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ありふれた/劇的な生――『国際市場で逢いましょう』感想

国際市場で逢いましょうBlu-ray

 しばらく前から気になっていた『国際市場で逢いましょう』がNetflixで配信されていたので視聴しました。簡単に感想を書き留めておきます。

  『国際市場で逢いましょう』は、朝鮮戦争をきっかけに離れ離れになってしまった父と妹を待ちながら朝鮮半島の現代史とともに自分自身の歴史を生きた男の物語。韓国版『フォレスト・ガンプ』なんていう惹句をネット上でみかけたけれど、一代記を通してナショナルヒストリーを語ってもみせる、という形式はたしかに『フォレスト・ガンプ』を想起させもするし、現代の創業者である鄭周永が顔を出したり、歴史上の人物と主人公の人生が交錯したりするあたりに類似性は見出せる。しかし、『国際市場で逢いましょう』の主役であるドクスの物語は、もっとささやかで、ありふれた人生の物語であるようにも思う。

 朝鮮戦争での家族との別離、逃げ延びた先での差別的な目線、家族を支えるために若い時期から身を粉にして働き、西ドイツに出稼ぎにでたり、ヴェトナム戦争の渦中に飛び込んだり。もちろん物事一つ一つはドラマチックで劇的でもあるのだろうけど、あくまで大きな歴史のながれ、社会状況に翻弄され続ける人間として、ドクスは存在する。

 彼がテレビ番組の企画をきっかけにして妹と再会するくだりは、劇中でもさんざん再開のドラマがブラウン管上で反復される様子が写されることからも、このと湯煎半島の歴史のなかにあってはあくまで「ありふれた」ものなのだろう。再会の場面の冗長さ、過剰さは、そうした現実において「ありふれた」出来事が否応なしに帯びた冗長さ、過剰さなのだろう。

 そうしたありふれた、しかし同時に劇的な物語であったからこそ――またつねに「誰かのために犠牲になる」ことを厭わない儒教的なヒーローの物語でもあるからこそ、おそらく韓国において多くの観客を得たのだろう、と思う。現代から過去へと切り替わるカットはどれも自然かつお洒落な感じで、こういう語り口で国境を超えて広く共有されうるナショナルヒストリーが隣の国で語られた、ということがうらやましくもあって、こういう形で私たちの生きた時間と場所の歴史が語られてもいいのではないか、と強く思った。

 三丁目の夕日的に過去を美化して再構成するのではなく、歴史のなかでありふれた人生を切り取ってほしいというか。いまのこの場所では、そのありふれた生を描くことすら「美化」とノスタルジーにからめとられてしまうような気もするのだけれど。

 木下恵介監督の『陸軍』、あるいは今敏監督の『千年女優』、もしくはテレビアニメ『コンクリート・レボルティオ』なんかはそういう想像力とリンクするのかも、とか思ったりしました、はい。

 

 

  コンレボははやいとこ2期をみたいところです(おそい)

amberfeb.hatenablog.com

 

 

【作品情報】

‣2014年/韓国

‣監督:ユン・ジェギュン

‣脚本:ユン・ジェギュン

‣出演

  • ドクス:ファン・ジョンミン
  • ヨンジャ:キム・ユンジン
  • ダルグ:オ・ダルス
  • ナム・ジン:ユンホ
  • ドクスの父:チョン・ジニョン
  • ドクスの母:チャン・ヨンナム
  • ドクスの叔母:ラ・ミラン
  • クッスン:キム・スルギ