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すこし長いあとがき――『コードギアス 復活のルルーシュ』感想

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 『コードギアス 復活のルルーシュ』をみました。みんな元気そうでよかったです。以下感想。

 彼の物語は終わったはずだった。ただ妹を救うため、あらゆる他者を踏みにじることを選び、おびただしい死者の血を浴び、そして最後は自らの命を捨てて、妹を救った、妹のために世界を救ったはずだった。しかし、彼には未だ果たされざる約束が残っていた。その約束のために、彼女は彼を彼岸から呼び戻す。

 テレビアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』の放映開始からおよそ12年、さまざまなかたちで展開されてきた『コードギアス』作品世界を舞台とする物語の最新作にして、おそらく最後の大きな作品になるだろうな、という予感をまとう作品。消え去るという仕方でしか物語を終えられなかった男を「復活」させるという、暴挙といって差し支えないモチーフをもつこの作品は、しかしそれを暴挙や蛇足といってしまうのはあまりに酷だろうなと思えるほど、かつて『反逆のルルーシュ』を毎週心待ちにしていた私たちの安易な欲望に忠実に奉仕する――それは同時に、作品世界そのものをルルーシュというキャラクターに徹底的に奉仕することを意味する――作品でもあり、だからこれはすこしばかり長いあとがきなのだろうと思う。

 ルルーシュという男は何者かといえば、彼を成り立たせる最大の個性は、他者を自在にあやつる異能力=ギアスをもつことでも、天才的な頭脳をもつことでも、その出自によって貴種流離譚的な相貌を物語に纏わしめることでもない。彼のキャラクターを成り立たせるもの、それなしでは彼は彼ではありえないものとは、そうした異才・天才を、「妹を救う」というただ一つに奉仕させる、これなのである。

 『反逆のルルーシュ』は、主人公であるルルーシュの時に残虐な全能性が、究極的には「妹を助ける」という目的にのみ奉仕しているという点で正当化されること、そのルールによって制約されることによって成り立つ作品だった。彼のシンプルな願いに、日本独立をめざすグループであるとか、様々な思惑が重なり合い、そうした思惑や他者の願いを、「妹のため」に見事に裏切り切り捨てるアンチクライマックスに、たとえば1期のラストの魅力は凝縮されているといってもいいのだが、それゆえに、私たちは一つの疑問を抱かざるを得ない。妹が既に救われた世界で、復活した彼はいかなる目的をもって行動するのか、と。

 この疑問を、この映画はいかにもお祭り的な気楽さで解決してしまう。妹が再び危機に陥れば、彼は必ず戦う、と。そのために、彼が命を賭して手渡した平和は仮初のものとなり、作品世界にはいままで私たちが知りえなかった猛者どもが不意に立ち現れる。これを、作品世界そのものを毀損する安易な選択とみるか、ルルーシュというキャラクターを守るために作品世界を奉仕させる誠実さとみるかは、端的にいって紙一重であろうが、10年という歳月は、人にそうしたご都合主義を許容するおおらかさと適当さを与えるには十分な時間なのだろう、と思う。

 最強の指し手と、あらゆる状況で「待った」をかけて差し直しができる女、というシチュエーションは、お祭り的に集まった顔なじみのオールスター軍団と対峙するに値するものだったと思うし、また「妹を救いたい兄」と「弟を救いたい(が現実には弟をすり減らすことで国を守ってきた)姉」の対立軸はばっちりきまっていて、もっと深くまで作品のポテンシャルを掘り下げられたという気もするのだけど、この少し長いあとがきには、そうしたものを求めるよりは、ただ彼女らと彼らが息災だったことをあっけらかんと喜んでみせるのが、適当な接し方なのかもしれない。

 

 

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