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すぐれた投げやりさ――冨樫義博『幽☆遊☆白書』感想

幽★遊★白書 公式キャラクターズブック 霊界紳士録 (ジャンプコミックス)

 先週、ふと思い立って『幽☆遊☆白書』を読みました。適当に感想書いておきます。

  冨樫義博といえば、僕らの世代にとっては何より『HUNTER×HUNTER』の人である。はじめて買ったジャンプにほぼ下書きのようなエピソードが掲載されていて度肝を抜かれ、それ以来きちんと向き合うことはなかったのだけど、後々友人にすすめられて読んでみたら、その異様なおもしろさに心奪われ、そしていまは『HUNTER×HUNTER』のない月曜日にいいようのないむなしさを感じている。

 その流れで『幽☆遊☆白書』を読むチャンスはいくらでもあったはずなのにそれをみすみす逃しているうちに時間は過ぎ、いまのいままで読まなかったわけですが、読んでみて、この冨樫義博という漫画家は本当に漫画がうまいと感動しました。いかにも少年ジャンプ的なバトルトーナメントがここまでおもしろく描けるのかと。ある種の少年漫画の完成形をみた気分でした。

 この『幽☆遊☆白書』が、僕がリアルタイムで読んできたジャンプ漫画—―『ONE PIECE』『NARUTO』『BLEACH』あたり――と比べて圧倒的に優れているなと感じるのは、やはり、短いことだ。身もふたもないけれど。この短さゆえに、世界の外縁はぼんやりとしたまま、我々にその後のドラマの想像の余地を残してくれるし、ああ、もうちょっと読んでいたかったな、という幸福な余韻に浸らせもしてくれる。やっぱり長くやりすぎるとどうしてもいびつになってしまうんじゃないか。

 この『幽☆遊☆白書』で驚いたのが、後半になるにつれてバトルの描写がむしろ省略されるようになる点。これは僕の勝手な推測だけれど、連載が長くなるにつれて、主人公の能力が高まってできることが増え、かつ書き手の筆力も否応なしに高まり、戦闘の中で描けることの可能性は指数対数的に増えてゆくのではなかろうか。その可能性を救おうとした結果、一つの戦闘がいやに間延びし、命を懸けた死闘が不思議に弛緩したものになってしまう。

 『幽☆遊☆白書』はその陥穽を軽やかに回避していて、黄泉との最終決戦なんか投げやりともいえる省略がなされるわけだけれど、優れた少年漫画が優れた少年漫画たるのに必要なのは、その投げやりさなのかもしれない、なんてことを思いました。

 

 

幽★遊★白書 全12巻セット

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