最高の夏をな。
先月のはこちら。
印象に残った本
![トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection) トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51yiCWpXq8L._SL160_.jpg)
トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者: トマスピンチョン,Thomas Pynchon,佐藤良明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
- メディア: 単行本
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印象に残ったのはトマス・ピンチョン『重力の虹』。よく読んだと自分をほめてあげたい。えらい。
佐藤の解説曰く「三度読んだらわかってくる」そうですが、うーん、再読はまだまだ先になりそうです。
というわけでピンチョンを攻めていこうかなーと思ってたんですが物理的に二重の意味で重いので二作でやめちゃいました。『スローラーナー』と『競売ナンバー49の叫び』を読めって話ですが。ともかく、おれは通勤中でも長編小説を読めるんだと無駄な自信を得たので、次は大西巨人『神聖喜劇』あたりを攻めようかと思案中。
読んだ本のまとめ
2016年6月の読書メーター
読んだ本の数:30冊
読んだページ数:10303ページ
ナイス数:204ナイス
■日記をつける (岩波現代文庫)
日記をつけることについてのエッセイ。日記をつけてきた先人たちの日記が豊富に引用されていてさながら日記の博覧会のような趣。「ちょこっと」日記をつけてみるだけで、それを読み返す時に労力以上のおもしろさが得られるとは実感としてあるので、日記を継続するモチベーションが補給されたかんじがする。
最近日記がてきとうになっていく一方なんですが、ある程度きちんと書かないと読み返したときの楽しみが大幅減なのだよなー。気合い入れて書こうとしすぎて億劫になってやめちゃいそうなのであれなのだけれども。
読了日:6月1日 著者:荒川洋治
http://bookmeter.com/cmt/56709114
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トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者: トマスピンチョン,Thomas Pynchon,佐藤良明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
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■トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
第二次世界大戦末期、V2ロケットの降りしきるロンドンで女漁りに精を出すヤンキー。彼の漁色の後を追うように天より来るロケットに、不可思議な意味を見出す、軍属のパヴロフ主義者。<かれら>の制御の手が伸びてきて、ヤンキーはどこに逢着するともしれない冒険のなかに叩き込まれる。「百科全書的」との形容に偽りなく、これでもかというほど詰め込まれた知識とカオスなディテールが洪水のように襲来し理解したと思った次の瞬間には何故か置いていかれている、としか言いようのない読書体験。何もわからんがすごいということだけはわかる。
読了日:6月2日 著者:トマスピンチョン
http://bookmeter.com/cmt/56733785
現日銀副総裁が就任以前に著した、日銀の金融政策に対する総括と批判の書。日銀の金融政策が、第一次オイルショック時の狂乱物価のトラウマによってインフレ忌避かつデフレ容認的な姿勢をとったことを厳しく批判し、インフレーション・ターゲティングこそ貨幣価値=物価の安定のために必要だと説く。それと併せて、何故か東大法学部によって占められてきた日銀幹部を経済的な知見をもつ人物を登用すべき、金融政策に対する説明責任を果たす透明性のある運営を行うべき、などが主な提案だろうか。
読了日:6月5日 著者:岩田規久男
http://bookmeter.com/cmt/56805297
■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。4 (ガガガ文庫)
合宿で小学生と接することになった奉仕部の面々。小学生を眺める、という立場に彼らを置くことで、彼らなりの学校での身の振り方みたいなものが違和感なく語られる仕掛けになっているのが上手い。冒頭と決着に夏目漱石『こころ』を引っ張ってくるあたりに、近代文学が語ってきた「私」の問題系に現代的にアプローチしてるぜ的目配せというかメタメッセージが感じられる、みたいな。
読了日:6月5日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56807027
