7月は元気でした。8月もやっていきましょう。
先月のはこちら。
印象に残った本
とりわけ印象に残っているのは、山田風太郎『昭和前期の青春』。
それ以来私は、めったに故郷に帰ったことはない。時はすべてのいやな記憶を消し去り、過ぎ去った日に夢の鍍金をかける。*1
「つまり私が帰らないのはその変化を見たくないからである。追憶を幻滅させたくないからである……。」
エモーションがね、こう、刺激されるわけですよ。魯迅「故郷」をちょっと想起したりも。
ほか、ギデンズの近代論を読んだり。
読んだ本のまとめ
2016年7月の読書メーター
読んだ本の数:23冊
読んだページ数:7133ページ
ナイス数:145ナイス
■他諺の空似 - ことわざ人類学 (中公文庫)
様々な国の似通ったことわざを紹介していくんだけれども、そのことわざを使って行うのは大概ブッシュ政権批判ないし小泉政権批判で、時評という雰囲気をより強く感じる。イラク戦争当時の空気を感じることができるのはおもしろいといえばおもしろいけれども、それって「ことわざ人類学」としてのこの本の寿命を縮める結果になってるのでは?とも。
読了日:7月1日 著者:米原万里
http://bookmeter.com/cmt/57375221
■歴史をみる眼 (NHKブックス 15)
半世紀前のラジオ講座を元にしていて、さすがにマルクス主義的歴史学へのスタンスなどは時代を感じるし、歴史的事実の認識についての議論や自然科学の科学的な客観性なんかの話になってくると時代遅れになっているという感じもする。とりわけ自然科学における普遍的な法則と事実との関係性が歴史学におけるそれとは異なる、という議論なんかは今だったら著者の引いた例から全く逆の結論が導き出されるのでは。そうはいっても、歴史学が問題としてぶつかっていることって今も昔もそう大きくは変わらないのかなーとも思ったりしたのだけれど。
読了日:7月1日 著者:堀米庸三
http://bookmeter.com/cmt/57381985
井上ひさしが様々な日本語にまつわる疑問に答える。この人の引き出しは無限大なのではないかと錯覚するほど様々な文献から日本語の使用にまつわるエピソードを引いてくるので読んでいてまったく退屈しないのですごい。寝る前にちまちま読んでいて、多分三ヶ月くらいかけて最後までページを繰った。
読了日:7月2日 著者:井上ひさし
http://bookmeter.com/cmt/57410344
アメリカの越え方―和子・俊輔・良行の抵抗と越境 (現代社会学ライブラリー5)
- 作者: 吉見俊哉
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2012/09/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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■アメリカの越え方―和子・俊輔・良行の抵抗と越境 (現代社会学ライブラリー5)
鶴見和子、俊輔、良行という三人の知識人がそれぞれアメリカにたいしてどのような態度を取ってきたのかを跡付け、戦後的なるものを決定づけてきたアメリカの越え方を示唆する。あとがきで述べられているように、『親米と反米』と問題意識が通底しているが、アメリカとの関係との在り方を戦後を代表する批判的知識人に着目して眺めることによって、「越え方」が見出させるのではないか、というのが本書における著者の視角であるように思われる。三人の知識人の思想的変遷の見取り図を得られるという意味で、入門書的な読み方もできるんじゃないか。
読了日:7月3日 著者:吉見俊哉
http://bookmeter.com/cmt/57427747
■それでもドキュメンタリーは嘘をつく (角川文庫)
自身の経験を参照軸にして、ドキュメンタリーとはいかなるものなのか論じる。ドキュメンタリーとは事実を写すのではなく、被写体と撮影者の関係者、ひいては撮影者の世界認識を写すものであり、その意味で「嘘をつく」のであり、フィクションとの境界はきわめて曖昧である、というのが森の立場だろうか。オウムや屠場、放送禁止歌などいわゆるタブーに積極的に切り込んでいきながらも、「テレビディレクター」であると自己規定するそのねじれが印象に残った。
読了日:7月8日 著者:森達也
http://bookmeter.com/cmt/57536690
■打ちのめされるようなすごい本
書評と時評とが集成されている。書評は面白く読めるのだが、ブッシュ批判、小泉批判を一本調子で繰り返す時評は(米原の立場自体には共感するにしても)はっきりいって退屈で、読んでいて辟易した。それと、癌に侵されてそれに関する書物を紐解き書評している時期は、病の前では米原ほどの知性をもった人物でさえ冷静な批判的思考力を失うのだということがはっきり刻印されているという印象を受けた。
読了日:7月8日 著者:米原万里
http://bookmeter.com/cmt/57537770
■失われたものを数えて---書物愛憎 (河出ブックス)
