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懐古趣味だっていいじゃない―『ミッドナイト・イン・パリ』感想 

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 僕は一応歴史を専門にしている物好きなので、古いものは基本的に好きです。懐古趣味とまではいかないかもしれませんが、古いものには古いというだけで魅力を感じる。そんな僕にとって、『ミッドナイト・イン・パリ』はとても心に響く映画でした。その理由はもうおわかりだと思うんですが、『ミッドナイト・イン・パリ』は懐古趣味をひとつのテーマとして真摯に描いた作品だからなんですよね。

 懐古趣味とは、雨のなかを歩くことと似ている

 まず『ミッドナイト・イン・パリ』のあらすじを簡単に説明しようかな。1920年代大好きな主人公(オーウェン・ウィルソン)が、酔っぱらってパリの街をさまよっていると奇妙な車に誘われ、そのまま1920年代のパリに迷い込んでしまうと。そこでフィッツジェラルドやらヘミングウェイやらと知り合った主人公は、それから夜な夜な1920年代へと足を運ぶことになる、みたいな。そこで同じく懐古趣味(こちらはベル・エポックをこよなく愛する)の女性アドリアナ(マリオン・コティヤール)と出会ってシンパシー以上のものを感じて惹かれあっていくと。

 その後、二人は1920年代からベル・エポックのパリへと迷い込むことになるんですが、ここで主人公は懐古趣味の真理にたどり着く。つまりいつの時代にも、「今の時代は退屈。昔はよかった」みたいなやつがいるんだと。現代に生きている自分は存外幸福かもしれないと気付く。そこで主人公はアドリアナとたもとを分かち、あれほど恋い焦がれた1920年代とも別れを告げ、現代へと帰っていく。

 

 それでも、主人公は懐古趣味を捨てたわけじゃない。懐古趣味の愚かな一面に気付きはしても、その魅力は少しも減じることはない。むしろ懐古趣味の良いところも悪いところも理解したうえで、それでも「昔もいいじゃん」という姿勢を貫くことを決意したんじゃなかろうか。いわば地に足のついた懐古趣味者として生きる決断を下したと。

 本作で懐古趣味とは、ラストシーンに象徴されるよう、雨の中を歩くことに喩えられているんじゃないかなと思う。雨の中を歩けば体は濡れるし不快な気分になるかもしれない。それでも雨の街を美しいと感じる人もいる。たとえ歩くのに快適じゃなくとも、美しい街を見たいと思う人がいてもいいじゃん。そんなことを僕はこの映画をみて思ったのでした。

 

 

 

【作品情報】

‣2011年/アメリカ

‣監督:ウディ・アレン

‣脚本:ウディ・アレン

‣出演 (日本語吹き替え)