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スラム街の孤独な革命家――『ブラックパンサー』感想

Black Panther: The Album

 『ブラックパンサー』を2D字幕版でみました。平均打率高めの近年のMCU作品のなかでも頭一つ抜けた快作だったように思います。以下感想。

  アフリカ。収奪された大地。私たちはその歴史と、西洋による植民地支配とそれがもたらした苦難とを、否応なしに結びつけてしまう。しかし、その桎梏から解き放たれた幻の黄金郷があったとしたら。そうした想像力が、宇宙より飛来したテクノロジーによって圧倒的な技術大国となり、鎖国政策によって西洋のまなざしから逃れた王国、ワカンダを生み出した。

 先王の死によって王座と、その隠れた使命を果たすための超能力とを継承した若き王、ティ・チャラ。彼の前に立ちはだかるのは、同じく王家の血を引きながら、運命のいたずらによって、あるいは先代の選択によって、修羅の道を歩まざるを得なかった、孤独の革命家。若き王は、いかなる未来を選び取るのか。

 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)第18作目にして、約2年前にその姿をみせたヒーロー、ブラックパンサー初の主演作。シリーズ開始から10年の時を経て、いったい何人のヒーローの「はじまり」を描いたんだよ、という現在にあってなお、こうも堂々たる「はじまり」の物語を語れてしまうこの横綱相撲。

 『ウィンターソルジャー』で確変を起こした(もうこれが4年も前なんだから驚く)アクションのスタイリッシュさはさらにブラッシュアップされ、明確にMCUに組み込まれた作品でありながら(『エイジ・オブ・ウルトロン』や『シビル・ウォー』で登場した面々が実に生き生きと役割を果たしていることに舌を巻く)、単独で見事に一本の映画として成り立っている絶妙なバランス。一本の映画としてみたときの完結性は、昨年公開されたオリジンものである『スパイダーマン:ホームカミング』・『ドクター・ストレンジ』よりさらに高まっている印象で、初出のキャラクターたちは見事にキャラ立ちしている。

 とりわけヴィランであるキルモンガー=エリック・スティーヴンス = ウンジャダカは、MCUのなかでも際立って魅力的な敵役になっている。『ダークナイト』の例を引くまでもなく、ヒーロー映画が魅力的なヒーロー映画として成り立つには、なによりも魅力的なヴィランが欠けてはならぬわけですが、その意味で、本作は魅力的なヒーロー映画の条件をまさしく満たしておるわけです。

 王たることを運命づけられ、(おそらくは)なに不自由なく成長したティ・チャラ=ブラックパンサー。対して、その血筋すら歴史の闇のなかに葬られ、血みどろの道を歩まざるを得なかった、キルモンガー。かたや信頼できる仲間に囲まれ、かたや愛する者すら失う。彼の場所は歴史のなかに悠久に在るサバンナであり、もう一方の場所はスラムの片隅の狭いアパート。

 持てる者と持たざる者。同じく王の血筋を継ぐ者でありながら、運命の歯車によってまったく対照的な道を歩むことになった二人。キルモンガーにとって、ブラックパンサーの道は「もしかしたら自分が歩むかもしれなかった道」なのであり、だから彼は、ブラックパンサーが「着るかもしれなかった」もう一つのスーツを纏って、彼の前に立ちふさがる。

 革命を成し遂げ新たな王となったキルモンガーの示す途は、自身の父を殺害した先王の、ドラスティックな否定。それこそが彼の復讐。その復習は、「収奪された大地」による世界への復讐という大きな歴史を借り受けてもいる。しかし、武力によって世界を分断しようとするそれは奇しくも、現代の世界に蔓延る不寛容と諦めと倦怠が、最終的に選び取りうる手段でもある。

 こうした苛烈な復讐者を否定し、なおかつ歴史の傍観者にすぎなかった先代までの道を継ぐことも拒否し、新たな道を選び取ることで、新たな若き王の物語は幕を閉じる。それが、ヴィランを超えていま・ここと対峙したヒーローの示した道であり、また私たちが歩めるかもしれない可能性としての道である。

 

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 先代の過ちの清算、植民地主義への目くばせみたいなことは、『ラグナロク』と結構重なるかもなーと。

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Black Panther: The Album

Black Panther: The Album

 

 

【作品情報】

‣2018年/アメリカ

‣監督:ライアン・クーグラー

‣脚本:ライアン・クーグラージョー・ロバート・コール

‣出演