宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2016年5月に読んだ本と近況

 5月は全体的にあんまり元気じゃなかったんですが、なんとかやっています。

先月のはこちら。

2016年4月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

アメリカ最後の実験

アメリカ最後の実験

 

 

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

 

 

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

 

 

 宮内悠介の作品を『アメリカ最後の実験』、『ヨハネスブルクの天使たち』、『盤上の夜』と遡ったんですがとてもよかった。感想ちゃんと書いておけばよかったなーと思うんですけどね、はい。新作も読みたい。

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ

 

 

読んだ本のまとめ

2016年5月の読書メーター
読んだ本の数:37冊
読んだページ数:10654ページ
ナイス数:256ナイス
http://bookmeter.com/u/418251/matome?invite_id=418251

 

 ■新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

 太宰、鴎外、芥川らの遺した近代文学の名短編に京都の腐れ大学生の魂を吹き込んだ物語は、原典を驚くほど忠実になぞり、あるいは逸脱して現代の物語として語り直される。森見氏の文体と得意とする題材と極めてマッチした冒頭の「山月記」、これこそが我々の友情なのだとシニカルにしかし熱く訴えかける「走れメロス」がとりわけ楽しかった。なんというか、私たちは文学を生きているし、文学もまた私たちを生きているのだなとかしょうもないことを思ったり。千野帽子による解説もパロディになっていて、最後の最後までとにかく楽しい本だった。

 『四畳半神話大系』と『夜は短し歩けよ乙女』も読み直したいなーと思ってるうちに5月が終わってしまった。
読了日:5月1日 著者:森見登美彦
http://bookmeter.com/cmt/55961014

 

手鎖心中 (文春文庫)

手鎖心中 (文春文庫)

 

 ■手鎖心中 (文春文庫)

 戯作者として名を上げるため、偉大な戯作者の生き方を必死でなぞろうとする男を描く表題作と、釜石から江戸へ、なんとか帰ろうとする主従の物語「江戸の夕立ち」を所収。おかしな振る舞いをこれこそ戯作者への道なのだとくそまじめに繰り返す男には滑稽さと、同時に物悲しさを感じてしまう。滑稽さが現実に打ち負かされてなお、「茶気が本気に勝てる道」を見出そうとする、見出したいという戯作者の夢と業。敗北が出発点となり、偉大な物語が紡がれるのだという予感が強烈に書きつけられた表題作のラストに痺れた。
読了日:5月1日 著者:井上ひさし
http://bookmeter.com/cmt/55974280

 

ニッポン沈没 (単行本)

ニッポン沈没 (単行本)

 

 ■ニッポン沈没 (単行本)

 2010年から15年にかけての、時事的な問題と深く絡んだ書評をまとめたもの。とりわけ震災と安倍政権に関わる文章が多いという印象で、書評であると同時に同時代の空気のようなものが濃厚に刻み込まれていて、これはもうちょっと時間が経って記憶が曖昧になってから読んだらよりおもしろく読めるんじゃないか、とか思った。いや今読んでも意外といろいろ忘れているなと気付いておもしろく読んだんですけどね。全体的に不機嫌な語り口もあいまって、10年代前半が日本社会が「沈没」していった時代として表象されている感があり憂鬱になる。
読了日:5月3日 著者:斎藤美奈子
http://bookmeter.com/cmt/56011170

 

クロニスタ 戦争人類学者 (ハヤカワ文庫JA)
 

 ■クロニスタ 戦争人類学者 (ハヤカワ文庫JA)

 個々人の認知や感情を共有し、安定化・平準化させる技術「自己相」が広く普及した未来。その「自己相」を未だ受け入れざる難民たちと関わる軍属の文化人類学者である主人公は、謎の少女と出会う。身体の完全な管理を通して実現したかにみえた理想社会とその綻び、そして人類を救う希望としての「ネアンデルタール人の生き残り」。感情の統制をもってしても消え去ることのない殺意によって人類は滅びるとしても、「未知」なる可能性に身を委ね、未来のために柳田国男の遺志を継ぐことを選びとるラストが非常によかった。

 『伊藤計劃トリビュート』がきっかけで読んだんですが、タイトルは短編版のほうがかっちょよかったのでは?なんて思ったり。

 読了日:5月3日 著者:柴田勝家

http://bookmeter.com/cmt/56018402

 

