宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2016年10月に読んだ本と近況

 10月は体調崩しそうな兆しがあったのですが、なんとか乗り切りました。えらい。

 先月のはこちら。

 2016年9月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

 

  一冊選ぶとしたら、エルンスト・H・ゴンブリッチ『若い読者のための世界史』。ゴンブリッチがこれ書いたの25才のときなんですってよ。ぶったまげますよ。


 ほか、ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』、村上春樹『1Q84』、『アンダーグラウンド』、豊島ミホやさぐれるには、まだ早い!』などがとりわけ心に残っています。

 

 

 

読んだ本のまとめ

2016年10月の読書メーター
読んだ本の数:33冊
読んだページ数:10901ページ
ナイス数:224ナイス

 

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)

 

 ■1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉後編 (新潮文庫)

 女殺し屋青豆の物語と少女の小説を改作した天吾の物語はその始まりから絡み合っていたことが明示され、そして1Q84年においてもカルト教団の陰謀を巡ってふたたび交わろうとしていた。カルト教団による児童への性的虐待というモチーフははっきりいってショッキングで、それをはじめとして虐げられた女たちのイメージが印象に残る。女を憎む男たちと、それに対抗する者たちとの接触はどういう結果を導くのか、それが非常に気になる。
読了日:10月1日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59405608

 

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

 

 ■アンダーグラウンド (講談社文庫)

 地下鉄サリン事件の被害者を中心とする関係者62人に対するインタビュー。被害者については、大体においてはその生い立ちから話が始まり、当日の朝の行動が克明に語られるというような構成になっていて、顔の見えない無数の被害者の一人である以上に、一人の人間の顔が浮かび上がってくるようなインタビューになっていて、それが読んでいて暗澹たる気分を助長する。世界を破壊するという欲望が破壊するのは、現実には世界なんかじゃなくて、一人一人の個別の人生なのだ、ということが強く心に残った。

 寝る前にちまちまと読み進めていたんですが、ようやく最後まで頁を繰り終えました。

読了日:10月2日 著者:村上春樹

http://bookmeter.com/cmt/59417993

 

 ■関東大震災 消防・医療・ボランティアから検証する (講談社学術文庫)

 関東大震災時の消防、医療、そして自警団や救護活動などボランティア的な活動の動きを整理して論ずる。とりわけ印象的だったのが軍隊の果たした役割の大きさ。自衛隊や米軍の様子をみれば災害支援と軍隊はストレートに結びつくはずなのに、何故か自分の中で旧日本軍と災害支援とが結びついていなかったことに気づかされ、自分がいかに先入観をもって旧日本軍を眺めているのかを確認した。人々が都市での火災に関する知識に欠けていたが故に、適切な対応が遅れたり、朝鮮人への暴力につながったりしたというのは、やっぱり無知は恐ろしいなと。
読了日:10月2日 著者:鈴木淳
http://bookmeter.com/cmt/59422425

 

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)

 

 ■1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)

 正体のわからないものたちの「強く長い腕」が二人の主人公に迫る。「さきがけ」の首魁の暗殺に向かう青豆、自身の出生に関わる事実を知るために父親に会いに行く天吾と、それぞれの歩みが物語を進めていくようなセクションだったなという感じ。電車がポイントで分岐するように現実と分かたれたこの1Q84年もまた、徹底的に現実であるのだという認識、愛さえあれば何があっても大丈夫なのだという決意、そして運命の相手という道具立てが強く印象に残っている。
読了日:10月4日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59466330

 

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)

 

 ■1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)

 カルト教団のリーダーは「向こう側」へと送られ、それと呼応するように「リトル・ピープル」の存在感は増していき場面によっては実体として現前しているかのごとくテクストのなかに織り込まれている。1Q84年において、運命の邂逅は果たされるのか、果たされるとしたらどのような仕方でなされるのか、その二人の物語がいよいよ前景化してきたなーという感じがする。
読了日:10月5日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59493674

 

民主主義を直感するために (犀の教室)

民主主義を直感するために (犀の教室)

 

 ■民主主義を直感するために (犀の教室)

