宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2019年6月に読んだ本と近況

あめ、やめーっ!

先月の。

2019年5月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

 

  一冊選ぶならこれ。「失われた〈耳〉」。

読んだ本のまとめ

2019年6月の読書メーター
読んだ本の数:15冊
読んだページ数:5103ページ
ナイス数:151ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

かくて行動経済学は生まれり

かくて行動経済学は生まれり

 

 ■かくて行動経済学は生まれり
 イスラエル人の心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキー。彼らの異端ともいえる共同研究が、やがて行動経済学に結実するまでをたどる。原著の副題「我らの精神を変えた友情」が本書の内容を的確に表していて、学問の話というより二人の奇妙な友情の物語にこそ、著者はおもしろみを感じているのだろうなという気がする。
読了日:06月01日 著者:マイケル ルイス
https://bookmeter.com/books/11987180

 

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)

 

 ■不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書)
 「人生はそもそもギャンブルなのだ」という命題に、我々は眉をひそめる。しかし、運というファクター抜きにして人生を考えることはできるだろうか。本書は、倫理学がいかにして「運」をその議論から排除しよう試み、そしてその試みがいかに失敗してきたのかを丹念にたどる。結論の手触りは同著者の『それは私がしたことなのか』と非常に近しい。しかし、全く別の議論からそこにたどり着く、その過程こそが極めてスリリングであり、これが新書という媒体で読めてしまう日本語環境のありがたさに打ち震えます。
読了日:06月01日 著者:古田 徹也
https://bookmeter.com/books/13668342

 

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

 

 ■OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)
 衝動的に夫を殺してしまった女。死体をバラしてその罪を隠そうとする女たち。日常の倦怠によって支配される作品世界の重苦しさと、逃げ場のない焦燥感が襲ってきてぐいぐい読みました。
読了日:06月05日 著者:桐野 夏生
https://bookmeter.com/books/576229

 

OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)

OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)

 

 ■OUT 下 (講談社文庫 き 32-4)
 死体をバラした女たちのほころびと、忍び寄る殺人者。最後の最後でたった二人の世界に集約されるドラマと、それから出ていくラスト、解放感などない自由の手触りが残る。
読了日:06月05日 著者:桐野 夏生
https://bookmeter.com/books/576230

 

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

 

 ■しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)
 若手の落語家が、それぞれ問題を抱えた4人に「まんじゅうこわい」を指南する。短気な落語家を含め、それぞれに「うまくしゃべれない」ことの苦しみの切実さと、その苦しさが次第にぼんやりとけていくような読後感がよいなあと思いました。
読了日:06月08日 著者:佐藤 多佳子
https://bookmeter.com/books/572295

 

プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)

 

 ■プレーンソング (中公文庫)
 この小説がどういう小説なのか、作中の8mmカメラを手にする男が丁寧にネタバラシをしてくれているわけだけど、ああ、こういう仕方で小説が小説たりうるのか、というのはこのテクストに身を委ねなければわからんかったろうな、と思う。
読了日:06月10日 著者:保坂 和志
https://bookmeter.com/books/544104

 

平成時代 (岩波新書)

平成時代 (岩波新書)

 

 ■平成時代 (岩波新書)
 平成という時代を、グローバル化とネット社会化に対応できず失敗に重ねた「失われた30年」と捉え、その失敗の諸相を描き出すことで、ポスト平成に生きる我々の針路を探る。『ポスト戦後社会』の続編ともいえる本書の書きぶりは非常に重苦しく、経済での失敗が政治での失敗を呼び込み、そして社会を二極化させるに至る過程が説得的に論じられる。甘美なノスタルジーを退け、人口が減り大きく変容していくであろう未来のために、このような見取り図を手に取ることは我々に絶対必要だと思う。
読了日:06月11日 著者:吉見 俊哉
https://bookmeter.com/books/13752000

 

プラグマティズム入門 (ちくま新書)

プラグマティズム入門 (ちくま新書)

 

 ■プラグマティズム入門 (ちくま新書)
 パースやウィリアムズらプラグマティズムの源流から、クワイン、ローティらのネオプラグマティズムを経て、プラグマティズムの現在までをたどる。本書の特色はローティへの批判を基調としている現在のプラグマティズムの論者たちを紹介している点にあると思う。図式が明快で、流行する思想の振り子の揺れみたいなものがなんとなくわかった気になる。
読了日:06月14日 著者:伊藤 邦武
https://bookmeter.com/books/10130860

 