差別感情の哲学 (講談社学術文庫)

差別感情の哲学 (講談社学術文庫)

 

 ■差別感情の哲学 (講談社学術文庫)

 「差別感情は卑劣漢とか冷酷無比な人に具わっているのではなく、むしろ「善良な市民」あるいは「いい人」のからだにたっぷり染み込んでいる。」(p.213)というのが本書の主張の骨子で、誇りや帰属意識、向上心といった一般にポジティブなものとして捉えられる感情こそ差別につながるのだ、ということが強調して語られる。読み進むうちに自分の内面が裁判にかけられているような感覚になりどんよりした気分になったけれどもおもしろく読んだ。
読了日:5月4日 著者:中島義道
http://bookmeter.com/cmt/56043145

 

アメリカ最後の実験

アメリカ最後の実験

 

 ■アメリカ最後の実験

 アメリカ西海岸、最高峰の音楽学校の狭き門を通らんとする若者たちと、その背後で蠢く、「アメリカ最後の実験」という陰謀。土地に渦巻く世代をまたいだ陰謀をめぐるミステリであり、また至高の音楽に最も近づくことが許された瞬間みたいなものが切り取られた青春小説でもあり、ただただ続きが読みたくて夢中で読んだ。
読了日:5月4日 著者:宮内悠介
http://bookmeter.com/cmt/56049288

 

 ■永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)

 「敗戦を否認しているがゆえに、際限のない対米従属を続けねばならず、深い対米従属を続けている限り、敗戦を否認し続けることができる。かかる状況を私は、「永続敗戦」と呼ぶ。」(p.48) この「永続敗戦」という概念によって、福島原発事故に至る日本の戦後史を読み解き、それを強く批判するというのが本書の戦略であるわけだけれども、それはあまりに大風呂敷を広げすぎてはいないか、という感を抱いた。領土問題から原発事故までを対米関係の蹉跌から捉えようとする姿勢は、ある種の陰謀史観のごとき様相を呈してさえいる、と感じた。
読了日:5月5日 著者:白井聡
http://bookmeter.com/cmt/56073294

 

光の教会―安藤忠雄の現場

光の教会―安藤忠雄の現場

 

 ■光の教会安藤忠雄の現場

 安藤忠雄の代表作の一つに数えられる「光の教会」が建てられるまでを追ったルポルタージュ。世間がバブル景気に浮かれるなかで、あえて利益にならない仕事を請け負い、「清貧」が具現したかのごとき建築を立ち上げようとする仕事人の矜持。アーティストとしての建築家と、実際に現場で建築を作り上げる工務店、そして施主の三社の葛藤と協働が熱量をもって描写されていておもしろく読んだ。安藤忠雄のアーティストとしてのストイックさと大阪弁によるユーモアとが奇妙に共存したキャラクターも魅力的だなーと。

 

読了日:5月6日 著者:平松剛

http://bookmeter.com/cmt/56100814

 

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

 現在より荒廃しているかにみえる近未来を舞台に、「ビルから落下するロボット」をモチーフとして緩やかに連続した短編5編を所収。内戦が人々を傷付ける南アフリカアフガニスタン、イエメンを舞台にした短編もおもしろく読んだのだけれど、世界をめぐってきた物語が東京に帰着する最後の短編の読み味が好き。表題作の結末の壮大なイメージが強く心に残った。
読了日:5月7日 著者:宮内悠介
http://bookmeter.com/cmt/56132990

 

 ■ガルブレイス――アメリカ資本主義との格闘 (岩波新書)

 ガルブレイスの思想を、同時代のアメリカの状況と照らし合わせながら辿ってゆく。ガルブレイスが農家の出であって、農村を対象にした実証研究からキャリアをスタートさせた、ということにまず驚いた。いままで勝手に抱いていた「消費社会論者」のしてのガルブレイスだけではない経済学の文脈のなかでの立場、ニューディールの気風を継承した、所謂新自由主義に対するアンチとしての立ち位置など、認識がより多面的に深まったという感じがして勉強になった。
読了日:5月7日 著者:伊東光晴
http://bookmeter.com/cmt/56140323

 

