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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

『主戦場』感想

映画チラシ「主戦場」

 ミキ・デザキ監督『主戦場』をみました。いや、すごい映画でした。以下感想。

  日本軍性奴隷制度、いわゆる従軍慰安婦問題について、それを執拗に否定しようとする人たちがある。歴史修正主義者とか、否定論者とよばれるそれらの一群の人々の主張、その根拠、そして彼らを動かす欲望を、カメラが写し取る。

 歴史修正主義者の主張がでたらめで愚かであることは自明である。いうまでもなく。だから、この映画から何か新たなことを教えてもらうことはそれほどないだろう、と思います。思っていた。しかし、見にいってよかったなと思ったのは、このドキュメンタリーが、単純におもしろ。テンからだ。テンポのよい編集によって暴かれる歴史修正主義者たちのダブルスタンダード――元慰安婦の証言はたかが証言にすぎないと嘲弄しつつ、みずからは他人の証言をもとに事実を確定しようとする――には、これは編集の詐術であるなあと思いつつも、そこに奇妙なおもしろみを見出さずにはいられない。こうした迂闊な隙をさらしてしまう杉田水脈はほんとうにありがたいことであるなあと思う。

 ただ、最後に、日本会議人脈の中心人物として登場する加瀬英明の狂いっぷりには、これはほんとうに笑っていいのだろうか、というレベルのいかれ具合で戦慄し、コメディを突破して不条理ホラーの域にまで達していた気がする。

 この映画の描く全体の見立ては、歴史修正主義者の行動の背景には、日本会議のめざす、戦前回帰という理想にマッチするよう、過去の出来事への認識を肯定的なものだけで塗りつぶしたい、という欲望がある、というものだった。なるほど、確かに。とも思う。一方で、個別の意志はもっと幼稚な自己肯定感の源泉を求めて、このトピックにとびついているのでは、とも思う。

 

https://twitter.com/s_uemura/status/1146430349917872128

 

 毛色はまったく違えど、マイケル・ムーア監督『ボーリング・フォー・コロンバイン』に匹敵するインパクトのある作品だと思う。でも、それが立場をこえて広く何事かを変えるのか、と考えたときに、暗澹たる気分になるのも事実である。上に引用した愚かの極みとしたいいようのない文字列を前にすると。