大学の大衆化とパラレルに生じていった「教養主義の没落」。かつて大学のなかで栄華を誇った文学にかかわる教養主義的なエートスを、西洋への憧れやら大学という「内輪の世界」先生との関係性やらを取り上げて摘出する。そういう意味ではタイトルの印象通り昔はよかった的懐古趣味の香りも漂うのだけれど(何かが「失われた」と思うことほどロマンティックなことはない、と序章で著者も述べている)、なんというかいやらしい感じはしない語り口という印象で楽しく読んだ。
読了日:7月9日 著者:高田里惠子
http://bookmeter.com/cmt/57543750
中国において1300年あまりにわたって続いた官吏登用のための試験、科挙の実態を、受験生のごとく下から上へと階段を上っていくように論述する。清朝時代の科挙の実情をあたかも見てきたかのように語る筆致に引き込まれ、科挙1300年のあいだに蓄積されたエピソードが小気味よく披瀝され読んでいて単調さを感じさせない。半世紀前に書かれたのにもかかわらず全く古さを感じさせない、強烈な本だなーと再確認した。
読了日:7月11日 著者:宮崎市定
http://bookmeter.com/cmt/57599434
■「A」―マスコミが報道しなかったオウムの素顔 (角川文庫)
地下鉄サリン事件後のオウム真理教を取材したドキュメンタリーの撮影の様子を時系列的に追っていく。オウム真理教に密着取材するなかでわかってくるのはオウムの人々の心理よりは、むしろ未曽有の事件のなかでオウムに剥き出しの加害性を発揮する「普通の人々」の恐ろしさ、という気がする。オウム真理教はその「わからなさ」がひたすら印象に残る一方で、普通の人々がこうまで攻撃的になれる、そういう状況というのがありうるのだし、そこに現代日本のメンタリティが象徴的に表れているという気がした。
読了日:7月12日 著者:森達也
http://bookmeter.com/cmt/57618790
- 作者: エレツエイデン,ジャン=バティーストミシェル,高安美佐子,阪本芳久
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2016/02/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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■カルチャロミクス;文化をビッグデータで計測する
無数の本をデジタル化したグーグルブックスのデータベースから浮かび上がる、単語の栄枯盛衰。そのビッグデータを活用して、名声の推移や検閲の影響力などの文化現象を量的に考察する。本文中にもあるように単に単語の出現頻度を調べるだけでもべらぼうに楽しくて(実際に調べるまでいかなくても、巻末の付録にある特定の単語の出現頻度の推移を眺めているだけで楽しい)、でも楽しいだけでは知的な暇つぶしという感じだけれど、それを特定の現象の解明に繋げることができる、と示したことに著者たちの卓見はあるという気がする。
読了日:7月13日 著者:エレツエイデン,ジャン=バティーストミシェル
http://bookmeter.com/cmt/57637018
自由民権運動を、近世の終わりから近代への移行期における「ポスト身分制社会」構築を目指した運動と捉え、その始まりから終焉までを叙述する。一読した印象では、自由民権運動はあくまでも政府の権力中枢の外に置かれた士族層がイニシアチブを奪取するための抗争という側面をクローズアップしており、その意味では理想化せずに運動そのものを(著者自身の言い方を借りれば)「冷淡」に捉えようとしているのではないかなーという感じ。自由民権運動の時代は戊辰戦争のあとという意味において「戦後」である、という見立てはなるほどなと。
読了日:7月13日 著者:松沢裕作
http://bookmeter.com/cmt/57641533
- 作者: アンソニー・ギデンズ,松尾精文、小幡正敏
- 出版社/メーカー: 而立書房
- 発売日: 1993/12/25
- メディア: 単行本
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■近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─
現代をポストモダニティではなくモダニティが徹底化している状況と捉える著者は、そのダイナミズムは「時間と空間の分離」、「社会システムの脱埋め込み」、「社会関係の再帰的秩序化と再秩序化」の三点であるとし、それぞれに考察を加え、モダニティの状況を整理していく。モダニティの特質として著者がとりわけ重要視しているように思われたのは、顔の見えないシステムへの信頼こそがモダニティの基盤にある、という点。再帰性の議論の確認の為に本書を手に取ったのだけれど、むしろ信頼と社会システムをめぐる議論の方が印象に残った。