名作うしろ読み プレミアム

名作うしろ読み プレミアム

 

 ■名作うしろ読み プレミアム

 『名作うしろ読み』の続編は児童文学から童話、ミステリなどなど前作から扱うジャンルがより広まっている。前作と比べるとはるかに「名前は知っているけど未読」な本が増えたなーと。「世界名作劇場」でアニメ化されてるやつとか。それでも最後の一文に着目した書評っていうのはやはり新鮮でおもしろく読んだ。それはそうと、最後の最後に世界を大きく変えた、そしておそらく最も有名なフレーズが配されていることににやりとさせられる。
読了日:5月9日 著者:斎藤美奈子
http://bookmeter.com/cmt/56191829

 

盤上の夜 (創元SF文庫)

盤上の夜 (創元SF文庫)

 

 ■盤上の夜 (創元日本SF叢書)

 囲碁、チェッカー、麻雀などなどの盤上遊戯を題材にした連作短編。虚実を入り交じらせる語りの手つきが見事で、ルポライターらしき人物によって過去と現在とを行き来しつつ語られる物語は、実在の人物の名前を引いてリアリティを担保しつつ、盤面という宇宙に魅入られた人間の常軌を逸した狂気と業をそれぞれ別の角度から描き切っている。とにかくおもしろかった。
読了日:5月10日 著者:宮内悠介
http://bookmeter.com/cmt/56214096

 

現代パチンコ文化考 (ちくま新書)
 

 ■現代パチンコ文化考 (ちくま新書)

 パチンコを日本社会の文脈のなかで捉え、今後パチンコ産業がどのような方向に進むべきなのか、そしてわたしたちはパチンコとどう向き合うべきなのかを論じる。ラスヴェガスなど海外のカジノ文化との比較から、健全な娯楽としてパチンコ産業を育成し、いかがわしいものではぬく娯楽の一つとして楽しめるものにする必要がある、というのが著者の立場だろうか。パチンコには疎いのでよくわからないのだけれども、90年台後半に書かれたものなので現在では古びている議論もあるのかなーと。パチンコのネガティヴな意味での無階級性の話題とか。
読了日:5月11日 著者:谷岡一郎
http://bookmeter.com/cmt/56230447

 

資本主義という謎 (NHK出版新書 400)

資本主義という謎 (NHK出版新書 400)

 

 ■資本主義という謎 (NHK出版新書 400)

 対談の基調となっているのは、「資本主義システムの終焉は近いのではないか」という感覚で、それにそって16世紀と21世紀の類比や国家と資本主義との関係などなどが論じられていく。水野の述べる「利子率革命」の話題はなるほどなーと。結末近くで語られる大澤の『桐島、部活やめるってよ』と現代の社会状況というか世界情勢を接続してみせる語りは、流石にアクロバットにすぎるんじゃないかとも思った。その飛躍が大澤の魅力でもあると思うのだけれど。それはそうと桐島=第三の審級とする見立てはすっきりしている。
読了日:5月11日 著者:水野和夫,大澤真幸
http://bookmeter.com/cmt/56240756

 

社会学ウシジマくん

社会学ウシジマくん

 

 ■社会学ウシジマくん

 マンガ『闇金ウシジマくん』を取っ掛かりに、社会学現代日本の問題をどのように捉えているのかを概観する。都市社会学や家族社会学、福祉社会学、リスク社会論からジェンダー論まで内容は幅広く、楽しく(息苦しくもあるのだけど)読める社会学のイントロという印象。ウシジマくんのなかに見え隠れする日本社会の問題の数々に、ウシジマくんというマンガの豊かさと、それと裏腹の社会の生きづらさに思いを馳せざるを得ない。作中で仄かに示される微かな希望がこの漫画の魅力、というのにはおおいに頷く。あまりに絶望も深くてげんなりするけども。

 ウシジマくん、完結したら一気に読みたいと思ってるんですが一向に終わらなそうなのでここらで読むのもいいのかも。
読了日:5月12日 著者:難波功士
http://bookmeter.com/cmt/56262922

 

教科書名短篇 - 少年時代 (中公文庫)
 

