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『ミッドサマー』感想

【映画パンフレット】 ミッドサマー MIDSOMMER 監督 アリ・アスター キャスト フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター

 『ミッドサマー』をみました。以下感想。

  妹と両親を心中で失った女は、大学の友人の縁でスウェーデン奥地へと導かれる。奇妙なコミューン、夏至の祭り、狂っていく世界。

 『ヘレディタリー』のアリ・アスター監督の新作は、傷心の女が世界を超越して救済される様を描く。白夜というロケーションで、白昼堂々狂気が次第に愚かな大学生たちをむしばんでゆく様子ははじめ新鮮だが、このロケーションが同時に照明の単調さを生んでもいる。

 ルックは新鮮でも、「愚かなものたちがどんどん犠牲になっていく」というプロットはほとんどお約束であり、結部にいたるまでこちらの想像を超える出来事はほとんど起こらないといってもいい。そのような「お約束」を緊張を持続させたうえで映し続けるのはその技巧ゆえと関心もするのだが。

 この映画がそうしたお約束を逸脱するのが、ホラー映画における決着=秩序の回復が、秩序の紊乱者(この映画においてはカルト)の打倒でも、秩序の紊乱者が愚か者を完全に掃討するでも、あるいは秩序の紊乱者の支配領域からの逃亡によって果たされるのでもなく、秩序の紊乱者の論理を主人公の女が完全に内面化して救済を得る、というこの一点ではなかろうか。

 鑑賞者の態度について何か言及するのは、映画そのものについて言及することとはまったく次元を異にする。鑑賞者の態度を云々することが映画の理解に資することはほとんどなかろう。それでも言いたいのは、このカルトの論理を内面化することで救済される、というプロットにある種の癒しを無邪気に感受することが極めてヤバイ事態を招来するのではという危惧があるからで、この『ミッドサマー』をそうした感性で肯定する所作が、地下鉄でサリンを撒くこととぼんやりと連続しているかもしれないことに、大塚英志でなくても危機感を覚えるべきだとおもう。