ハリウッド版『攻殻機動隊』こと『ゴースト・イン・ザ・シェル』を2D字幕版でみました。いやー、なんというかこれまでの作品の蓄積をぐぐっとぶっこんだような作品で、ファンとしては大変楽しい時間を過ごしました。『攻殻機動隊』関係にまったく触れたことのない人が入り口としてこれみるとどういう感想なんだろうな、というのはちょっと気になりますが、まあそれは僕にはわかりようがないですからね。というわけで以下感想。
処置室に運び込まれる女性。身体の損傷が激しく、もはや助かる見込みはないように思われた。しかし、テクノロジーによって彼女は辛くも命を長らえる。その脳を、機械の身体――義体へと移し替えることによって。サイボーグとなった彼女は、公安9課へと配属され、「少佐」として事件を追う。そのなかであやふやになっていく過去の記憶。それを探る鍵を握るのは、テロリスト、クゼ。義体産業の中枢ハンカ・ロボティクスの研究員を次々殺していく彼の目的とは。そして彼の知る、「少佐」の秘密とは。
士郎正宗の手になる原作が世に出て以来、押井守、神山健治、黄瀬和哉とそうそうたる監督の手によってアニメ化されてきた『攻殻機動隊』の実写版には、その蓄積が色濃く流れ込む。冒頭の義体が組みあがるシークエンスは押井守『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をそのまま実写に置き換えたかのごときで、それ以降もそれまでのアニメとして我々の既に知る場面を実写化したような場面が連続し、ある種のコラージュをみているような感覚がある。
舞台はおそらく日本なのだろうが(公安9課は総理=prime ministerは直属のようだし)、登場人物の多くは英語でしゃべっているのであまり日本を舞台にしている感じはしない。街並みはこれも押井版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』的な、オリエンタルな色彩が強いのだけれど、ごてごてしたAR(拡張現実)に彩られた世界はこの映画版独自の魅力なのかな、という気はする。ハリウッド版独自の設定と言えば、本作の時代設定はARISEよりさらに前、義体化技術がまだまだ普及途上の時代が舞台になっていることも大きな特徴だろう。公安9課メンバーもおそらく義体化率はそれほど高くなくて、全身義体のサイボーグは少佐がはじめての成功例だという。
押井守は上の記事で、本作は「言っちゃえば哲学的には大幅に後退している」と感想を述べているが(そのあとポジティブにフォローもしてるけど)、その哲学的な後退はまあこの時代感を反映しているのかな、とも思う。押井版神山版みたいにめちゃくちゃ登場人物がしゃべる感じではないので、そういう方面の掘り下げが期待できないがゆえに、そういうむしろ素朴な問いと回答が許されるような状況を設定したのでは、とも。
まあ別に高尚な哲学をもとめて映画館に足を運ぶわけじゃなし、この映画の魅力はやっぱりビジュアル方面にあると思って、「おれのしってる場面がハリウッドによって実写化されとる!」的なのがやっぱり楽しく、でそこかしこに制作側もこれまでの攻殻機動隊が好きでしょうがないんだろうな、というのが伝わってくるのでうれしかったです。その意味で、この『ゴースト・イン・ザ・シェル』は観客の記憶とある種の特異な関係性をもつ映画では、という気がして、視聴する我々の記憶から資源を引っ張り出してそれが面白さになっている、でもフォーマットとしてはSFアクションが展開されているのでオタク的なスノビッシュな感じが迸っているわけでもない、みたいな、そういう映画だったなと思います。全体として公安9課ガバガバすぎるとか悪の手先の詰めが甘いとか守備力は低めだったとおもうんですが、まあ守備力高い映画が楽しいってわけじゃないですからね、大変楽しかったです、はい。
関連
『攻殻機動隊』関連の感想
クゼのあれは『東のエデン』オマージュですよね!!!!!(ほんとか?)
『ゴースト・イン・ザ・シェル』公式アートブック THE ART OF 攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL
- 作者: デビッド.S・コーエン
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/04/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2017/04/07
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (1件) を見る
【作品情報】
‣2017年/アメリカ
‣監督: ルパート・サンダース
‣脚本:ジェイミー・モス、ウィリアム・ウィーラー、アーレン・クルーガー
‣出演
- 少佐 / ミラ・キリアン / 草薙素子 - スカーレット・ヨハンソン(田中敦子)
- バトー - ピルー・アスベック(英語版)(大塚明夫)
- 荒巻大輔 - 北野武
- オウレイ博士 - ジュリエット・ビノシュ(山像かおり)
- クゼ・ヒデオ - マイケル・ピット(小山力也)
- トグサ - チン・ハン(山寺宏一)
- ラドリヤ - ダヌーシャ・サマル(山賀晴代)
- イシカワ - ラザラス・ラトゥーリー(英語版)(仲野裕)
- サイトー - 泉原豊
- ボーマ - タワンダ・マニーモ
- カッター - ピーター・フェルディナンド(英語版)(てらそままさき)
- ダーリン博士 - アナマリア・マリンカ(加納千秋)
- 素子の母親 - 桃井かおり(大西多摩恵)
- 素子 - 山本花織
- ヒデオ - アンドリュー・モリス
- 赤い着物の芸者 - 福島リラ
- トニー - ピート・テオ
- オズモンド博士 - マイケル・ウィンコット(広田みのる)
- リー - (坂詰貴之)
- 大統領 -(乃村健次)