 ■教科書名短篇 - 少年時代

 「つまり君はそんなやつなんだな」が心に刻みつくヘッセ「少年の日の思い出」、かつての殺人の十字架を改めて背負うことになる山川方夫「夏の葬列」など、記憶に強烈に残る短編がセレクションされているあたりになんというかそこはかとない悪意みたいなものを感じたり。ラストを締めくくる魯迅「故郷」のおかげで読後感はよいのだけれども。
読了日:5月14日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/56298608

 

増補新版 法とは何か (河出ブックス)

増補新版 法とは何か (河出ブックス)

 

 ■増補新版 法とは何か (河出ブックス)

 国家とはなんなのか、その国家と法とはどういう関係にあるのか、そしてそのなかでの法はどんな位置付けをもつのか。そういう流れの三部構成になっていて、社会契約論から法思想へ、というような感じで論が展開されていく。章ごとに付された文献解題からさらに個別の論点を詳しくみていく手掛かりになっていて便利だなーと。ぼんやりした頭でだらだら読んでいたのであんまり頭に入ってこなかった感。いつか再読しましょう。
読了日:5月14日 著者:長谷部恭男
http://bookmeter.com/cmt/56304221

 

「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

 

 ■「東京」に出る若者たち―仕事・社会関係・地域間格差

 地方と大都市、具体的には東北地方と東京を移動する若者たちを、経済的な側面と人間関係的な側面から社会学的に分析する。統計を利用した量的調査と、インタビューを資料にした質的調査の両者が含まれていることが本書の分析を多面的なものにしている印象。大都市に出ることは若者にとって経済的にも人間関係的にも利益をもたらす、というのが若者たちの移動についての結論だろうか。インタビューで「いずれは地元に戻りたい」という志向の工業高校出身の男性たちと、地元に戻ることはないのだろうと推測できる大卒の女性たちの対比が印象的だった。

 『SHIROBAKO』を考える手掛かりに、と思って積んでいたのをようやく消化。

 

読了日:5月14日 著者:石黒格,杉浦裕晃,山口恵子,李永俊

http://bookmeter.com/cmt/56306152

 

興亡の世界史 シルクロードと唐帝国 (講談社学術文庫)

興亡の世界史 シルクロードと唐帝国 (講談社学術文庫)

 

 ■興亡の世界史 シルクロード唐帝国 (講談社学術文庫)

 唐帝国の時代を中央ユーラシアからの視座において眺める。西欧中心史観からも中華史観からも脱却することを目指すと声高に宣言する本書の記述は、確かになんとなく抱いていた唐のイメージが変わるような歴史叙述がなされていた、と感じる。征服王朝としての唐、そして様々な民族が入り乱れ文化的にも混ざりあっていく様は、一枚岩な「中国」というのが幻想に過ぎないのだということを強く印象付ける。壮大な目的と史料に基づく詳細かつ手堅い叙述とが不調和にも感じたが面白く読んだ。

 表紙力高い。
読了日:5月15日 著者:森安孝夫
http://bookmeter.com/cmt/56335965

 

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

 

 ■フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

 市場の内部に浸透し、投資家からノーリスクで利ざやを稼いでいる超高速取引業者たち。彼らの影を察知したカナダの銀行員ブラッド・カツヤマが、超高速取引業者との対決に挑む。なぜか成立しない取引の謎を探っていく様はさながらミステリー、そして姿なき敵を捉え、フェアな市場のために闘う主人公たちはまさしくヒーローという感じで、マイケル・ルイスの著作のなかでも際立って勧善懲悪的な構図。しかしまだまだ「十億分の一秒」の世界での戦いはいたちごっこのように続くのだろうな、という予感を漂わすラストに著者のニヒリズムを感じるけども。
読了日:5月16日 著者:マイケルルイス
http://bookmeter.com/cmt/56362689

 

さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)

さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)

 未来から来たという中年女性に導かれ、将来大変なことになるらしいアニメーターの男がタイムトラベルによって自分の未来を生き直す。『恋はデジャブ』的に何度も何度も一日を反復してよりよい場所に辿り着こうとする前半と、中年女性の恋に関する未練を晴らすため時をかける後半とに分かれるのだが、折り返し地点でだいぶ満足してしまった。それはともかく結末は清々しくて、全体としてはとても楽しく読んだ。アニメに引きつけて過去現在未来を語ってみせるのはやはりアニメ監督ならではの切り口だなーと感じた。
読了日:5月17日 著者:宮地昌幸
http://bookmeter.com/cmt/56383718