 2010年から15年にかけての時評的なテクスト、対談などをまとめたもの。様々なテーマが俎上に上るが、存在感を強く感じさせるのは住民投票に関わる問題だろうか。末尾の辺野古の埋め立て反対運動に関わるレポートは現地の様子がはっきり伝わってきて読んでるだけのこちらも現地に行って見てきたかのような気分を味わえた。
読了日:10月6日 著者:國分功一郎
http://bookmeter.com/cmt/59520037

 

 ■自由という牢獄――責任・公共性・資本主義

 自由、責任、公共性について論じた論文3本と、それをまとめて自由を擁護する書き下ろしの論考を所収。ハリウッド映画からピケティまで縦横に引用して繰り広げられるアクロバティックな議論はまさに大澤的だよなーと思ったんだけれども、頭に入ってきたかは非常に微妙。大筋では『生きるための自由論』で論じたように、第三の審級としての他者によってこそ、自由は可能であり擁護されうるのだ、という立場だと思うんだけれど。ラストの大審問官をめぐる議論はとりわけ印象に残っている。
読了日:10月7日 著者:大澤真幸
http://bookmeter.com/cmt/59531257

 

メルロ=ポンティ入門 (ちくま新書)

メルロ=ポンティ入門 (ちくま新書)

 

 ■メルロ=ポンティ入門 (ちくま新書)

 著者の体験した出来事から出発し、ヒーローとは何か、そのヒーローがコミットする出来事、歴史とは何なのか…というふうに問いが積み重なり、そのなかでメルロ=ポンティ倫理学が浮かび上がっていく、というような構成。入門の名を冠しているのにもかかわらず非常に挑戦的な文体と構成で、ゆえにメルロ=ポンティの思想を知りたいという以上の知的好奇心をそそられて大変楽しく読んだ。理解できたのかできてないのか判然としないのだけれど、それでいいような気がするし、またいつかこの本に戻ってくる、そんな予感のする本だった。
読了日:10月8日 著者:船木亨
http://bookmeter.com/cmt/59546007

 

哲学の先生と人生の話をしよう

哲学の先生と人生の話をしよう

 

 ■哲学の先生と人生の話をしよう

 メルマガに連載されていた人生相談をまとめて収録。なんというか家族や配偶者などに関わるパーソナルな問題にもズバズバと、しかし真摯に切り込んでいく姿勢にビビる。とりわけ印象に残っているのが、「相談の仕方がわからない」という質問への回答で、相談とは考えを口に出すことで「観念を物質化する」ことなんだ、っていうのはなるほどなーと。
読了日:10月8日 著者:國分功一郎
http://bookmeter.com/cmt/59548493

 

金田一先生のことば学入門 (中公文庫)
 

 ■金田一先生のことば学入門 (中公文庫)

 ことばにまつわるエッセイ集。もしバベルの塔の崩壊以前のように言葉とものが必然的な連関を持っていたならば、人間の脳はそれを記憶するために容量を使いすぎることになるし、またあらゆる歴史が既知になってしまう、という冒頭の話題なんかは特に印象的で、それ以降もことばについての雑学が披瀝され続けて楽しく読んだ。恥ずかしながら知らなかったのだけど著者は金田一京助の孫で、金田一一族すごいなってなる。
読了日:10月9日 著者:金田一秀穂
http://bookmeter.com/cmt/59569684

 

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈前編〉 (新潮文庫)

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈前編〉 (新潮文庫)

 

 ■1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈前編〉 (新潮文庫)

 この巻から、天吾と青豆に加えて不気味な追跡者牛河の視点が挿入され、追うゲームと逃げるゲームが入り乱れる。リトル・ピープルという「小さなもの」が蠢く世界で、青豆に宿った別の大切な「小さなもの」。運命の二人がいよいよ出会うのかという予感が漂っているがどうなるんだろうか。早く続きが読みたい。
読了日:10月11日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59630953

 

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈後編〉 (新潮文庫)

1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈後編〉 (新潮文庫)

 

 ■1Q84〈BOOK3〉10月‐12月〈後編〉 (新潮文庫)

