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成功と呪い―『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』感想

Ost: Birdman

 

 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』をみました。凄かった、というのが正直な感想で、この作品を劇場で観られてよかったと心底思いました。以下で簡単に感想を。

 切り取られた苦悩と焦燥

 大作エンタメ映画『バードマン』の主役として知られる俳優リーガン・トムソンは、ブロードウェイでレイモンド・カーヴァーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を上演することで再起を図ろうとする。そのプレビュー公演と公開初日の出来事を中心に描くのが、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。

 つねにカメラは至近距離から登場人物を映し、しかも全編ワンカット風味に演出されているため、俳優の息遣いがうるさすぎるほどに画面から伝わってくる。公演が成功するのか不安に感じているであろう、主人公はじめとする登場人物の心象を反映しているかのような不穏なドラムスが鳴り響く劇伴とあいまって、つねに緊張感が漂ってもいて、気を抜くことができない。2時間の間、バードマン=リーガン・トムソンの苦悩と焦燥にゼロ距離で付き合わされる。その感情の迫真性が半端ではなく、それがこの映画の魅力だと思います。ここらへんの感覚は映画館で見てこそ、だと思いました。

 

消したい、しかし忘れられぬ成功の呪い

 この映画が描いているのは、かつて成功した人間が、それに呪縛され苦しみ、もがき、なんとかその呪いから解き放たれようとするさま。バードマンの声は脳内に鳴り響き、現実と妄想との距離は果てしなく近づく。

 バードマンのコスチュームを捨て去り、より「高尚な」世界で成功したいと願うリーガン。しかし悲しいかな、一度「バードマン」として記憶されてしまった男を、世間は「バードマン」としてしか認知しない。そのことが再三にわたって突き付けられる。街を歩けば「バードマン」の男として声をかけられ、そこから脱却するため演劇へ進出しようとしても、映画畑の人間だからという理由で、はなから演劇批評家には相手にされない。

 リーガンを「俳優じゃなくて有名人だ」と評する批評家の言葉は、説明になっているようで全くなっていない。しかしこれこそ、リーガンを縛る呪いを的確に説明してもいる。彼が今現在何をしていようが、何を目指していようが、たいした問題ではない。彼がただ映画界の人間という事実が、彼のすべてを説明する。

 そうして「バードマン」という色眼鏡を通してしか人々に認識されなくなった結果、彼の頭の中にもバードマンが住みつき、バードマンとしての行動を要請する、というような循環構造。

 

呪いを超えた先

 そうした呪いから脱け出すため、彼が極端な行動に出るのが、本作のクライマックスであるように思われる。そしてそれは、多分彼を「バードマンの呪い」からは自由にする。しかし皮肉にも、それは多分、別の呪いに囚われることを意味していた。

 「無知がもたらす予期せぬ奇跡」(The Unexpected Virtue of Ignorance)として、リーガン・トムソンの新たな「物語」は流通し、バードマンをトイレにおいてきても、さらに彼の行動を制約する呪いは続く。呪い自体から逃れるには、彼が結末においてとった行動にでるしかない。

 ここら辺の袋小路は、多分、ショービジネスに関わる人間だけが陥るものではなく、ネット関係のメディアの所為で誰にとっても開かれたものになってしまったのではないかとも思う。劇中で何度もTwitterが言及され、それによってもリーガン・トムソンが新たな呪いにはまったことは強調されている気もする。

 だったらなんなんだ、というお話ですが、単にショービジネスの裏側を描いた作品にとどまらず、現代人が普遍的に抱えているかもしれない苦悩*1みたいなものが描かれてるからおもしれーのではないかと思ったわけです。それ以上に、映像と音とに圧倒されたわけですが。劇場で観られるうちにまたみたいです、はい。

 

 

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【作品情報】

‣2014年/アメリカ

‣監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

‣脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーン、アーマンド・ボー、アレクサンダー・ディネラリス・Jr

‣出演

*1:なんて陳腐な言い方!