「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける (光文社新書)

「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける (光文社新書)

 

 ■難解な本を読む技術 (光文社新書)

 読書を山登りに喩え、難解とされる哲学・思想系の著作の読み方をレクチャーする。まず本には目的地を目指す「登山型」と、景色を楽しませる「ハイキング型」の本があり、それぞれ外部の参照を必要とする「開かれた本」/しない「閉じた本」に分類してそれぞれに別の読み方があるとするあたりに著者の読み方の特徴が表れている。著者の本の末尾に付されていることが多いブックガイドでの語り口が僕はとても好きなのだが、この本ではその本を紹介する語り口が存分に発揮されているという印象でとても楽しく読んだ。
読了日:5月18日 著者:高田明
http://bookmeter.com/cmt/56398978

 

 ■誰がケインズを殺したか―物語で読む現代経済学 (日経ビジネス人文庫)

 ケインズ以後の経済学の潮流を、アメリカ経済の動きと絡ませつつ概説する。財政政策によって失業率をゼロに近づけようとするケインズ理論ケネディの時代に積極的に取り入れられたが、70年代に入ってインフレへの対抗策がなくなったことで反ケインズ的なマネタリズムによる金融政策の重視へと移り変わっていった。そしてマネタリズム、サプライサイド派などなど反ケインズ的な経済学の栄光と蹉跌を経て現代に至る、というのごおおまかな見取り図だろうか。素人なりに現代の経済思想の見取り図は得られた気がする。
読了日:5月19日 著者:W.カールビブン
http://bookmeter.com/cmt/56416085

 

高度成長 (中公文庫)

高度成長 (中公文庫)

 

 ■高度成長 (中公文庫)

 経済学者によって書かれた高度成長期についての概説なのだけれど、経済学の説明に僕が感じる無味乾燥な印象は全くなく、生活の変容、人口移動など広い視野から高度成長期という時代を切り取っていて、それゆえ多面的な像を提供してくれるような本だった、と感じる。「今日われわれが、日本の経済・社会として了解するもの、あるいは現代日本人をとりまく基本的な生活パターンは、いずれも高度成長期に形づくられたのである」(pp.4-5)ということに深く納得できる。

 

読了日:5月19日 著者:吉川洋

http://bookmeter.com/cmt/56422518

 

 ■オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

 社会主義体制がまだ確固として存在したプラハの学校で、強烈な存在感を放っていた舞踊の教師オリガ・モリソヴナ。主人公はペレストロイカの進むロシアで、記録と記憶とを頼りに彼女の人生の物語を辿っていく。スターリン時代に人々にとつじょ降りかかる抑圧的で苛烈な運命と、それでも生きようとした人々。オリガ・モリソヴナの「反語法」的な戦いの生涯が次第に明らかになっていくのに夢中になって次々ページを繰った。
読了日:5月21日 著者:米原万里
http://bookmeter.com/cmt/56470135

 

ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書)

ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書)

 

 ■ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書)

 1970年代以降の日本社会の構造変化を、「グローバリゼーションのなかでの新自由主義的国家モデル・フレクシブルな資本編成の前景化」と「社会的なリアリティの虚構化」の二つを大きな軸として叙述する。政治運動、消費社会化、家族の変容、地域開発などが主題になるのだけれども、そのいずれもその二つの軸と密接に絡み合っている。そうした具体的な記述によって、近代日本的あるいは戦後的なるものが崩壊していく過程が浮き彫りになる、という構成。再読だが得るところが多かった。

 

読了日:5月22日 著者:吉見俊哉
http://bookmeter.com/cmt/56478028

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

 

 ■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

 「腐った目」をした友達皆無の男子高校生が、よくわからない部活動に巻き込まれ、青春だかなんだかよくわからないことどもに遭遇していく。登場人物が頻繁に漫画やアニメなどのフィクションに言及したりネットスラングを発したりするあたりが、なんというか作品の環境世界に独特のリアリティをもたせている、というような印象。自己言及的な青春の物語はとりあえず終わりがないのが終わり、という感じで一区切りついてしまった気もするけど、どういう風にオチをつけるんだろうなーと今からきになる。
読了日:5月22日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56486467

