宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

愚行を歴史化する――『バイス』感想

『バイス』映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)

 『バイス』をみました。以下感想。

  酒を飲む男。蛇行する自動車。路肩に停車する車。近づく警官。逮捕される男。この、刹那的に日々を生きているようにみえるありふれたならずもの。この男はやがて、覇権国家を意のままに動かすことになる。ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領=”Vice President”にのしあがった男。その名はディック・チェイニー

 最強の副大統領の人生を、『世紀の空売り』(邦題は『マネー・ショート』)をてがけたアダム・マッケイ監督が映画化。語り口は『世紀の空売り』と非常に似ていて、様々なイメージをミクスチャー的に挿入していく手法は、映画的というよりもテレビの教養番組的かもしれない。語り手の男の正体なんかは非常に驚きました。

 しかしなにより驚くべきは、まだ20年もたっていない出来事を、娯楽映画のフォーマットにのせて見事に歴史化していることだろうと思う。サム・ロックウェル演じるブッシュJrは、これは例えば架空の人物だったら流石に戯画的にすぎるだろう、という造形も、まあブッシュだからな...と納得してしまう説得力。あまりにも唐突にはじまるイラク戦争は、これがどれだけ異様な出来事、歴史的な汚点だったのかと改めて思い起こさせる。

 そして、立法ではなく、法解釈の変更によって政治を動かしていける、というコメディは、我々がこの10年のあいだに目にしてきたことが、ある意味ではあからさまな反復であったのだと自覚せずにはいられない。果たしてこの日本語を使う我々は、日本語を使う国の愚かで無様な政治のありさまを、20年後にきちんと歴史化できるだろうか。