無教会キリスト教という立場から、戦前は天皇を中心とした国体論的ナショナリズムへの対抗として、キリスト教を中心としたナショナリズムを対抗言説のような形で訴えかけ、戦後は民主主義的な思潮の高まりのなかで矢内原の思想は受容されていった、というのが大雑把な見取り図だろうか。
読了日:08月05日 著者:赤江 達也
https://bookmeter.com/books/11962861

 

 ■書店はタイムマシーン―桜庭一樹読書日記
 著者が『赤朽葉家の伝説』、『私の男』などで次々賞を獲得していた時期の読書エッセイ。なんというか、この手のエッセイは著者自身に興味がないとなかなかあれだなあと思いました。
読了日:08月07日 著者:桜庭 一樹
https://bookmeter.com/books/568186

 

 ■戦争をよむ――70冊の小説案内 (岩波新書)
 戦争に関わる本を紹介していく読書案内。新聞連載をまとめたもので、一冊ごとの分量はあっさり。火野葦平から伊藤計劃まで射程は存外に広く、サブタイトルに「小説案内」とあるがアレクシエーヴィチのルポルタージュなども紹介されている。
読了日:08月09日 著者:中川 成美
https://bookmeter.com/books/12069753

 

 ■日本史のなぞ なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか (朝日新書)
 日本史上唯一の革命は、北条泰時による御成敗式目の制定であると見立て、その革命の論理を中国、西洋のそれと比較しつつ論じる。発想は山本七平を継承してると序盤にあっておいおい勘弁してくれよとなったのだけれど、それぞれ「天」と「神」という外在的な「第三の審級」に依拠する中国・西洋の革命の論理の比較、システムに内在する天皇が第三の審級として機能しているが故の日本の困難、そして自然発生的な秩序を肯定することによって天皇不在の革命を成した泰時と流れるように論理が展開されていって気持ちよく読めた。
読了日:08月10日 著者:大澤真幸
https://bookmeter.com/books/11190078

 

ブンガクだJ!―不良のための小説案内

ブンガクだJ!―不良のための小説案内

 

 ■ブンガクだJ!―不良のための小説案内
 いわゆる「J文学」というラベルを貼られた小説群が耳目を集めていた1999年に書かれたエッセイ・書評集。今読むと、当時の空気みたいなものがなんとなく凝縮した感じをうける。それと永江と対談してるリリー・フランキーが若い。しかし小説家の顔を品評してみせるあたり(中上健次を「醜男」と言ってはばからない!)の不快感がべったりと読後に残っていて、これが「不良」だってんならおれは不良なんかには死ぬまでなりたくねえなと思いました。
読了日:08月10日 著者:永江 朗
https://bookmeter.com/books/26964

 

哲学個人授業 (ちくま文庫)

哲学個人授業 (ちくま文庫)

 

 ■哲学個人授業 (ちくま文庫)
 著名な哲学者のテクストを取り上げた対談およそ20編を所収。永江が哲学科の出だと初めて知る。哲学から卑近な話題に移りまた哲学へ、というふうな話の運びが鷲田のフットワークの軽快さを感じさせて楽しい。とりわけ印象に残ったのは九鬼周三の偶然性と必然性の話で、ちょっと読んでみようかなという気になりました。
読了日:08月16日 著者:鷲田 清一,永江 朗
https://bookmeter.com/books/2981047

 

「辺境」からはじまる―東京/東北論―

「辺境」からはじまる―東京/東北論―

 

 ■「辺境」からはじまる―東京/東北論―
 東京と東北との関係性を様々な側面から問う論考を収める。震災後おおよそ1年というタイミングで世に出た本なので、原発事故や復興について取り扱ったテクストが多い。小熊も赤坂も対談と短い文章を寄せているだけで、編者の名前にひかれて手に取ると肩透かしかなあという感じ。
読了日:08月16日 著者:赤坂 憲雄,小熊 英二,山下 祐介,佐藤 彰彦,本多 創史,仁平 典宏,大堀 研,小山田 和代,茅野 恒秀,山内 明美
https://bookmeter.com/books/4844428

 

増補改訂 日本という国 (よりみちパン!セ)

増補改訂 日本という国 (よりみちパン!セ)

 

 ■日本という国 (よりみちパン!セ)
 日本という国を形作ったモーメントとして明治期と戦後直後を取り上げ、そのなかでアジアのなかでどのような位置を占めるようになっていったのかを論じる。小学校高学年〜中学生くらいの読者層を想定しているのだろうと思われる語り口は、小熊英二の本を読んでるって感じさせない。こういう感じにも書けるのですね。日本の近代化とアジアとの関係性を福沢諭吉という一人の思想家を取り上げて論じていく手際はにゃるほどなーと勉強させていただきました。
読了日:08月16日 著者:小熊 英二
https://bookmeter.com/books/569359

 

ふしぎな国道 (講談社現代新書)

ふしぎな国道 (講談社現代新書)

 

