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マーベル世界のスパイダーマン――『スパイダーマン:ホームカミング』感想

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 『スパイダーマン:ホームカミング』を2D字幕版でみました。以下感想。

  アベンジャーズをふたつが割れた戦いの後。スパイダーマンとしてアイアンマン=トニースタークにスカウトされたピーター・パーカーは、日常に戻りニューヨークで日々を過ごしていた。トニー・スタークが再び自身を頼りにしてくれる日を心待ちにしながら。そんな彼の周りにうごめく不穏な影。幾度となく繰り返されたアベンジャーズたちの戦いのなかで、避けがたく生じた世界の歪み。その歪みを利用して生きるものたちが日常世界を破壊するとき、ピーター・パーカーの新たな戦いが始まる。

 マーベル・シネマテッィク・ユニバースの16作目にして、スパイダーマン新シリーズ1作目。かつてトビー・マグワイヤ、アンドリュー・ガーフィールドらが主演した実写映画版と比較すると、先達が一から「スパイダーマンの世界」を創り上げるという役目を負ったのに対して、この『ホームカミング』はこれまでおおよそ10年にわたって連綿と語られてきた、「MCUの世界」のなかにスパイダーマンという存在が既に埋め込まれている。それが先行する作品と比したときの大きな差異になっていて、その差異を十二分に生かして物語を語ってゆく。

 それが端的にあらわれているのはヴィランであるエイドリアン・トゥームス = バルチャーの存在で、彼はこれまで語られてきたアベンジャーズの戦いなしには存在できない人間として世界にあらわれる。冒頭、『アベンジャーズ』での戦いの直後の傷ついたニューヨークでの経験こそが、彼を悪の道に導く。敵役をこのようにして世界の一部に巧妙に組み込み、またスパイダーマンの後見役としてスクリーンに映っている時間は決して長くはないはずにも関わらず、絶大な存在感を放つトニー・スターク=アイアンマンを配したことによって、MCUのなかのスパイダーマン、という立ち位置は非常に明瞭になったように思われる。トニー・スタークは本作で「父」としての顔をのぞかせていて、それが非常に新鮮というか、新たな関係性のなかでキャラクターに新たな深みが生まれたという感じもする。ヒーローになるピーター・パーカーの物語は、その父と適切な関係性・距離感を手にする物語として語られている。

 そうしたマーベル世界への帰郷(homecoming)という強烈な磁場があり、スパイダーマンを世界に組み込むという趣向が前景化しているがゆえに、トビー・マグワイヤ版・アンドリュー・ガーフィールド版のようなピーター・パーカー自身の物語、というう雰囲気は薄れたような感触もあるが、先行作品との差異化という点だけではなくて、非常に楽しくライトな調子に貫かれてもいるし、トム・ホランドスパイダーマンというキャラクターは見事に立っていたのではないか。

 そういう意味で非常に楽しんだのだけれど、この『ホームカミング』をみて改めて感じたのが、MCUの作品群によって語られる物語が、911後のアメリカの歴史の露骨な暗喩あるいは偽史として語られているのではないか、少なくともそういう見立てが可能ではないか、ということ。ニューヨークを見舞った悲劇の記憶をスーパーヒーローの活躍で塗り替える、という試みとして『アベンジャーズ』を見立てるならば、その後の作品世界の歴史はありえたかもしれないもう一つの歴史であって、そういう意味で現代・現実との緊張関係を保っている、という気がする。とはいってもあまりに単純すぎる見立てという気はするけれど。

 

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【作品情報】

‣2017年/アメリカ

‣監督:ジョン・ワッツ

‣脚本: ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー、ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ

‣出演