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風景と叙情――『雲のむこう、約束の場所』感想

劇場アニメーション「雲のむこう、約束の場所」 [Blu-ray]

 『雲のむこう、約束の場所』をHuluで視聴。以前みた気になってたんですが普通に初見だったっぽいですね。記憶があやしい。『君の名は。』公開前に『星を追う子ども』以外はみれました。とりあえず以下で感想。

  北の大地に天高くそびえる一つの塔。空を切り裂くそれを、海峡の向こうから眺める少年二人と少女が一人。不幸なめぐりあわせが三人を引き裂いても、約束の場所がある限り、彼らはきっとたどり着けるはず。

 『ほしのこえ』で注目を集めた新海誠の初の長編劇場アニメは、引き裂かれた列島を舞台に、SF的なガジェットを駆使して、離れ離れになってしまった少年少女のドラマを再び描く。『ほしのこえ』が、たったふたりぼっちのセカイを映し出し続けたのに対して、『雲のむこう、約束の場所』は、少年少女の周辺の人物までカメラにおさめ、それゆえに『ほしのこえ』のごとき問答無用の叙情感はない、という気がする。

 青森県をモデルにした風景美術は冴えにさえ、何気ない風景のひとつひとつが得も言われぬ感情を喚起する。とりわけ思いでの場所である廃駅周辺の空間の放つ、行ったことなどあるはずもないのにどこか懐かしさを憶えるような、幻想的でノスタルジックな雰囲気がリアルな風景に根付いている、そういう雰囲気は白眉。背景美術は『ほしのこえ』でも圧倒的に素晴らしかったわけだけど、そこから一気に飛翔し、その後の『秒速5センチメートル』へと大きく接近している、という感じがする。

 だが、その圧倒的に美麗な風景によって喚起されるエモーションは、SF的なガジェットと食い合わせがあまりよくないのではないか、という気もして、指令室でなにやら実験を行う描写なんかはテンプレートの域を出ない、既視感を覚えるような画作りになっている印象で、少年少女を取り巻く風景の息をのむような美しさとのギャップが、どうにも違和感を覚えました。SF的なガジェットを取り込むことで、『ほしのこえ』は宇宙を舞台にしたわけだけど、宇宙の美しさはリアルな風景の美しさと不調和を起こしている、ということはなかったと思うのだけれど、『雲のむこう、約束の場所』はどうにもそういう印象がぬぐえない。

 加えて、様々なSF的な設定が次第に明らかになっていくドラマの展開が、なんとなくもったりしたものに感じられてしまって、これはもう僕の今の気分とマッチしてなかったというのが大きいのかもしれないのだけれど、なんというか入ってこない、という感じが最後までした。これはぼくが圧倒的に悪いという気がする。

 そういう点では、次作の『秒速5センチメートル』でSF要素を手放したのは、よい選択だったと思うのだけれど(これはぼくが新海作品のなかでとりわけ『秒速5センチメートル』が好きだからなのかもしれないが)、『君の名は。』も、予告の印象だと「夢」という『雲のむこう、約束の場所』と共通するモチーフを導入しているような感じがするので、そこらへんを改めてどう料理するのかなーというのは気になるところです。

 


「君の名は。」予告

 

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【作品情報】

‣2004年

‣監督:新海誠

‣脚本:新海誠

‣出演