■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。5 (ガガガ文庫)
夏休みの挿話はアニメでは結構端折られてるのだなーと。確かに八幡くんの物語にとっては今のところ重要なエピソードっていう感じはしなかったけれども。最後に語られる雪ノ下への憧れはなんというか、かなり意外な感じを受けたのだけれど、その唐突さこそ正しく青春という感じもする。相変わらずそこかしこに散りばめられた小ネタが楽しくて軽快に読めるのが心地いい。
八幡君の雪ノ下への憧れ的な感覚はアニメみただけだとわかんなかったんですよねー。
読了日:6月6日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56825941
![トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection) トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51tNwwoSprL._SL160_.jpg)
トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者: トマスピンチョン,Thomas Pynchon,佐藤良明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/30
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■トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)
敗戦により占領状態となったドイツ=<ゾーン>のカオスのなかを、<ロケットマン>スロースロップが駆け巡り、またドイツのロケット技術を巡って様々な陰謀が錯綜する。そこで働く<かれら>の制御と支配に対する<カウンター・フォース>が支離滅裂に炸裂し、スロースロップを含めてあらゆるものが拡散していくクライマックスは親切な訳注の手助けをもってしても理解を絶する。その拡散するカオスの奔流みたいなものに急き立てられてひたすらページを繰っていた。なにかすごいものを読んだという感覚だけがある。すごい。
書くだけ書いた感想。
読了日:6月10日 著者:トマスピンチョン
http://bookmeter.com/cmt/56919251

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6 ガガガ文庫 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている
- 作者: 渡航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/02/22
- メディア: Kindle版
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈6〉 (ガガガ文庫)
文化祭という非日常が、学校空間に波紋を呼び起こし、奉仕部の面々はそれに翻弄されつつそれぞれの役割をこなしてゆく。アニメ版のクライマックスに配されたこのエピソードは、八幡が「間違った」仕方でしか解決できないこと、そんな「変わらない」≒変われない自分を肯定することを「ぼっち」の矜持と捉えていること、そんなある意味潔癖な自意識が剥き出しになっているという印象が一人称の語りのなかで痛切に伝わってきて、それがなんというか痛痒い感覚を覚えた。葉山くんとの対比は原作の方がよりはっきりしてる印象。
アニメみた時も思ったんですが、八幡君の「まちがった」解決策は、解決策であると同時に彼自身のルサンチマンの爆発でもあるという気がして、それがなんとなく正しさみたいなものをまがりなりにも得てしまうことってなんだか不健康って気もするのよなー。その意味で、作中で周囲の目線が八幡君に冷たく刺さるのはある意味救いなのかも。
読了日:6月11日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56931784

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん(8)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/07/22
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。6.5 (ガガガ文庫)
文化祭のあとすぐさま訪れる体育祭のお話は、文化祭で泥を被った相模さんがさらに泥にまみれて、でもちょっと救われる、みたいな感じで、この挿話の有無で彼女の因子もだいぶ変わるよなーと。八幡くんの目には「俗物」に映る彼女は、作者自身も書いているように極めて人間くさいやつで、そこが八幡くんの語りを読んでるとシンクロして不愉快になってくる部分でもあるのだけれども、そんな彼女もこれからなんとかやっていったりいかなかったりするんだろうなと、そういう結末が嫌いではないなーと思いました。
