宇宙、日本、練馬

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『トト・ザ・ヒーロー』 人生ままならねえ

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 ジャコ・ヴァン・ドルマル監督『トト・ザ・ヒーロー』を見た。『ミスター・ノーバディ』を見て以来、同監督の映画を見ようとは思っていたのだが、ようやく今日見ることができた。

 ジャコ・ヴァン・ドルマル監督は、いまのところ3作しか長編映画を監督していないようだが、ヨーロッパで高く評価されている。この『トト・ザ・ヒーロー』も公開された1991年のヨーロッパ映画賞で主演男優賞、脚本賞などを獲得しているものの、日本では長らくDVD化されていなかったようだ。

  『トト・ザ・ヒーロー』のあらすじ(結末含む)は以下のような感じ。

老人ホームで暮らすトマ老人(ミシェル・ブーケ)は自分が産院の火事の際にカント家のアルフレッドと取り替えられてしまったと信じている。すべての幸福を奪われてしまった人生の思い出が浮かんでくる。8歳のトマ(トマ・ゴデ)の夢は、TVの名探偵トトになることだった。向かいの家に住むアルフレッドに比べればつつましい暮しだが、仲睦まじい家族に包まれて、トマは幸せだった。

 しかし、カント氏の依頼で雷雨の夜に飛び立った飛行士のパパ(クラウス・シンドラー)は戻ってこなかった。大好きな姉のアリス(サンドリーヌ・ブランク)とトマは、カント氏のスーパーに復讐を決行する。ママ(フェビエンヌ・ロリオー)がドーバーまで死体を確認しに行っている間中、姉弟は自由で夢のような日々を過した。だが、やがてアルフレッドと仲良くなったアリスにトマは激しく嫉妬する。トマの涙を見たアリスは、カント家に火をつけ、炎の中に消えた。

 時がたち、青年トマ(ジョー・ド・バケール)はサッカー場でアリスにそっくりな音楽家エヴリーヌ(ミレーユ・ペリエ)を見つけ、愛しあうようになった。が、駆け落ちの日に彼女がアルフレッドの妻であることを知り、トマは絶望する。そして今、大実業家となったアルフレッドが殺し屋に命を狙われていることを知ったトマは、それより先に復讐を果すために懐かしい通りのカント家へ向かうが、アルフレッドもまたトマに嫉妬していたことを知り、年老いたエヴリーヌ(ギーゼラ・ウーレン)とも再会し、決意してアルフレッドとして銃弾に倒れるのだった。*1

 このあらすじだけでは、魅力がすごい伝わりづらい映画だと思います。最後の主人公トマの決断は多少おどろきがあるけれども、予想の範疇をでない。このストーリーのすごさはむしろ、見ている最中よりも、見終わった後、トマの人生を反芻して、途轍もない余韻に浸れるところにあるんじゃないかと思う。『トト・ザ・ヒーロー』の魅力は、なににも代えがたいその余韻にあるんじゃないかと。

 最後の最後で主人公トマは、あれほど嫉妬してきた、姉の愛も金も、すべて持っていた旧友アルフレッドが、実は自らに嫉妬していたことを知る。この気付きと、そのあとトマがとった行動。そして死後、解放の喜びを叫ぶトマ。人生はままならないし、それは死の直前までそうだったけど、些細なことで一変しうることを端的に示した、最高のラストだと思う。年の瀬にこの映画に出会えてよかった。そう思える映画だった。

 

 

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*1:http://movie.walkerplus.com/mv15850/