 「なんでも起こる」1Q84年での冒険を経て、運命の男女は再び出会う。1Q84年という舞台やカルト教団やリトルピープルなどの諸々の道具立ては、二人が出会うのを促したり遮ったりする装置に過ぎなかったのだなと、二人の再会によって閉じられた物語を読み終えた今は思う。二人で何処かへ旅立つという結末は、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』と対照をなしているような感触。
読了日:10月13日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59663243

 

 ■憂鬱と官能を教えた学校 上---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 調律、調性および旋律・和声 (河出文庫 き 3-1)

 20世紀後半の商業音楽の基礎といわれるバークリー・メソッドの講義と分析を通して、現代に至るまでの音楽理論の歩みをたどる。バークリーメソッドのキモは徹底した音楽の(含む情報のうちとりわけその内容である音韻の)記号化にあり、その記号化の論理が調律から始まり調性、旋律・和声の観点から眺められる。正直いって実学にあたる部分って全然わからないのだけど(手元にキーボード置いてコード確認しながらとかしないとピンとこなさそう)、それでもなんとなく商業音楽を規定する論理みたいなものがわかったような気になってくる。
読了日:10月13日 著者:菊地成孔,大谷能生
http://bookmeter.com/cmt/59665289

 

 ■マルドゥック・アノニマス 1 (ハヤカワ文庫JA)

 身体能力を強化されたエンハンサーたちが跋扈する都市で、金色の鼠の最後の巡礼の旅が始まる。冒頭からいきなり容赦ない死が訪れ緊張感が漂いまくり、そして後半に展開される潜入捜査ではイースターズオフィスに敵対する異能集団クインテットの狂気と狂喜に打ちのめされる。そしてラストに予告される、「俺自身を濫用」するという残酷な未来に、この後どれほど残酷な旅を彼と仲間たちは歩まなければならないのかと想像するだけでもうテンションが限界突破してくるのではやく続きを読みたいと思います。
読了日:10月14日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/59687681

 

 ■マルドゥック・アノニマス 2 (ハヤカワ文庫JA)

 エンハンサーを次々と配下に加え、ハンターは天国へと続く階段を残虐に登りつめる。ウフコックがそうあろうと決意したと同じく、ハンターもまたアノニマス=名無しの男であって、1巻のあとがきで著者自身も述べていたようにまさしく「第四の主人公」といえる存在感を発揮するこの男こそ、ウフコックと対照をなすこの物語の最後の敵なのだろうなと思う。極めて強力な共感で結びついたクインテットと、不協和音が漂うイースターズオフィスの面々、そして街に浸透するシザース、三つどもえの抗争がいよいよ開幕するんだろうか。続きを猛烈に読みたい。

読了日:10月15日 著者:冲方丁

http://bookmeter.com/cmt/59705511

 

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

 

 ■謎の独立国家ソマリランド

 ソマリアに分立する独立国家に取材したルポルタージュ。複雑な氏族社会を日本の武将のアナロジーで整理しているなど、知られざるソマリ社会の様子をわかりやすく伝えたいという意志を強烈に感じる。その意志の根源にあるのは著者自身のソマリへの愛なんだろうなというのが記述の端々に滲み出ていて、超速で行動しカートをばりばりと食べる破天荒なソマリ人に奇妙な愛着が湧いてくる。興味深かったのは、モガディショの人間とソマリランドの人々との対比。洗練された都市とそうでない非都市との関係ってのは何処にでもあるのだなーと。
読了日:10月16日 著者:高野秀行
http://bookmeter.com/cmt/59722017

 

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 

 ■反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 アメリカにおける反知性主義を、建国以前のキリスト教のあり方まで遡り、主に宗教復興運動という文脈によせてそれが生じた機制と論理とを論じる。大統領ジャクソンや復興運動の伝道師たちは、いずれも既存の権威の正当性に疑義を投げかける形で民衆の支持を得たという見立ては腑に落ちる。そうした反権威的なスタイルとしての反知性主義のポジティブともいえる機能を指摘している点に本書のおもしろさはあるのかもしれないなーと。