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。2 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。2 (ガガガ文庫)

 

 ■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。2 (ガガガ文庫)

 2巻は青春に未来=進路の影が差してきてこの日々にも確実に終わりがあるのだなという予感がほのかに漂うけれど、決定的に「まちがう」ことを選ぶ結末が鮮烈な印象を残す。「間違ってなどいないのかもしれない」と独白した1巻から一転、「やはり」まちがうしかない人間が、それでもどうにか青春を生きる物語、というのが基調になっていくんだろうか。
読了日:5月22日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56487333

 

 ■戦時下日本の建築家―アート・キッチュ・ジャパネスク (朝日選書)

 戦前、戦時下において建築界にひとつの潮流をなした帝冠様式や日本趣味が、それまで考えられていたような「戦争協力」やファシズムの理念に奉仕するようなものではない、というのが著者の主張。そうした日本趣味と対抗関係に位置付けられ、戦後にヘゲモニーを握ったモダニズムこそ、その実日本ファシズムと連動していたのではないか、そしてポストモダニストの潮流すら戦時下に起源をもつのではないか、という風に実証によって従来の構図をひっくり返してみせる手際が見事。

 井上の最近の本はやたら読点が多くて読みがたいなーと思っていたんだけど本書のあとがきでその片鱗があらわれていた。本文は普通なのに。わかりやすく書こうとするとつい多くなってしまうのだろうか。
読了日:5月23日 著者:井上章一
http://bookmeter.com/cmt/56512420

 

熱狂なきファシズム: ニッポンの無関心を観察する

熱狂なきファシズム: ニッポンの無関心を観察する

 

 ■熱狂なきファシズム: ニッポンの無関心を観察する

 主に2010〜4年に書かれた、時評的な文章、「観察映画」ないしドキュメンタリー映画について論じた文章を収める。安倍政権は「人々の無関心と「否認」」のなか、さながら「消費者」のように政治に関わる人々によって支えられる「熱狂なきファシズム」である、というのが著者の主張。政治的な文章は正直既視感ありありな感じを受けたのだが、映画論は非常に面白く読んだ。末尾の『永遠の0』論の絶望は深いが、本書出版後に塚本晋也によって『野火』が撮られ公開されたことに若干の救いを感じたり。
読了日:5月24日 著者:想田和弘
http://bookmeter.com/cmt/56532386

 

しかし…―ある福祉高級官僚 死への軌跡

しかし…―ある福祉高級官僚 死への軌跡

 

 ■しかし…―ある福祉高級官僚 死への軌跡

 環境行政に深く関わってきた高級官僚は、なぜ自ら死を選んだのか。日本の環境行政の変遷を辿りつつ、一人の人間の生涯を丹念に追いかける。そのなかで、文人肌の男が、組織と個人、開発と環境保護、抑圧する側とされる側とに板挟みになり、次第にその繊細な魂を擦り減らしていくひとつの「物語」を著者は提示してみせる。理想主義が現実主義のまえにもろくも敗れ去るというまさに環境行政のたどった道筋が一人の個人の敗北に凝縮されているような感覚を覚えた。

 上記の想田和弘の本で触れられていたので読んだが期待以上に心に刺さった。
読了日:5月25日 著者:是枝裕和
http://bookmeter.com/cmt/56552969

 

 ■「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて (中公新書 2332)

 近年話題に上ることが多くなった第二次世界大戦期や植民地支配にまつわる「歴史認識」について平明に語る。東京裁判から戦争責任、慰安婦問題など論争的なトピックに対してなぜそれが問題化してきたのかという歴史的な経緯、それに対する著者の立場などがそれぞれまとまっていて、インタビュー本なのにも関わらずレファレンス的な使い方ができそうな印象を受けた。後半結構流し読み。
読了日:5月25日 著者:大沼保昭
http://bookmeter.com/cmt/56553639

 

笑いのセンス――日本語レトリックの発想と表現 (岩波現代文庫)

笑いのセンス――日本語レトリックの発想と表現 (岩波現代文庫)

 

 ■笑いのセンス――日本語レトリックの発想と表現 (岩波現代文庫)

