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木下恵介監督 『二十四の瞳』 昭和の時代の人々とは

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 木下恵介監督『二十四の瞳』を観た。先日『陸軍』を観て以来、木下監督の作品をみたいみたいと思っていはいたんだけれども、なかなかその機会がなかった。しかし先日加入してみたHuluで、いくつか木下監督の作品を観ることができると気付いたので、さっそく『二十四の瞳』からみてみようと思ったわけである。

当時の社会への応援歌

 『二十四の瞳』を観終えての率直な感想。長い!小豆島に生きる人々の生活を、小学校教師の視点から丁寧に描いた結果としての長さなのだが、正直言って退屈を感じた部分もあった。しかし、その長さがあってこその、ラストシーンの威力なんだろうなあ、とも同時に思う。その、主人公が小豆島を走り抜けるラストシーンからは、この映画は『陸軍』のような反戦映画というよりはむしろ、昭和前期、戦争という惨禍の中を懸命に生きる人間を描き、日本に生きる人間を応援する映画なのかな、と感じた。

 確かに、戦争に対する疑義、みたいな部分は結構前面に出ているなあ、と思う。その背景には、この映画に関わった人の多くが戦争の時代をリアルに生きていた人である、といいことがあるのではないか。戦争の惨禍を直接体験した故に、戦争を否定的に描かなければならない、という使命感が確かにあったのだろう、というのは想像に難くない。

 しかし、それ以上にこの映画から感じるのは、戦争という決定的なカタストロフ、挫折を経た我々は、それでも走りださなければいけない、という強い制作者側の思いである。これって、54年当時の社会の状況と大きくリンクしているんじゃないかなあ、と感じた。当時の社会に強いメッセージを投げかけたからこそ、『二十四の瞳』は高い評価を得たのだと思う。

 

 昭和前期の年代期としての『二十四の瞳

 そんな風に当時の日本社会に訴えかけるものがあったから、評価されたのだろうと思われる『 二十四の瞳』だが、それではこの作品を観る意味とはなんなのか。それはやっぱり、昭和前期の風俗を描いた、ある種の生活誌、年代期としての面白さがあることではないだろうか。

 この映画は劇伴音楽として、「仰げば尊し」や「ふるさと」など、どこか懐かしさを感じられる文部省唱歌が賑やかに使われている。歌に合わせて語られる昭和の市井の人々の暮らしは、今見ると結構新鮮なものがある。また、白黒ながらも小豆島の豊かな自然には感じるものがあるし、朴訥な島民たちの暮らしぶりもなかなか面白いなあ、と思った。

 

 昭和前期の年代期として見る以外にも、教師の在り方を考えるきっかけにはなるかなあ、とも思うのだが、映画で描かれる純粋な指導者ー児童間のきずなは、正直殺伐とした現代社会のそれとは隔世の感があって、あんまりという感じ。それでも、みてよかったなあ、という映画だった。次は『お嬢さん乾杯』あたりをみようかな。

 

 

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二十四の瞳 (角川文庫)

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