 伝道師ビリー・サンデーに少なくない紙幅が割かれているのですが、彼はといえば、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のイーライ・サンデーのモデルじゃないですか。その文脈でいくと、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は知識階級への反逆者同士の対決を描いた映画、みたいな感じになるんですかね、よくわからんけど。

読了日:10月17日 著者:森本あんり

http://bookmeter.com/cmt/59748432

 

村上春樹は、むずかしい (岩波新書)

村上春樹は、むずかしい (岩波新書)

 

 ■村上春樹は、むずかしい (岩波新書)

 村上春樹の文学世界を、前期、中期、後期と三分割して論じる。前期の主題はデタッチメントであり「個の世界」を描いていたが、『ノルウェイの森』に始まる中期はコミットメントが主題に上り「対の世界」が描かれ、後期には父なるものが前景化してくる、というのが大筋の見立てだろうか。現在の村上まで射程に入れた見取り図を得られた気になった。学生運動や中国との関係など、時代との関わりから作品のモチーフを論じていくので、その作品の同時代を経験していない世代である僕には大変勉強になった感じがする。
読了日:10月18日 著者:加藤典洋
http://bookmeter.com/cmt/59766419

 

 ■興亡の世界史 大日本・満州帝国の遺産 (講談社学術文庫)

 満州帝国と戦後日本、そして戦後韓国との連続性を、岸信介と朴正煕という二人の人物に焦点を当てて論じる。戦中と戦後との連続性を強調するのは所謂「総力戦体制論」的な視座だと思うのだけれど、国家のトップに立った二人に着目し、満州帝国の人脈あるいは発想でもってそれぞれ戦後という時代を築いていったという見立てで戦後を論じてみせるという戦略は、そうした連続性を論じるにあたって確かに有効なのだろうと感じた。

 朴槿恵大統領をめぐるスキャンダルが噴出する直前に読んでたのは結構タイムリーだった気がする。
読了日:10月18日 著者:姜尚中,玄武岩
http://bookmeter.com/cmt/59766770

 

ごみとトイレの近代誌: 絵葉書と新聞広告から読み解く

ごみとトイレの近代誌: 絵葉書と新聞広告から読み解く

 

 ■ごみとトイレの近代誌: 絵葉書と新聞広告から読み解く

 日本におけるごみ焼却施設とトイレの発展の様子を、主に絵葉書と新聞広告から読み解く。絵葉書を史料として用いている点に本書のおもしろさはあるのだろうという気がし、こうした公衆衛生に関わる建築物の記念絵葉書というのがあるのか、ということ自体を本書に教えられた。近代「誌」とあるように、研究書というよりは様々な事例を集めて紹介することに主眼があるのだろうなという感じ。
読了日:10月18日 著者:山崎達雄
http://bookmeter.com/cmt/59767117

 

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

 

 ■若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

 子供を教え導くかのような語り口で、世界史を通史的に叙述する。上巻では先史時代から中世ヨーロッパまでが扱われているのだが、所謂「文明」が生じたとされるエリアにスポットを当てて一つの物語として歴史の歩みを語っているような印象があって、わかりやすいうえにすらすら読んでいける。その成り立ちから確信的な西洋中心主義的な叙述なのだろうけど、それがはっきりいって筋が通っているように感じられるのは、西洋中心主義的な通史がいかに内面化されてるのかってことだよなーと。
読了日:10月19日 著者:エルンスト・H・ゴンブリッチ
http://bookmeter.com/cmt/59790287

 

 ■巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)

 モスクワに突如現れた悪魔とその一味が、人々を混乱に陥れる。上巻収録の第一部はひたすらに悪魔たちが人間をおちょくり続け、それぞれの人々が不条理な運命に叩き落とされ続けて終わる。ピラトゥスとキリストの処刑の挿話が挿入されるがその意味は未だ不確かで、「巨匠」は少し姿を見せただけで未だ物語の全容は掴めない。しかし悪魔のもたらす不条理が奇妙な快感を呼び起こしなぜか引き込まれてぐいぐい読まされてしまったという感じがする。
読了日:10月20日 著者:ブルガーコフ
http://bookmeter.com/cmt/59805766

