宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

響け、まだ見ぬ彼方に――『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』感想

【チラシ付き、映画パンフレット】劇場版 響け!ユーフォニアム?届けたいメロディ?

 『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』をみました。以下感想。

  父から届いた荷物。それが彼女のその後を運命づける。彼方にあってただその楽器によってしか最早つながりのない父と、近くにあって理想の運命を成形しようとする母、ふたつの力が彼女を束縛する。彼女の物語を、私たちは知らなかった。そのことはしかし、決して知ることが叶わないことを意味しない。彼女の背を見つめる探偵によって、彼女の物語を私たちは知る。探偵の名を、黄前久美子という。

 テレビアニメ『響け!ユーフォニアム2』に新規カットを加えて再構成したこの劇場版は、前作『北宇治高校吹奏楽部へようこそ!』がそうであったように、極めて大胆にストーリーラインを刈りこみ、ソリッドな1本の映画として成り立っている。前作が二人の少女に焦点をあて、黄前久美子高坂麗奈を知る物語という骨子を前景化させたのと同様、今回もまた主軸となるのは二人の少女。高坂麗奈に代わって、黄前久美子田中あすかの物語、すなわちユーフォニアムに選ばれた/を選んだ少女の物語が語られる。

 『響け!ユーフォニアム2』については、以前テレビ版を視聴したときに書いた感想で、自分が語るべきことはおそらくあらかた言葉にできた、ように思う。だからこの感想も、下のふたつの記事の反復の域を出ないだろう、と思う。


  田中あすかの物語は、黄前久美子にとって、自身の姉の物語、すなわち「自分で決められなかった物語」の反復として立ち現れる。黄前麻美子の物語と田中あすかの物語というまったく別の物語が、黄前久美子という探偵を介して重なったことによって、いままさに進行している、破局へと向かうかと思われる物語が回避される。

 この構造によって、何者にもなれなかった、ありふれた陳腐な物語、すなわち私たち自身の物語は、かすかな意味を付与され、ある種の救済を得る。なんら特別でない私たちの物語。それは黄前麻美子という一人の人間に仮託されてはいるが、同時に吹奏楽部の名もかたられぬ部員たちにも分有されていて、とりわけ、部長の小笠原晴香は、田中あすかとの対比で、「特別」でない、という運命が強調されていたように思う。

 だから、この劇場版において、テレビシリーズで映し出された様々な物語を捨象してなお、彼女の物語がフィルムに焼き付いていることは巨大な意味を持つ。黄前麻美子の物語が、探偵の傍らにあって田中あすかの物語へと流れこむ、そのような物語であるならば、小笠原晴香の物語は、田中あすかと同じ時間と空間を共有しながらも、それとは確固として別の物語なのだ。そのようにして、彼女の物語は、黄前麻美子の物語のそれとは違った仕方で、何者にもなれない私たちの物語を救う。

 陳腐で無意味なこの廃墟で、それでも、陳腐で無意味なりに各々の物語を歩むことを強いられた私たちの物語は、それぞれの仕方でまだ見ぬ彼方へと足を踏み出さねばならない、そのような運命を背負う。『響け!ユーフォニアム』の世界には、そうした無数の物語の響きがある。劇場版においてなお、その響きが失われることはなかったということ、むしろその響きはより強度を増してさえいたことに、救われたような気がする。

 

関連

 

amberfeb.hatenablog.com

 

 

amberfeb.hatenablog.com

 

 

『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』 オリジナルサウンドトラック「The only melody」

『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』 オリジナルサウンドトラック「The only melody」

 

 

【作品情報】

‣2017年

‣総監督: 石原立也

▸監督:小川太一

‣原作:武田綾乃

‣脚本:花田十輝

‣キャラクター原案:アサダニッキ

‣キャラクターデザイン:池田晶子

美術監督:篠原睦雄

‣音楽:松田彬人

‣音楽制作協力:洗足学園音楽大学

‣アニメーション制作:京都アニメーション