異様に読み進めにくくてしんどかった。おんなじような話題が何度も何度も繰り替えされるのだがその意図がわからずただ冗長にかんじるだけだったり。1冊読むなら『モダニティと自己アイデンティティ』のほうがよさげ。
読了日:7月14日 著者:アンソニー・ギデンズ
http://bookmeter.com/cmt/57656417
モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会
- 作者: アンソニー・ギデンズ,秋吉美都,安藤太郎,筒井淳也
- 出版社/メーカー: ハーベスト社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
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■モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会
現代を(ポスト・モダニティではなく)モダニティが徹底化した状況と捉え、そのなかで自己がいかに変容を迫られてきたのかを論じる。モダニティにおける様々な変化は、グローバルな規模で進行すると同時に、個々人の生き方をも強烈に規定するようになる。そうしたなかで、自己は再帰的プロジェクトという特質をもつようになり、様々なジレンマにおかれた状況のなかで自己を方向付けていくライフ・ポリティクスが大きな課題として浮上している、というのが大まかな見取り図だろうか。
読了日:7月17日 著者:アンソニー・ギデンズ
http://bookmeter.com/cmt/57713103
■職業欄はエスパー (角川文庫)
いわゆる超能力者としてメディアをにぎわせた三人を取材したドキュメンタリーの企画段階から取材、放映までを記録したノンフィクション。超能力を「信じる」のか「信じない」のかという二者択一を拒否しつつも、そしてどうしてもその軸で考えざるをえないジレンマが全体の基底として流れていて、そのジレンマと和解するまでのお話という感じ。超能力者の日常も勿論おもしろいのだが、それ以上に「普通の人々」の超能力者に対する目線に語りの力点が置かれているという気がして、そこらへんはオウムを取材した『A』と通底しているのかなという印象。
読了日:7月18日 著者:森達也
http://bookmeter.com/cmt/57745635
■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。8 (ガガガ文庫)
周囲の悪ノリで生徒会長に立候補させられてしまった1年生を、体面を損ねず負けさせるため、奉仕部はそれぞれ奮闘する。最終的には八幡くんが奉仕部という場所を守る、という目的のために策を巡らすのが緩やかな、しかし確かな変化の徴という感じがするが、それを護ったかと思いきやなにか大事なものが消え去っていったのだ、ということも明確に刻印されているラストの意地悪さ。変わらずにはいられない時間としての「青春」、というのはこの巻で一層強調されたというきがする。
読了日:7月18日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/57763409
■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。9 (ガガガ文庫)
失われてしまった場所は取り戻すことができるのか。今まで心の内に抱えてきた「本物が欲しい」という思いを二人に吐露するこの巻は、今までだんだんと失われていったものが快復される(ように感じられる)お話で、それはカタルシスを感じなくもないのだけれど、読後感はいまいちで、それはなんというかどうしようもなく手からすり抜けてしまう何事かが示されることに僕はこの作品の魅力を感じていたからなんだろうなということを再確認。八幡くんの「本物」に執着する潔癖さは痛々しいんだけれどその痛さこそが核心なんだろう、とも。
読了日:7月19日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/57784600
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10 (ガガガ文庫)
- 作者: 渡航,ぽんかん(8)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/11/18
- メディア: 文庫
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■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。10 (ガガガ文庫)
頑なに自身の進路選択を明かさない葉山。それを知りたいという切なる願いが奉仕部を動かす。進路をめぐる問題が前景化してきたことによって、変わらずにはいられない関係性、という雰囲気も強く漂ってきたような感じを受けた。これから雪ノ下、葉山の人生を決定付けるような強い力について語らざるをえないという気がするのだけれど、八幡くんはそれにどうアプローチしていくのかなーというのが気になる。