 

 ■やさぐれるには、まだ早い! (MF文庫ダ・ヴィンチ)

 身辺雑記的なエッセイなのだけれど、最終的に東京に出る若者たちの物語が全景化して僕の魂をぶん殴っていった。

読了日:10月20日 著者:豊島ミホ

http://bookmeter.com/cmt/59809212

 

若い読者のための世界史(下) - 原始から現代まで (中公文庫)

若い読者のための世界史(下) - 原始から現代まで (中公文庫)

 

 ■若い読者のための世界史(下) - 原始から現代まで (中公文庫)

 下巻は中世の終わりから第一次世界大戦までを扱い、そして初版から50年後、20世紀後半に書かれたあとがきが付されている。ヨーロッパを中心に世界の歴史を一つの物語として語る試みは成功を収めていてそれだけでも本書には大いに価値があると思うのだが、訳者も解説で書いているように「50年後のあとがき」によってその価値は不朽のものになっているという気がする。想像もつかないような残酷な出来事が起きることを、かつての著者は知らない。しかしその経験を経てなお、未来がよくなることを信ずるという。そうでなくてはならないと、思う。

読了日:10月23日 著者:エルンスト・H・ゴンブリッチ

http://bookmeter.com/cmt/59861839

 

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

 

 ■紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

 世に溢れる「紋切型」のフレーズを取り上げてそれらが成形する思考の枠組みを摘出していく。全米が泣いた、会うといい人だよ、誤解を恐れずにいえば等など、身の回りに存在するあまりにありふれているがゆえに気にも留めない言葉たちが、このテクストを通して眺めると居心地の悪いものに感じられるようになってしまうような感覚がある。東大話法と成城大学の話がとりわけ印象に残っている。
読了日:10月24日 著者:武田砂鉄
http://bookmeter.com/cmt/59893224

 

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

 

 ■やがて哀しき外国語 (講談社文庫)

 90年代にプリンストン大学に招かれていた時に書かれたエッセイ。アメリカ社会の様子と、それとの比較によって浮き彫りになる日本社会の様子との対比みたいなものが全体の基調にあるという気がするのだが、やはり自身の小説について、あるいは言葉について語っているテクストが最もいきいきとしているという感じがする。話題の転換が巧みでいつのまにか全然違う話になってたりするのにすらすら読ませるのがすごいなーと。
読了日:10月24日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59896912

 

 ■巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)

 第2部に入ってようやくマルガリータが登場し、悪魔の誘いによって彼女の冒険が始まる。モスクワの人々を徹底的な混乱に陥れた悪魔たちは不思議なほど巨匠とマルガリータにはやさしくて、彼らとピラトゥスに救いが訪れ、一方未だ不安の只中にあるモスクワの人々を映して物語は幕を閉じる。現実と非現実とが入り混じったカオスを抜けた先に驚くほどの静寂があった、という感じがあってその心地よい読後感のなかにいる。

読了日:10月25日 著者:ブルガーコフ

http://bookmeter.com/cmt/59915101

 

子どもたちに語るヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)

子どもたちに語るヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)

 

 ■子どもたちに語るヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)

 古代から現代までのヨーロッパを通史的に見通す「子どもたちに語るヨーロッパ史」と、中世という時代についてインタビュー形式で語る「子どもたちに語る中世」の2部構成。前者においては、ルゴフがいかにEUに、あるいは統一ヨーロッパという理想にコミットしていたのかが強く伝わってきて、ヨーロッパ人というアイデンティティを立ち上げようという明確な意図を感じる。それがルゴフによる通史の強度、あるいは普遍性を奪い去っているのではという気もするのだけど。

 まさにいま揺らぐEUを目にしたならば、ルゴフは何を語ったのだろうかと思いを馳せずにはいられない。学部2年のときに読書会で読んだことが思い出深い。
読了日:10月26日 著者:ジャックル・ゴフ
http://bookmeter.com/cmt/59937683

 

 

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

 

 ■マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)

