俳優・声優として活躍されていた檀臣幸(だん ともゆき)氏が、先月10日に亡くなった。ご冥福をお祈りいたします。
氏は俳優としても、声優としても幅広く活躍されていたようだ。しかし、自分にとっては、魅力的な、洋画の吹替え声優の一人、というイメージだった*1。(なので本記事のタイトルも「声優」、という枕詞をつけた。) 氏の演技は、今でも自分の心に強く残っている。追悼の意をこめて、自分にとって特に印象的だった氏の吹替えの仕事を、以下に書き留めておこうと思う。
『スナッチ』―ブラット・ピット=檀臣幸
自分が氏の演技を始めて意識したのは、『スナッチ』だ。この作品で、氏はブラット・ピットの吹替えを務めている。このブラピは流れ者のチンピラ役で、奇妙な訛りのある英語を話す役柄である。
英語の訛りを日本語に置換するさい、関西弁などの日本語の方言に置き換える場合もある気がするが、『スナッチ』の吹替えの趣向はそのような安易な方向に流れてはいない。氏は訛りの「聞き取りづらさ」を上手く再現することで、見事に日本語に置換し、ブラピの演技と遜色ない「ならずもの」感を出している。まさにプロの仕事だなあ、と感じ入ったものである。
このいい意味でチンピラ感溢れる演技こそ、檀臣幸氏の演技のなによりの魅力じゃないかと思う。このチンピラ感を出せる声優が他にいるのか。いやいるまい。
『ダークナイト』トリロジー―バットマン=檀臣幸
氏の仕事で、おそらく一番多くの人が耳にしたことがあるのは、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』三部作における、クリスチャン・ベールのソフト版吹替えではないかと思う。
この作品でも、氏はベールの演技を見事に置き換えている。ブルース・ウェインとしての「プレイボーイ」感漂う演技と、バットマンとしての強烈な意志を感じさせる演技とを見事に演じ分け、本作の魅力のひとつとなっているのではないかと思う。
『3時10分、決断の時』―男の意地
『ダークナイト』三部作以外でも、氏はクリスチャン・ベールの吹替えを何度か務めている。その中でも白眉なのは、なんといっても『3時10分、決断の時』だろう。
本作でクリスチャン・ベールは、足にけがを負った、情けない印象を受ける牧場主を演じている。そんな男が、決死で囚人の護送を行なうというのが物語の筋だ。この男を、氏は完璧に演じ切った。男が絞り出すように己の感情を吐露する場面は、氏の演技によって、吹替え版においても原語版に負けず劣らず魂を揺さぶるシーンになっている。氏の演技のマイベストは、間違いなくこのシーンだ。
今月末から劇場公開される『攻殻機動隊 ARISE』の2作目が、おそらく最後の出演作品だろうと思う。その演技を聞くのが、ひたすら待ち遠しい。
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*1:それはひとえに自分が吹替え版大好き人間だからなのだが、その話はさておく