宇宙、日本、練馬

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旅と人生―『LIFE!』感想

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 『LIFE!』(原題”The Secret Life of Walter Mitty”)の試写会に応募したら思いがけず当選したので、有楽町のよみうりホールで観てきた。TOHOシネマズで何度も予告編をみて気になってはいたけれども、どんなお話かは全然想像もつかなかった。「あなたの人生変わります!」みたいな自己啓発セミナー的なノリは正直あんまり好みじゃないな、と思いつつも、映像のセンスというか、見た目にはすごい惹かれるものがある、というのが観る前の印象だったけれど、期待以上に面白かった。

 いろんな意味で「よくできてる」

 この映画を観終わってまず「よくできてんなー」、と思った。脚本がずば抜けていいとか、役者の演技がとにかく素晴らしいとか、そんな一点突破的な出来ではなくで、いろんな点が「よくできてる」。そう感じた部分はすごくいっぱいあって、それが映画全体の印象を「よくできてる」というものにさせている。

 例えば脚本も憎らしいほど律義に伏線をばらまき、それを回収する。張られる伏線は結構露骨で、だから誰が見ても絶対見落とさないようにつくってあるなと感じたし、それらがシーンが進むにつれひとつ残らず回収されるのはやっぱり見ていて気持ちがいい。

 他に脚本で上手いなと感じるのはギャグの扱い。主人公のウォルターは妄想癖があって、時折現実とシームレスで妄想に没入する。それがひとつのギャグみたいな感じで、序盤に結構挟まれる。このシームレス妄想は昨年見たクドカンの『中学生丸山』っぽいな、と感じたけど、『LIFE!』と『中学生丸山』は演出の方法性が全然違う。『中学生丸山』は一つのギャグの時間をこれでもかというほど長く尺をとっていて、そこが魅力の一つでもあるんだけれども、若干くどく感じる場面もあった。一方『LIFE!』はひとつひとつの妄想シークエンスがすごくテンポよく挿入される。下の予告の30秒くらいから始まる場面をみればそのスピード感を理解できると思う。しかもそれぞれの妄想が贅沢なんだよなー。


映画『LIFE!』予告編 - YouTube

 加えて、予告からもその一端がうかがえるが、映像のセンスがスタイリッシュで。加えて音楽もいいんですよ。ほんとに「よくできた」映画だと思います。

 

「非日常」によって「日常」を逆照射する

 『LIFE!』の語るテーマは、非日常な経験を通して、日常的な営為の素晴らしさを再確認すること。それはまさしく『花咲くいろは』なんかも語っているところで、それについては前にこんな記事を書いた。

『花咲くいろは』 「日常」と「非日常」の脱構築 - 宇宙、日本、練馬

 なにが言いたいかというと、『花咲くいろは』を見ると元気になるのと同じように、『LIFE!』をみても元気が出るよと。『花咲くいろは』では主人公が「非日常」に投げ込まれるのに対して、『LIFE!』では主人公が主体的に決断して「非日常」へと一歩足を進める。その点では『LIFE!』の方がより教訓的というか、露骨にその点が強調されている気もする。

 旅という経験は、日常の積み重ねを異化する機能をもつ。旅の果てにウォルター・ミティの得たものは、自分の日常の営為のかけがえのない輝きだった。その意味で本作は現代の『青い鳥』的な寓話だといえる。その輝きがこめられた大事なものを、ウォルターは一度は捨ててしまう。けれどもそれは再び彼のもとへともどってくる。そのくらいのご都合主義なら、現実でも許されていいのかもしれない。

 

 

 公開前に試写会でみたけど、公開されたらもう一回劇場でみようかな、と思っています。そのぐらいよくできたいい映画だった。

 

The Secret Life of Walter Mitty (Original Motion Picture Soundtrack)

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虹をつかむ男 (ハヤカワepi文庫)

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