 「笑い」にまつわる考察・理論を概観整理したのち、小噺や落語、文学のなかに表れる笑いについてエッセイ的に語っていく。序盤の「笑い」についての考察の整理が網羅的で勉強になった。著者自身はそれらを踏まえて「直接的な笑い/間接的な笑い」という大きく二つの類型を打ち立てているが、これは確かに説得的だなーと。夏目漱石『坊ちゃん』が軽妙な笑いに満ちていることや、井上ひさしが縦横にテクニックを弄して笑いにこだわっていたことなど、「笑い」という観点から見知った作品を眺めると違った読み方ができるのだなーと気付かされた。
読了日:5月26日 著者:中村明
http://bookmeter.com/cmt/56575711

 

 ■人はなぜ<上京>するのか (日経プレミアシリーズ)

 日本社会において、東京に出ることの意味はどのように変わってきたのか。近代日本における上京のありようの変遷を、文学作品なども参照しつつ探っていく。立身出世のため、という強烈な目標があった時代も今は昔、次第に上京という移動の意味は「平熱化」し、上京とは「何気に」するものである、という風に現在は落ち着いている、というのがおおまかな著者の見立てだろうか。それぞれの時代ごとにキーワードを摘出し時代を概観していく語り口に種々雑多なディテールが加えられる感じが読ませる本だったなーと。
読了日:5月27日 著者:難波功士
http://bookmeter.com/cmt/56601032

 

キャラの思考法: 現代文化論のアップグレード

キャラの思考法: 現代文化論のアップグレード

 

 ■キャラの思考法: 現代文化論のアップグレード

 キャラクター/キャラを軸にしたサブカルチャー評論をまとめたもの。やくしまるえつこからゲームの話題までさまざまな対象を論じ、それによって所謂キャラ論をアップデートしようと試みる。とりわけ面白く読んだのが洋ゲーと和ゲーとが別の種類の欲望によって駆動しているとするゲーム論で、<物語への欲望>が物語へと介入するようなゲームとの関係性を開いたとし、それがキャラが時と共に更新されていくような「時間性」をもたらした、とする本書全体の結論に繋がるのはなるほどなーと。
読了日:5月28日 著者:さやわか
http://bookmeter.com/cmt/56607286

 

神、この人間的なもの―宗教をめぐる精神科医の対話 (岩波新書)

神、この人間的なもの―宗教をめぐる精神科医の対話 (岩波新書)

 

 ■神、この人間的なもの―宗教をめぐる精神科医の対話 (岩波新書)

 精神科医ふたりの対話という形式をとって書かれた、宗教についての論考。三大宗教の始祖を、ヒステリーの治癒者と位置付け、その時代から歴史は後退を続けていると著者はいう。精神的な病の治療のために宗教が生じたとするなら、精神科医の仕事というのはまさに宗教家の後裔に位置付く、というような話の運びは精神科医という独特の位置にいる人間が語るからこそだよなーと。おもしろく読んだ。
読了日:5月29日 著者:なだいなだ
http://bookmeter.com/cmt/56631427

 

 ■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。3 (ガガガ文庫)

 前巻ラストで唐突に切れてしまった由比ヶ浜との関係をどのようにして回復するのか。とはいえ語り口は相変わらず軽妙で、雰囲気は終始明るいので読んでいて楽しかった。始まり方から間違っていたなら、終わらせてまた始めればいい。そんなラストにまさに「青春」じゃん、と思ってしまったのだけれど当の八幡くんはそれをどこまで自覚してるんだろうか、というのが今までのお話よりだいぶグレーだなーと思いました。
読了日:5月29日 著者:渡航
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近況

 5月は体調崩していて映画全然観に行けなかったの。ガッデム。

『俺ガイル』をみたり、『中二病でも恋がしたい!』をみるなどしていました。

残念な僕らはいつもまちがう――アニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』感想 - 宇宙、日本、練馬

 それとフィッシュマンズ爆音上映はとってもよかったです。

『FISHMANS 男達の別れ 98.12.28@赤坂BLITZ』爆音上映@渋谷CLUB QUATTROに行ったよ - 宇宙、日本、練馬

 6月は健康に行きたいですね。健康第一。

 

来月のはこちら。

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