読了日:6月11日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/56934977

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダンアリエリー,Dan Ariely,熊谷淳子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/08/23
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■予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
タイトルが見事に内容を過不足なく表していて、「わたしたちがくだす決断は、従来の経済理論が仮定するほど合理的ではないどころか、はるかに不合理だ。といっても、わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない。規則性があって予想することもできる。」(p.435)ということを、様々な実験によって明らかにする。社会的価値と経済的価値、無料の魅力、プラセボ効果などなどについて行われた実験はなるほどなーとなるものばかりで大変おもしろく、かつ身につまされ、なんとなく賢くなったような気分になった。
読了日:6月12日 著者:ダンアリエリー
http://bookmeter.com/cmt/56968395

LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
- 作者: トマスピンチョン,Thomas Pynchon,栩木玲子,佐藤良明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/04
- メディア: 単行本
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■LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
1970年、アメリカ、ロサンゼルス。ヒッピー探偵ドックは元カノから依頼された行方不明の大富豪探しのなかで、不動産からドラッグまでを支配し、薬物中毒者から警察までをも制御する巨大な力、<黄金の牙>の影をみる。同時代のサブカルチャーを無数に引用しつつ語られる一人の探偵の物語は、巨大な力に翻弄されてなお、逸脱してゆく力への希望に賭け金を置いてみせる、そういうヒーローの物語であるのだと思う。そのように支配と制御の手から逸脱する可能性をこそ、私たちは自由と呼ぶのだと。
映画版とはまた違った味わいのラストショットがまたよいのですよ。
読了日:6月15日 著者:トマスピンチョン
http://bookmeter.com/cmt/57032486
■1980年代 (河出ブックス)
1980年代にまつわる鼎談・論考を所収。このタイトルを冠するだけあって、1980年代という時代を一つの転換点として捉えるような認識が全体の基調になっていると感じた。編者である斎藤・成田と他一人を交えた鼎談はどれも面白く読んだ。特に印象的だったのは、この時期に都市の風景が「なめらか」になっていったとする若林の論考と、広告を語るスタンスとして「素人目線」が主流になっていったとする加島の論考。
それと平野啓一郎のプロレス論にはやられた…という感覚を抱いた。山口昌男を援用して中心/周縁の対概念を持ち込み、80年代のプロレスを分析してみせる手際に唸る。
読了日:6月16日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/57040828
■アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)
ナポレオン率いるフランス軍侵攻前夜のエジプト。正面からでは勝ち目がないと悟る将軍とその奴隷がはりめぐらす策略は、読んだら最後の「災禍の書」をナポレオンその人に献上せしめようというもの。伝説に塗れたその書を「創る」ため、夜の種族と奴隷アイユーブが邂逅する。「夜の種族」による語りと現実とが交錯し、「災禍の書」が創り上げられていくのだけども、そこで語られる妖術師アーダムの物語が滅法面白く夢中で読んだ。続きが読みたくて仕方ない。
読了日:6月17日 著者:古川日出男
http://bookmeter.com/cmt/57062088

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈7〉 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん(8)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/03/19
- メディア: 文庫
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈7〉 (ガガガ文庫)