 プロレタリアとしてはね。この岩波文庫版の翻訳の呼吸というか醸し出す雰囲気が、まさに共産党宣言〜って感じするんですよね。なんかわかんないんだけど。
読了日:10月27日 著者:マルクス,エンゲルス
http://bookmeter.com/cmt/59958304

 

暴力の人類史 上

暴力の人類史 上

 

 ■暴力の人類史 上

 長い歴史のなかで、現在人類の暴力は減少傾向にあるのだということを様々な統計データや先行する研究の成果を用いて論証していく。上巻は暴力が減少していく5つの歴史的なプロセスの説明に費やされ、確かに暴力は減少しているのだということを殺人や戦争、大量虐殺など暴力にまつわる事象を取り上げて証明していく。物理的な分厚さに見合うだけの圧倒的な情報量にもかかわらず、記述は淀みなく流れていって気持ちよく読み進めていけた。過去の暴力のおぞましさにはたじろぐばかりだけれども。
読了日:10月28日 著者:スティーブン・ピンカー
http://bookmeter.com/cmt/59978308

 

世界の辺境とハードボイルド室町時代

世界の辺境とハードボイルド室町時代

 

 ■世界の辺境とハードボイルド室町時代

 世界の辺境を取材してきたノンフィクション作家と日本中世史研究者による対談。「おわりに」で「超時空比較文明論」とあるように、現代日本から空間的にあるいは時間的に隔絶した社会とか同じ土俵に乗ることによって、辺境あるいは中世社会の人類史的な普遍性みたいなものが浮き彫りになっているのかも。それと同時に、現代日本があくまで特殊な社会の一形態であるということも。ノンフィクション作家と歴史学者、それぞれが自身のテクストをどう位置付けているのかみたいな話がとりわけおもしろかった。
読了日:10月29日 著者:高野秀行,清水克行
http://bookmeter.com/cmt/60002446

 

学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

 

 ■学びとは何か――〈探究人〉になるために (岩波新書)

 何かを学ぶとはどういうことなのか、そして学びの達人であろうそれぞれの分野でいわゆる一流の人間は普通の人とどのような点で異なるのかを認知科学の観点から論ずる。結論としては、知識を単に覚えることではなく、自身の知識のシステムを整備しそれを絶えず更新していくこと、というのが学びという営為に求められる姿勢なのだ、という感じ。個別のトピックでは記憶力というのは四つのカテゴリーに整理できるということ、一流の人間は無駄な情報を捨て有用な情報を拾いあげることに長けているという点で素人と峻別できるなどが印象に残った。
読了日:10月30日 著者:今井むつみ
http://bookmeter.com/cmt/60012967

 

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

 

 ■江戸しぐさの終焉 (星海社新書)

 江戸しぐさ批判本『江戸しぐさの正体』の続編。前著出版をきっかけに江戸しぐさをめぐる言説の風向きが大きく変わったことはSNSやらブログやらの雰囲気で感じていたことだけれど、本書にまとめられているその後の展開をみると、いよいよ江戸しぐさは厳しい状況なのねというのがはっきりわかる。しかしその吹けば飛ぶような江戸しぐさが学校教育の現場にすら侵入していたという事実はやはり暗澹たる気分にさせられるというか、カルト的なるものと私たちとは意外なほど近くにあって、それに気付けないものなのだなーと。
読了日:10月30日 著者:原田実
http://bookmeter.com/cmt/60013834


読書メーター
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近況

 10月は映画館に3度しか足を運べず。『シン・ゴジラ』3回目と以下3作をみました。

半世紀前の熱狂――『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』感想 - 宇宙、日本、練馬

2016年の崩れ落ちた兵士――『SCOOP!』感想 - 宇宙、日本、練馬

『インフェルノ』感想、あるいはフィレンツェの帆場暎一 - 宇宙、日本、練馬

 

 ほかにはドラマ版『アオイホノオ』をみたり、『SAO』をだらだら流しみしたり。そのほか、ようやく『ペルソナ5』を本腰入れてプレイしはじめました。今月中にエンディングみれるとよいな。

  それといつのまにやらこのブログに400個も記事を書いていたようです。これからも適当にやっていきましょう。

 

来月のはこちら。

amberfeb.hatenablog.com