 ■ふしぎな国道 (講談社現代新書)
 国道趣味について解説したエッセイ集。国道とは到底思えない「酷道」やら道路標識だったりに注目するその目線はおもしろいんだけれど、何より車で遠くに行きたくなってくる本だなあと思いました。それと地図を眺めるのも。
読了日:08月17日 著者:佐藤 健太郎
https://bookmeter.com/books/8310498

 

 ■ボブ・ディラン――ロックの精霊 (岩波新書)
 ボブ・ディランの生涯をたどる。バイオグラフィーの叙述は厚いがディランという個人をとりまく社会的な状況への目配りが効いておらず、個人崇拝的な感触が強い。本書を読んだ感触だと、ボブ・ディランって商業的な成功を収めた期間ってほとんどないのではって感じがするのだけど。それが結構意外。
読了日:08月19日 著者:湯浅 学
https://bookmeter.com/books/7401557

 

 ■ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫JA)
 理想の女をつくることに生涯をかけた科学者の男の物語。骨格は太宰治人間失格」で、文体も近代私小説風味。それでいて扱われるのは、野崎が何度も反復してきた造物主=クリエイターの業にかかわる問題系。メディアミックスにおいてなお、元の作品と自身の作風とを違和感なくマッチさせる力量に唸る。
読了日:08月21日 著者:野崎まど
https://bookmeter.com/books/7324376

 

「団地族」のいま―高齢化・孤立・自治会

「団地族」のいま―高齢化・孤立・自治会

 

 ■「団地族」のいま―高齢化・孤立・自治会
 現代における団地とそこに住む人のありようを、おもに高齢化・自治活動に着目して論じる。団地の歴史的な変遷や現況の調査は手堅く記述されていて勉強になったのだが、「団地」ブームを昭和ノスタルジーの文脈のなかに位置付けるのはなんというかちょっと乱暴ではないかなとも感じた。団地という居住スペースはすでに「歴史」になっていて、同時に現在でもそこに人が暮らしている、という過去性と現在性とか葛藤している場としてあるのかなあと。
読了日:08月22日 著者:小池 高史
https://bookmeter.com/books/11915734

 

教養としての日本宗教事件史 (河出ブックス)

教養としての日本宗教事件史 (河出ブックス)

 

 ■教養としての日本宗教事件史 (河出ブックス)
 古代から現代に至るまで宗教にまつわる「事件」を取り上げて語る宗教史。仏教伝来から仏教内部での抗争、キリスト教伝来、近代における新興宗教の勃興など様々なトピックが取り上げられている。ここのセクションは独立した読み物としても読める感じで、だから本社一冊を貫く軸みたいなものはそれほど感じられなかった、良くも悪くも。近年信者を増やしている、「おひとりさま宗教」としての真如苑についての記述がとりわけおもしろかったです。
読了日:08月23日 著者:島田 裕巳
https://bookmeter.com/books/489986

 

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

 

 ■文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)
 密室で失踪した男と20ヶ月以上身籠もっている女、そしてそのうらぶれた病院に巣食う謎に挑む。該博な民俗誌的知識を披露し、科学と怪奇の境界を自在に移動してそれらを統御する京極堂という探偵の魅力によって長大な紙幅にいつの間にか引き込まれていて、戦後の復興期に漂う妖しげな雰囲気が猟奇的な題材にマッチして非常におもしろく読んだ。が、トリックに納得したかといえばそれは全く別問題なのだよな。いやおもしろく読んだんだけど。
読了日:08月29日 著者:京極 夏彦
https://bookmeter.com/books/577345

 

<世界史>の哲学 古代篇

<世界史>の哲学 古代篇

 

 ■<世界史>の哲学 古代篇
 「特殊な歴史的コンテクストに深く規定された特異的な作品や思想が、普遍的な魅力、普遍的な妥当性を帯びて現れるのはなぜなのか?」(p.20)という問いに導かれ、その特殊から普遍が導出された歴史の特異点としてのキリストの死を中心として、その論理を探る。前述の問題意識が語られる第1章をとにかくおもしろく読んで、なんというか大澤の問題意識と初めて強く共振したような感じがあったのだけれど、キリストからはじまり古代ギリシアの思想にまで至る考察の流れについていけたかというと大層微妙。また読みましょう。
読了日:08月31日 著者:大澤 真幸
https://bookmeter.com/books/4032812


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近況

観た映画とその感想はこんな感じ。

マーベル世界のスパイダーマン――『スパイダーマン:ホームカミング』感想 - 宇宙、日本、練馬

何処にもない夏の風景――『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』感想 - 宇宙、日本、練馬

平べったい夏のまぼろし――アニメ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』感想 - 宇宙、日本、練馬

神々の時代から人の時代へ――『ワンダーウーマン』感想 - 宇宙、日本、練馬

ラジオの得難いささやかさ――『きみの声をとどけたい』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

8月は日本をうろうろできてよかったのではないかと思います。

群馬台風旅行 - 宇宙、日本、練馬

三日間本州半周 - 宇宙、日本、練馬

 

来月のはこちら。

amberfeb.hatenablog.com