修学旅行。奉仕部は恋のアシストを依頼されるが…。またもや八幡くんが「まちがう」ことで問題を解決する展開は文化祭の反復という印象があるのだけれど、これだけ巻を重ねると初期には八幡の語りのなかではっきり他者として現前していた所謂リア充集団も、なにやら人間味というかキャラクターとしての厚みのようなものが浮かび上がってきていて、それがよりはっきり示されたエピソードだったなーと感じる。積極的に「変わりたくない」「失いたくない」というのが葉山くんの行動原理だとはっきりした気がするのだけれどどういう風に落とすんだろ。
読了日:6月19日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/57117234
■アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)
「夜の種族」による年代記は第二、第三の主人公が登場。主人公たちがついに魔都で巡りあう。『ウィザードリィ』を想起させる無辺の地下迷宮に舞台を移し、その迷宮都市の物語が一つの基底をなしているという感じ。「災禍の書」を創り上げるための語りはますます白熱するなかで、ナポレオン麾下の軍勢もいよいよその圧倒的な力を炸裂させ始める。クライマックスがとにかく楽しみ。
読了日:6月19日 著者:古川日出男
http://bookmeter.com/cmt/57126072
■アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)
「夜の種族」の語る物語はいよいよ結末へ向かう。1000年の時を生きる魔王と流浪の運命を背負わされた男、そして王家の落胤の運命は、蛇神を倒すという一点に集約される。そして明らかになるアイユーブの真の役割。劇中劇のクライマックスがそのような対決であったことに象徴されるように、また「夜の種族」という存在自体がそうであるように、読み/読まれる関係が無数に織り込まれたこの物語を読むことを通じて、まさにこの身体に本書自体が流れ込んでくるような、そんな不思議な感覚に浸れる仕掛けに脱帽。
読了日:6月20日 著者:古川日出男
http://bookmeter.com/cmt/57145247
■小説の技法 (岩波文庫)
実作者による小説論で、自作をためらいなく取り上げてその意図なんかを語っている。クンデラにとって小説とは「複雑性の精神」であり、単純化を避け複雑さをそのまま含みもつものであって、そのなかでこそ人間の実存の可能性は描かれうるという立場であるように感じられた。ドン・キホーテのなかに近代小説の可能性の萌芽を見、カフカのまさしく「カフカ的」不条理世界の画期性を論じる語り口が鮮やかで引き込まれた。それと自作の翻訳をめぐる挿話はえらいびっくり。
読了日:6月21日 著者:ミラン・クンデラ
http://bookmeter.com/cmt/57163214
「無意識」という切り口から日本国憲法の歴史的な位相を論じる。護憲派はむしろ憲法によって守られてきたのだという逆説、第二次世界大戦後の状況をある意味での江戸時代の反復と捉え、天皇の機能などから憲法の先行形態を江戸期にみる議論を経て最終的にはマルクス、カントを引いて世界史的な状況を論じ始めるアクロバット。憲法の無意識が主題として論じられるのは第1章くらい。別々の時期の講演を一つの著作にまとめて成り立っているのだけれど、なんとか一冊の本としての連続性を保とうとするような印象でいびつさを感じたりもした。
読了日:6月21日 著者:柄谷行人
http://bookmeter.com/cmt/57164301
戦後からバブル期に至るまで、すなわち広島平和記念公園から新宿の東京都庁舎に至るまでの丹下の仕事を辿り、彼の影響下にある「丹下シューレ」の建築家についても簡潔に紹介する。冒頭で断ってはいるけど、戦前からの連続性がやっぱり大事なんじゃないの?と思っちゃう。「美しいもの」こそ「機能的」とする丹下の建築が、建築を超え社会的な象徴としての役割を担い得たことに建築の可能性をみる、というのが著者の姿勢だろうか。
新書という媒体の制約はあるのは承知してはいるけれど、丹下とその周辺の人物についての書物はコールハース『プロジェクト・ジャパン メタボリズムは語る』の圧倒的な物量と密度を前にするとやっぱり霞んでしまうよなーと思う。戦前からの連続性のうえにそれらの建築家の欲望を捉え、一つの戦後史を提示してみせたコールハースはやっぱりすごい。
読了日:6月22日 著者:豊川斎赫
http://bookmeter.com/cmt/57184281

物語 哲学の歴史 - 自分と世界を考えるために (中公新書)
- 作者: 伊藤邦武
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2012/10/24
- メディア: 新書
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■物語 哲学の歴史 - 自分と世界を考えるために (中公新書)
