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『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』感想

【映画パンフレット】ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 監督 ライアン・ジョンソン キャスト ダニエル・クレイグ, クリス・エバンス, アナ・デ・アルマス

 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』をみたので以下感想。

  『最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督の新作は、クリスティ的なクラシカルな佇まいのミステリもの。館で起こった奇妙な殺人事件と、招かれた名探偵という舞台設定はいかにも探偵小説的であるが、脚本は原作なしのオリジナル。途中、倒叙ミステリ的な趣向になったりと、観客を飽きさせない構成もお見事。

 しかしこの作品の大きな魅力は、ライアン・ジョンソンによる『スターウォーズ』完結編ともいうべき野心に満ちている点にある。この『ナイブズ・アウト』の物語上の焦点となるのは、偉大な作家の遺した莫大な遺産の相続。そして、スターウォーズの新三部作は、ある種の遺産相続をめぐる物語であった。その遺産とは、スターウォーズ世界にとっては無論、フォースの正統な後継者であることを意味する。誰が遺産を相続するか。それが現在という時空にあって、ライアン・ジョンソンスターウォーズに賭けた問いであり、そして『スカイウォーカーの夜明け』において見事に閑却させられた問いでもあった。

 『ナイブズ・アウト』の回答は明確である。遺産は、もっともすぐれた資質を持つものが、それを継承する。これは誇り高き血統をもつものたちにとって耐えがたい回答だろう。突如誇り高き純潔の世界に現れた、厄介な遺産相続者。『スターウォーズ』では暗喩的なイメージにすぎなかったその相続者の「厄介」さは、『ナイブズ・アウト』では我々の社会のなかの具体的な一部として現前する。

 しかし我々はその厄介な遺産相続者とこそ、どうにかやっていかねばならないのだ。そうした新時代の否応なしの到来を告げる、極めてアクチュアルな映画。そのアクチュアリティをオールドファッションなガジェットに仕込みナイフの如く忍ばせる、あるいはスターウォーズの仇をミステリでとる、そこにライアン・ジョンソンという作家のクレバーさがある。