『キャロル』をみたんですが、「いい...」「尊い...」以外の感情が無く、感想書くのをためらっていました。しかし一応適当に残しておこうと思います。
1950年代アメリカで二人は出会った。二人はまったく対照的だった。一方は若さに溢れ、もう一方はもう若くはなかった。一方は家族がなく、もう一方は家族があった。一方は労働に精を出していたが、もう一方は家庭を守っていた。そんな対照的な二人にも、ひとつの共通点があった。皮肉にもその共通点――二人とも女であること――が、惹かれあう二人を阻むことになる。
デパートで働くテレーズ・ベリベットが、「運命の人」キャロルと出会い、別れ、そして再び出会うのが『キャロル』で語られる物語のすべてであり、愛が二人の間で確かめられた瞬間、物語は締めくくられる。その愛の障害として設定されたのが、同性愛を異常とみなす社会。同性愛を「治療しなければならないもの」と見做す社会から、わたしたちの社会はもう少し遠くにはいるのかな、という感じはする(と信じたい)。そのかつてあった社会を、つまり1950年代のアメリカの空気感みたいなものはすげえ本物っぽく演出されているなあと。
いや行ったことないしそもそも生まれてないので「本物っぽさ」ってなんなんだという話なんですが、なんというか、われわれの住む世界とは確実に違う異世界としての1950年代みたいなものが確実に現前しているという感じがし、非常によかった。この前みた『ブリッジ・オブ・スパイ』もそうでしたが。
そういう作品世界が最高なわけですけれどもそれ以上に主演二人の演技が非常によくて、佇んでいるだけで妖しい魅力をじっとり発散するキャロル=ケイト・ブランシェット、聖なるものが宿ってるんでないかと思うほど清い雰囲気を纏うテレーズ=ルーニー・マーラ、この二人の魅力によって『キャロル』の大半は構成されているんでないかという気がする。とりわけルーニー・マーラはほんとに印象に残っていて、はじめて職場の外でキャロルと向かい合ったときにきょろきょろと所在なさげに揺れ動く視線とか、ついキャロルの所作に目を奪われていることに気付いた時の戸惑う表情とか、そしてついに対等な存在として彼女と見つめあう瞬間の力強さとか、そうしたものすべてが尊い。テレーズがキャロルを見つけたあの瞬間は、仰々しい音楽が流れはじめて、泣けッ!泣くんだッ!みたいな強烈な意思が感じ取れたとしても、気持ちがなえたりしないのは絶対に彼女の尊さのおかげ。ありがとうございました。
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【作品情報】
‣2015年/アメリカ
‣監督:トッド・ヘインズ
‣脚本:フィリス・ナジー
‣原作:パトリシア・ハイスミス『The Price of Salt』
‣出演
- ケイト・ブランシェット - キャロル・エアード
- ルーニー・マーラ - テレーズ・ベリベット
- サラ・ポールソン - アビー・ゲルハルト
- カイル・チャンドラー - ハージ・エアード
- ジェイク・レイシー - リチャード
- コーリー・マイケル・スミス - トミー
- ジョン・マガロ - ダニー
- キャリー・ブラウンスタイン - ジュヌヴィエーヴ・キャントレル