 ■戦後と災後の間 ――溶融するメディアと社会 (集英社新書)
 2013年から2018年まで、新聞に掲載された時評をまとめたもの。この連載がのちに『平成時代』を執筆するときの材料のひとつになったのだろうなと強く感じる。おそらく紙幅の制限がかなり強烈な新聞という媒体ゆえに、いつもの文体とはやや手触りが異なる感じがする。
読了日:06月15日 著者:吉見 俊哉
https://bookmeter.com/books/12903475

 

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)

 

 ■西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)
 「歴史を語るとは、多様さがそこへ収斂していくような「軌跡」を見出すことに他ならない。」(pp.131-2) まさに然り。いわゆるクラシック音楽の黎明から、それが魂を失うまでの軌跡をたどる本書の歴史叙述は、19世紀をある種の特異点として編成されていて、その19世紀のしっぽを引きずりつつ崩れ去る20世紀のクラシック音楽の黄昏まで眺めた我々は、ポピュラー音楽がクラシック音楽の歴史を早回しするような仕方でその魂を輝かせたのだということを知るのです。
読了日:06月17日 著者:岡田 暁生
https://bookmeter.com/books/549138

 

 

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

バルタザールの遍歴 (文春文庫)

 

 ■バルタザールの遍歴 (文春文庫)
 一つの身体に二つの精神を宿す彼らが、戦間期のヨーロッパの重力圏で放蕩し放浪する。彼の語りが別の彼に絶えず脅かされつつ、しかし奇妙な仕方で一つの私たちによる語りが立ち現れるこの形式がお見事。ディティールの異様な豊かさといい、小説のおもしろさとはこういうことなのだと雄弁に語るすげえ作品だと思いました。
読了日:06月21日 著者:佐藤 亜紀
https://bookmeter.com/books/550365

 

1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)

1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)

 

 ■1809―ナポレオン暗殺 (文春文庫)
 ナポレオンの勢力が絶頂を極めつつある時代。ウィーンを中心に展開するナポレオン暗殺をめぐる陰謀に、工兵将校が巻き込まれていく。佐藤の作品で度々描かれる兄弟間の異様な緊張感をはらむ葛藤は、ここでも変奏される。虚無のなかで世界を試すような男の姿はどことなくドストエフスキー的でもある。しかし何より、この異世界のディテールを書ききる魔力に脱帽です。凄すぎる。
読了日:06月22日 著者:佐藤 亜紀
https://bookmeter.com/books/536592

 

トランプのアメリカに住む (岩波新書)
 

 ■トランプのアメリカに住む (岩波新書)
 ハーバード大学で一時的に教鞭をとっていた際に書かれた、アメリカにまつわるルポルタージュ的なテクストを収める。トランプ当選の呼び起こした無数の波紋、スポーツ界の動きやセクシュアルハラスメント告発、銃規制などなど、近年のアメリカの様子がコンパクトにまとまっているのだが、本書で最も熱量を感じたのは、日米の大学の差異を検討するセクション。日本の大学院レベルのことをアメリカの一流大学の学部教育はやってるのだなーと。
読了日:06月23日 著者:吉見 俊哉
https://bookmeter.com/books/13116998

 

行動経済学の逆襲

行動経済学の逆襲

 

 ■行動経済学の逆襲
 行動経済学を牽引してきた一人であり、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者が、自身の来歴と行動経済学の歩みを重ね合わせて語る。従来の経済学の想定する合理的な人間=エコンではなく、時に不合理な判断をするヒューマンの行動を分析する、という問題意識によって様々な事象を眺めていく視線こそが革命的だったのだ、みたいな感じだろうか。個々の挿話が面白く好奇心がほどよく満たされました。
読了日:06月30日 著者:リチャード・セイラー
https://bookmeter.com/books/11075311

 

天使 (文春文庫)

天使 (文春文庫)

 

 ■天使 (文春文庫)
第一次世界大戦前後、貴族社会がまさに崩れ落ちようとするなかで、貴族として、あるいは超能力として育てられた若者がヨーロッパで暗躍する。『失われた時を求めて』的な滅びゆく貴族社会を舞台にしたリアリズム小説に、超能力者の跋扈するSFの要素をぶち込みながらも、クラシカルな小説たる風格を失わない稀有なバランス感覚に打ちのめされる。
読了日:06月30日 著者:佐藤 亜紀
https://bookmeter.com/books/575760


読書メーター
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近況

すぐれた投げやりさ――冨樫義博『幽☆遊☆白書』感想 - 宇宙、日本、練馬

『海獣の子供』感想 - 宇宙、日本、練馬

別れた彼の居場所――『きみと、波にのれたら』感想 - 宇宙、日本、練馬

捨てられた過去を拾い集めること――『さらざんまい』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

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