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北村厚『教養のグローバル・ヒストリー 大人のための世界史入門』感想

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

 北村厚『教養のグローバル・ヒストリー 大人のための世界史入門』を読んだので、感想を書いときます。

  高校世界史の教科書叙述は近年アップデートされていて、以前の西洋中心史観ないし中国中心史観的な、西洋史東洋史の二本立てのごとき叙述は、完全に克服されたとはいわないまでも、様相を変えつつある、とはいっていい。本書はまさにそのアップデートされた部分である、各地域をむすぶネットワークについての叙述をまとめたもの。

 叙述は極めて禁欲的。遊びはほとんどない、とすらいっていいと思う。だから本書を読んで感じる印象はまさに「教科書的」なのだが、それは本書の瑕疵というよりは美点だろうと思う。一部分のみレファレンス的に読んでも十分に理解できるという利便性に繋がっているのだから。

 本書をこれから手に取られる方で、「教養」書として本書を読もうとする方がおられるかもしれないが、かつて高校で学んだ時の教科書を読むように本書を読もうとすると、かなりの苦痛が伴うのではという気がする。「高校で学んだ時のように」というのは、たとえば太字で記載されている固有名詞をアタマに叩き込んで理解しようとか、そういうふうに読む、ということだが、そうした読み方を試みると、本書の固有名詞の乱打ぶりの前に心をくじかれる、と思う。

 そういう読み方は教養書として本書を通読する際にはおそらく誤った読み方であり、それでは正しい読み方はどのようなものかといえば、それは本書の主役たる「ネットワーク」の大まかな推移・栄枯盛衰を辿っていく、というものではなかろうかと思う。サータヴァーハナ朝とかヴィジャヤナガル王国とか、そういう固有名詞はとりあえずわかったような顔をして右から左でも問題はなく(一方でモンゴルとかマラッカ王国とか、バグダードなど、ネットワーク上の重要なアクターや結節点はおさえておいたほうがよいのだが)、どの地域のネットワークが問題となっているのか、という点に注意を払えば、本書が提示するグローバルヒストリーの構図が見えてくる、と思う。

 というわけで大変啓発的な本だと思いました。

 

 

教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門

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グローバル・ヒストリー入門 (世界史リブレット)

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