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『蜘蛛の巣を払う女』感想

ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 19-2)

 『蜘蛛の巣を払う女』をみました。以下感想。

  ドラゴンタトゥーの女ハッカー、リスベット・サランデルの活躍を描く『ミレニアム』シリーズの実写化。デヴィッド・フィンチャーによる『ドラゴンタトゥーの女』の印象が未だに(僕にとっては)鮮烈なのだが、『ドント・ブリーズ』をてがけたフェデ・アルバレス監督によるこの『蜘蛛の巣を払う女』は、おそらく原作のテイストがまったく違うこともあって、大きく異なった雰囲気の映画になっている。

 『ドラゴンタトゥーの女』は、地方の名家の忌まわしき過去の調査を依頼されるという、歴史ミステリ的趣があり、そこはかとなく横溝正史的というか、スウェーデン版『犬神家の一族』(といったら流石に適当過ぎるか)であり、それをフィンチャーがスタイリッシュに映像化していて、その題材のこじんまりとした感じにミスマッチの画面のかっちょよさが僕はめちゃくちゃ好きな映画で、画面の寒々しさ、雪とか映っていようがいまいがそこから発散される冷気の感触が未だに印象に残っています。

 しかしこの『蜘蛛の巣を払う女』は、NSAから流失した超危険なプログラムをめぐり、NSA、謎の犯罪組織との三つ巴の戦いが描かれる。それは『犬神家の一族』的リアリティの世界ではなく、あからさまに『007』的な、『ミッションインポッシブル』的リアリティの世界であり、特に事前に下調べもせずに劇場で席についた僕はそこでやや面喰ったのだけど、そうしたスパイアクションものとしてみると、キャラクターはそれぞれ立っているし、無駄な遣り取りは極力排されて展開が二転三転していくし、これは非常にウェルメイドな娯楽映画になっているなと思いました。

 「女を憎む男たち」に今まで制裁を下し続けてきたリスベットが、彼女がかつてもっともよく知っていた女性を、救えなかった、救おうともしなかった、というのがこの映画のドラマの核心ではないのかと思うのだけど、そこらへんは意外とあっさり風味であったなあというか、キャラクターの魅力というよりも状況の推進力でぐいぐい物語を引っ張っていったがゆえに、彼女と彼女の敵のドラマはそれほど求心力がなかったように思うのだけど、まあそれもこの映画の味でしょう。

 しかし、制作も俳優もガラッと変わっているのにも関わらず、フィンチャー版『ドラゴンタトゥーの女』の記憶が喚起されてしまって、ああどうやら僕はフィンチャー版がめっちゃ好きらしいと今さら気付きました。フィンチャー版と比べると、そんな寒そうじゃねえなとか、リスベットの不気味さはだいぶオミットされてんなとか、そんなことばかり頭をよぎりあんまり画面を見ていなかった感が。はい。