宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2018年の回顧(と展望)

 2018年は僕にとっては変化の年であり、またそのなかである部分では変化することをしっかり拒否できた年でもあったな、という気がします。2019年も、変化しつつも変化を拒否することもまた忘れないでいこうと思っています。

2018年新作映画ベスト10

  1. 『リズと青い鳥』
  2. 『スリー・ビルボード』
  3. 『ゲティ家の身代金』
  4. 『ファントム・スレッド』
  5. 『若おかみは小学生!』
  6. 『寝ても覚めても』
  7. 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
  8. 『シェイプ・オブ・ウォーター』
  9. 『止められるか、俺たちを』
  10. 『ペンギン・ハイウェイ』

 

 以上。

 『リズと青い鳥』は、学校という鳥籠のみを映しているにも関わらず、この我々をとりまく場所とはいかなるものなのかを語る、つまり世界そのものがそこで語られている空前の、そしておそらく絶後の傑作。その世界を、所作の積み重ね、あるいはその所作が雄弁に語るコミュニケーションの失敗の積み重ねによって画面の描ききっていることの凄まじさ。計算されつくした世界の計算しきれない豊かさを、僕はまだ拾いきれていません。

 『スリー・ビルボード』に登場する人物は、我々にとっての他者であった。彼らはあまりに軽率で、愚かな先入観に塗れており、このような人間どもがこの世にポピュリズムを蔓延らせているのだろうなと容易に連想することができる。しかし、愚かな彼女と彼が、あのラストシーンでまさに「迷う」ことによって、我々もほんとうに十分に「迷って」いるのかと、彼女と彼は本当に我々と遠く離れた他者なのか、そのような問いを突きつけられる。無論、迷ってばかりいるわけにもいかず、彼女と彼がそうしたように、我々も目的とする場所に赴かねばならない。その時にほんとうに悔いなく何事かを選ぶためにも、十分に迷わねばならないのだと思う。

 『ゲティ家の身代金』は、サスペンスフルな題材を極めてタイトに描き、かつそれをとりまく光と影の美しさが素晴らしかった。リドリー・スコット監督が光と影を巧妙に操る作り手であることなどわかりきっているのだが、しかしこの『ゲティ家の身代金』においては、その光と影は明らかに此岸と彼岸をわかつ徴であり、その彼岸の途方もない美しさは、此岸での人間の営為、その苦闘を映すこの映画に強烈な陰影を与えている。

 彼岸といえば、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』もまた彼岸の映画であった。そこで交わされる男女の機微(そのディティールは恐ろしく平凡で、その平凡の生む苛立ちを我々に有無を言わさず「理解させられる」という点において、おそらくこの映画は非凡なのだが)は、はっきりいってとてもどうでもいいのだが、そのどうでもよいことどもが理解を絶した方向に進むに至って、ああ、このどうでもよさに、異様で奇妙な引力を与える魔術こそが映画なのだなと気付かされる。

 『若おかみは小学生!』はかなり恐ろしい映画だと思っていて、この作品について何か語ろうとすると、自分の底というか考えの浅はかさが透けてしまうのではないかと恐れる。それでもやはり、いま・ここ、否応なしに揺れ動くこの日本列島という場所、唐突に何かが失われるのだということをもう誰もが理解するこの場所で、こういう物語が語られたことは極めて大きな意味があったように思う。

 『寝ても覚めても』も、柴崎友香の原作を、いまという時間に置きなおしてみせた、その目線が素晴らしかった。何を考えているかわからない人間の顔、その不気味さを切り取ってみせるカメラがすごいし、その不気味さは、まさに我々の生きる場所の不気味さでもある、という気がする。

 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』は、メタフィクションというもはやありふれた陳腐な仕掛けを、『交響詩篇エウレカセブン』という作品が積み重ねた時間という資源によって、これ以上なく強烈に活用してみせた作品だったと思う。作品とそれをみる我々、という関係対、作品を見るものが作品を救う、救えるという構図、それを見事にやりきっていた、と思う。

 『シェイプ・オブ・ウォーター』は、対比・暗喩・反復、そうしたものが画面にめちゃくちゃに(しかもそれとわかりやすく)詰め込まれていて、それがなんとなく高級な快を喚起する映画だったなと思う。我々一人一人がもつ傷が、我々の生を毀損する呪いではなくて、むしろ救済を約束する祝福であってほしい、そうした祈りが込められた御伽噺。

 『止められるか、俺たちを』は、「何者かでありたい」という、最早陳腐で嘲りの対象でしかないような欲望が、極めて切実なものであった時代、衒いもなく何者になりたいと思えた時代の空気が詰まっていた映画だったなと思う。後半やや息切れしていたようにも思うのだけど、その息切れもまさにそうした時代の終わりを予感させる徴であったという気もして、時代の終わりまでをフィルムに写し取ったこと、それは非常に誠実なことだったんじゃないかという気がする。

 『ペンギン・ハイウェイ』は、森美登美彦の原作を、これ以上なく活かした映像化だったのではという気がする。しかし、個人的な感想としては文化資本高すぎ環境にやや心を挫かれた感があり、これを素直に楽しめるような場所に生まれたかった(やめろ)。

2018年にみた映画まとめ

劇場でみた映画は以下の通り。

 旧作含めて46本。体感として今年は見逃しが多かったような気がするので、来年はがんばりましょう。あとブログにきちんと書こうね。

自宅視聴まとめ

メモした限りでは32本。すくない!

 

2018年に視聴したTVアニメまとめ

 

2018年の10冊

 

月ごとのまとめ

 

お出かけ

正体見たり見なかったり/君の名は。――飛騨高山旅行 - 宇宙、日本、練馬

世界の果てとハードボイルド北海道旅行 - 宇宙、日本、練馬

わたくし、避暑に参りましたの - 宇宙、日本、練馬

 北海道大好き!みたいな一年でした。

 

 今年も個人誌をだせました。ひとまずよかった。

 

 2018年は例年と比べてインプットが圧倒的に疎かになっていました。これはまあだいたい環境の変化の所為。終わったことなので仕方ない。問題は2019年です。ガンガンやっていきますわよ。