読了日:7月20日 著者:渡航
http://bookmeter.com/cmt/57790997
■本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)
沖縄で古書店を営む著者によるエッセイ。古本屋を始めたきっかけから書き始められていて、古本屋が普段どんなことを考えて商売をしているのか、どんな感じで利益を得ているのか、どういう基準で買い取り金額を決めているのか…などなど、古本屋の生態系がなんとなくわかったような気になった。こういう本読むと、古本屋、いいよね…みたいな気持ちが強まる。
読了日:7月20日 著者:宇田智子
http://bookmeter.com/cmt/57796556
■柄谷行人論: 〈他者〉のゆくえ (筑摩選書 111)
柄谷行人の思想の変遷と連続性を、主に日本戦後思想史のパースペクティブのなかに位置付けながら辿る。編年的に主要著作を追っていきつつ、当時の柄谷が意識していたであろう対象を補助線として引用することで、時代時代の柄谷のポジショニングが確認でき、入門というかイントロダクションとしても読めるような本だなーという印象。柄谷が一貫して問題としてきた交通・交換の問題系について、連続性、あるいは変化の見取り図を得られたような気になった。
読了日:7月21日 著者:小林敏明
http://bookmeter.com/cmt/57811568
■ぎりぎり合格への論文マニュアル (平凡社新書)
「ぎりぎり合格」とあるけれど、論文の書き方から形式にいたるまで網羅的にコミカルにしかし厳しい語調で解説していて、大学教員にとっての「ぎりぎり合格」のハードルはめちゃくちゃ高いのでは?となった。「このぐらいのことは最低限できてほしい」みたいな教育する立場の願いと愛が込められているという感じ。それはそうとこの手の本の中では目的が明確なのとユーモアに溢れた文章のおかげでとても楽しく読めた。
読了日:7月21日 著者:山内志朗
http://bookmeter.com/cmt/57811926
加藤周一のテクストに沿って、戦後知識人としての加藤のありようの変遷を丁寧に辿る。留学、1968年の経験によって、自身の思想を別の角度から捉え直さざるをえなくなった、という「またぎ越し」を一つのキータームとしてテクストを丁寧に読み解いていく労作。450頁の厚みのなかに、加藤の仕事の意味と位置づけが凝縮された優れた加藤周一論かつ入門だと感じた。
読了日:7月23日 著者:成田龍一
http://bookmeter.com/cmt/57857029
■昭和前期の青春 (ちくま文庫)
自身の青春時代を回顧したエッセイと、太平洋戦争にまつわる文章とを所収。戦争に対する言及が核をなしてはいるのだけれど、強く印象に残ったのは故郷である但馬についての思いを吐露したテクスト。記憶のなかで美化されているが故に、その美しい故郷を壊さないためにもはや帰郷しないだろう、という心情が胸を打つ。山田もまた故郷を捨て東京に出た若者の一人だったんだなあと勝手に感情移入した。
読了日:7月24日 著者:山田風太郎
http://bookmeter.com/cmt/57884145
■世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい (ちくま文庫)
主に2001年から2004年にかけての時評的なエッセイを所収。自身のドキュメンタリーを制作した際のエピソードや後日談、そしてその受容をめぐってのあれこれから、日本社会に広まる不寛容な雰囲気に抗っていかなければならない、という姿勢を確固として示しているように感じた。森の人間観というか祈りみたいなものが凝縮されているという気がする表題が非常に僕は好きで、長い時間心に残るだろうなと思う。
読了日:7月31日 著者:森達也
http://bookmeter.com/cmt/58016222
近況
みた映画はこんな感じ。
正義の倒錯――『日本で一番悪い奴ら』感想 - 宇宙、日本、練馬
美しく燃える王の墓――『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』感想 - 宇宙、日本、練馬
From 1954 to 1984.――『ゴジラ』感想 - 宇宙、日本、練馬
究極の虚構を撃ち抜く弾丸――『シン・ゴジラ』感想 - 宇宙、日本、練馬
とにかく『シン・ゴジラ』ですよ。2016年には『シン・ゴジラ』がある、それだけで生きていける。
『シン・ゴジラ』のあれで吉見俊哉『夢の原子力』再読の機運が高まっています。
それとアニメ版『おおきく振りかぶって』をみていました。季節とマッチしていてよい感じ。
無数の声の集積――アニメ『おおきく振りかぶって』感想 - 宇宙、日本、練馬
ゲームのなかの「揺らぎ」――『おおきく振りかぶって 〜夏の大会編〜』感想 - 宇宙、日本、練馬
いまは『かみちゅ!』を視聴中。尾道に行く前に最後までみたい所存。そんな感じです、はい。
来月のはこちら。
*1:p.20