哲学史をひとつの物語のように語ろうという試み。古代から中世にかけての「魂の哲学」から、デカルトに始まる近代の「意識の哲学」を経て、やがて20世紀の「言語の哲学」、そして「生の哲学」へと展開する、というのが大まかな見取り図で、それがまさしくストーリーとして様々な哲学者の議論をひとつの流れのなかにまとめているという感じ。多くの哲学者が紹介されるのだけれども、それぞれのエッセンスの濃縮されているような感じで無味乾燥な印象とは無縁。悲しいかな電車内で読み進めていて頭に入ってこなかった。
図書館で借りたんですが、持っていてもいいかもなーと。いずれ再読したい。
読了日:6月23日 著者:伊藤邦武
http://bookmeter.com/cmt/57205335
『コーラン』をかみ砕いて読み解いていき、イスラームを紹介するような感じのエッセイ。池内恵が好意的な書評を寄せていたので読んだんだけれども、やはり語り口が巧妙ですらすら読める。コーランがどのような性質の書物なのか、キリスト教との差異化をどのように図っているのか、女性の立場はどうなっているのか等々をコーランに即して解説していて、なんというか勉強になったなーという感覚を覚えた。コーランは聖書と違ってストーリー性がなく、親父の説教くさい、という評なんかは特に印象的。
読了日:6月24日 著者:阿刀田高
http://bookmeter.com/cmt/57227482
■文系学部解体 (角川新書)
図書館で流し読み。90年代頃から、市場原理の侵入によってだんだんと大学という場が変容してきていて、それがひとつの臨界点に達したのが本書出版のきっかけになった「文系学部解体」なんだろうなというような感じを受けた。大学という場のポジティブな意味でテキトーだった部分がマトモになっていくことによって、なんとなく「大事なもの」が失われてしまった、というような感覚が根底にある気がするのだけど、大学の未来、どうなるんですかね。
読了日:6月24日 著者:室井尚
http://bookmeter.com/cmt/57227977

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7.5 ガガガ文庫 やはり俺の青春ラブコメはまちがっている
- 作者: 渡航
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2013/08/30
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。7.5 (ガガガ文庫)
結婚云々の話と柔道部のいざこざの解決を任されるお話の二つがメイン。人間関係に劇的な変化がないが故の「.5」という位置付けなのだろうと思うのだけれど、そうなると問題を解決に導いてしまう八幡くんがいかにもヒーロー然としてくるなーという感触。
読了日:6月25日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/57240419
■書物の運命
本に関するエッセイ・書評をまとめたもの。書評はイラク戦争当時の空気を色濃く感じさせるもので、著者自身もいうように時評としても機能している。イスラーム関連の本が多く取り上げられているので、(今読むと出版からちょっと時間が経ってるけど)ブックガイドとしてもよい感じ。サイードと日本におけるサイード受容を批判するくだりが特に印象的で、「オリエンタリスト」不在の日本でオリエンタリスト批判が主流を占める状況、としてサイードの流行は見ることもできるのだなーと。
読了日:6月26日 著者:池内恵
http://bookmeter.com/cmt/57276870

カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論 (知のトレッキング叢書)
- 作者: 想田和弘
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2015/07/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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■カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論 (知のトレッキング叢書)
渋谷・映画美学校で行われた講義の記録。想田の「観察映画」という手法、被写体に向かう際のスタンス、そして映画を作って生計を立てていくための戦略などが簡明に語られている。黒か白かではなく、その中間の灰色の濃淡を切り取るものと自身の映画を語っているけど、想田の映画に限らずあらゆる芸術ってそういうところにこそその意味があるんじゃないかなと感じたり。自身の映画の意図を尋ねられて迷いなく回答できるあたりは流石だなーとなった。
読了日:6月27日 著者:想田和弘
http://bookmeter.com/cmt/57300082
明治20年代前後に制度化されていった「文学」的なるものによって、近代の徴、すなわち「内面」や「風景」といったものもまた立ち現れてきたことを論じる。「内面」や「風景」は、それまで存在しなかったにもかかわらず、「発見」されるやいなや当然のようにそこにあるものとみなされるようになる。そうした制度の立ち上げの中核をなすのが「言文一致」という新たな文の創出である、という見立て。デリダ、フーコー、ソンタグなどに依拠しつつそれを日本の文学に違和感なく当てはめ議論を展開していく手際に惚れ惚れする。
読了日:6月27日 著者:柄谷行人
http://bookmeter.com/cmt/57303795
■興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後 (講談社学術文庫)
ユーラシア大陸を席巻したモンゴル帝国の興亡と、今日に至るまでのその長い影響力を叙述する。アンチ西洋中心史観の色が濃く、ヨーロッパの「海の帝国」の視座ではなく、「陸の帝国」から世界史を眺めるというのが大変新鮮な感じ。空間的に広大な範囲に勢力をもったモンゴル帝国は、時間的にみてもその影響力は甚大であったのだなーと。中国からロシア、中東、ヨーロッパ、そしてアフガニスタンにいたるまで、モンゴル帝国の影は伸びているのだという認識を得て、なんとなく自分のなかの世界史像がアップデートされたような感覚。
印象に残ったのが、チンギスなどに率いられたモンゴル帝国軍の強みは、白兵戦の強さではなく、調査と調略によって裏付けられており、いわば戦わずして勝つことによってユーラシアを征服していったのだということ。またヨーロッパのモンゴル蔑視から、その侵略の残虐性がことさらに強調されがちである、という点もなるほどなーと。
読了日:6月28日 著者:杉山正明
http://bookmeter.com/cmt/57320018
■ビアンカ・オーバースタディ (角川文庫)
生物学実験室で日々生殖の実験にいそしむビアンカ北町。彼女が狂気の実験に手を染め、そして唐突に未来人まであらわれて、絶望の未来を変えるための戦いが始まる。淡々とした語り口で訳のわからない事態が語られ続けるシュールギャグ的なトーンなんだけれども、最後の最後で唐突に文明批判が始まりなんとなくオチがついたような気になるのでそれも笑える。一種のライトノベル批評みたいなものとして読めるかもとも思ったのだけれども、そういう文脈抜きにして楽しく読んだ。
「太田が悪い」のあとがきは文庫版では割愛。まあネットで全文読めるしね。
読了日:6月28日 著者:筒井康隆
http://bookmeter.com/cmt/57321774
■レイシズムを解剖する: 在日コリアンへの偏見とインターネット
「人種的に劣っている」というレッテルを貼る古典的レイシズムと、「平等なはずなのに特権を得ているやつらがいる」という発想の現代的レイシズムという二つの視角から、インターネットにおけるコリアンに対するレイシズムを分析する。Twitterの言説の量的な分析と、主に大学生を対象とした質問紙調査からレイシズムの実態を明らかにしている。他の外国人と比べると、量的にみてもコリアンへの差別的な発言は際立って多い、というのはなんとなく感じていたけれど、それが数字で裏付けられて非常に納得。
読了日:6月29日 著者:高史明
http://bookmeter.com/cmt/57341324
流し読み。この手の対談本は強く時代の空気を写し取っているという気がするのだけれど、本書もまた、911以後、イラク戦争のただなかの空気を強く感じた。姜尚中も宮台もいわゆる「朝生知識人」みたいなメディア露出の多かった人間だと思うのだけれど、意外なほど話が噛み合ってるのはやっぱり踏んできた場数のなせる技なのか。
読了日:6月29日 著者:姜尚中,宮台真司
http://bookmeter.com/cmt/57342231
昭和前期から日中戦争開始、さらに日米開戦を経て空襲にさらされるようになる時期、そして戦後直後にかけて、人々の食生活はどのように変化していったのか。婦人雑誌の記事を多数引用して、戦争中の食生活を探る。戦争によってこうまで食生活が貧しくなるのか、ということに単純に驚く。飽食の時代に生きる人間からしたらとてもじゃないが耐えられないであろうほどに食材の種類も量も減っていき、芋類の葉や茎はもちろん野草すらも食卓に並んでいく。戦争という事態はここまで日常を変えうるのか、ということに改めて衝撃を受けた。
戦争の影響で食糧がなくなるのではない。食糧がなくなるのが戦争なのだ。その意味で、先の戦争下における人々の暮らしは「銃後」でも「戦時」でもなく「戦」そのものだった。だから「戦時下」ではなく「戦下」のレシピなのである。*1
読了日:6月30日 著者:斎藤美奈子
http://bookmeter.com/cmt/57353787
近況
6月は映画館に足を運べてよかったです。『海よりもまだ深く』が非常によかった。
地獄への道を善意で舗装――『ズートピア』感想 - 宇宙、日本、練馬
寂れた場所とほのかな救い――『海よりもまだ深く』感想 - 宇宙、日本、練馬
『中二病でも恋がしたい!』をみて、いまは『おおきく振りかぶって』をみています。Amazonプライムビデオの奴隷。
恋とフィクション――『中二病でも恋がしたい!』感想 - 宇宙、日本、練馬
最高の夏にしていきましょう。
来月のはこちら。
*1:p.164